潮風のブルース #18

#18  午前4時のペダル

マリーンの身の上話につき合ったあと、
私はファミレスから歩いて帰宅した。
バスタブにぬるい湯をはり、
疲れた体を沈めた。

久美子の失恋といい、マリーンの不倫といい、
二人とも好きになった男を
追いかけ捨てられている。
彼女たちにしてみれば、
悩み苦しんだ辛い経験となったが、
私にはそんな彼女たちがどこか羨ましく映った。

これまで恋愛で、
それほどの痛みを覚えたことがあっただろうか。
学生の時もOLになってからも、
言い寄ってくる男たちと
適当に付き合ってきただけだ。

そして、興味を失うと私の方から逃げていく。
そんな繰り返しだったような気がする。
結局、離婚もその延長だったのかも知れない。
久美子やマリーンのように
男と正面から向き合うことができない。
ひとりの男を心から愛したことがない、
つまらない女。

バスタブからあがって、
ボディソープで身体を洗いながら、
鏡に写る自分がまるで欠陥品のように思えた。
私はとても惨めな気持ちに襲われ、
自分で自分を抱きしめていた。

「泣きたくなったらいつでも」
ふと頭の中にしゃがれ声が蘇った。
私はもう一度、鏡の中の自分を見た。 

自分の人生に必要なものを手に入れるために
離婚してここに移り住んだのではないか。
私は熱いシャワーを浴びると、
急いでバスルームを出た。
あとすこしで午前4時になろうとしている。
急いで服を着る。

自転車を走らせるために、
ジーンズを選んだ。
私は南口の路地裏を目指して
ペダルをこいだ。
BARジェラスの看板はまだ灯っていた。

(19話に続く/全#30)

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2月17日(日) ちがさき上映犬ポチ主催上映会
『 ひ か り の 国 の お は な し 
   ~ あの世の学校からのメッセージ ~ 』
(午前)10:30~ (午後)14:30~ 
一般1000 小中高500 未就学無料
茅ヶ崎南口徒歩5分 ジャム・イン・ザ・ボックス
(予約) ぎんしろう 090-7271-0766
https://kokucheese.com/event/index/550456/ 
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