潮風のブルース #25

#25 永遠の忘れ物

BARジェラスのカウンターで、
泣き始めたユキの肩を久美子が黙って抱いた。
アニキもハルオも、
そして海賊も何もしゃべらない。
静かなジャズの調べだけが
そんな私たちを包みこむ。

ヨシノリが海に出たまま戻らない。
その事実を聞かされたときから、
私も言葉を失っていた。
すでに捜索は打ち切られているらしい。

そう言えば、
体調を崩して伏せっていたとき、
微熱に苛まれる頭で、
海の方に飛んで行くヘリの音を
聞いたような気がする。

あれは、ヨシノリを捜索する
ヘリだったのではないか。
私にとって、
新しい世界への入口は
紛れもなくヨシノリだった。

ユキもまたそうだったに違いない。
ヨシノリは慕っていたアニキの店に
ユキを連れて現れていた。
そこで、久美子とも知り合ったらしい。

アニキも、ハルオも、久美子も、海賊も、
小さな町の夜の住人たちは
みんな顔見知りなのだ。
この夜街は、すべてがつながっている。

入口がどこだろうが、
奥にすすめば中ですべてがつながっている。
そんな気がする。

突然、ジャズがとまった。
海賊が棚の奥から取り出した
CDをセットした。
「これ、あいつに返さなきゃ」

海賊はシングルモルトを
小さなグラスに注ぐと、
空いた席に置き、
アンプのボリュームを
右に大きくひねる。

店の中に、むせび泣くような
ブルースギターが流れ始めた。

(#26に続く/全#30)

※マイクロシアター上映会まであと6日!
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2月24日(日)週末しっぽパタパタ上映会
マンガをはみ出した男 ~赤塚不二夫~
16:00~ 定員15名 事前登録制 ¥900
少人数チビチビやりながらの上映会なのだ
茅ヶ崎北口徒歩3分 お散歩ポチシアター
登録 https://popcorn.theater/events/1569
問合せ ginshiro.urabe@gmail.com
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