潮風のブルース #17

#17  深夜のファミレス

DeepBlueは、その日も大盛況だった。
勤め始めてまだ日の浅い私にも
顔なじみの客がつくようになっていた。
いくつかのテーブルを渡り歩いて
客の喜ぶお愛想も言えるようになった。

突然、あるテーブルが騒がしくなった。
若いホステスが立ち上がって
客の男にわめきだした。
オーナーのハルオが飛んでいって、
ホステスを下げる。
そのあと、ママが取りなそうと
テーブルにつくが、
客は怒って帰っていった。

ホステスも生身の人間である以上、
ときに客との間にトラブルも起きる。
閉店後、外に出たとき、
扉の外でホステスが一人うずくまっていた。
飲みすぎて気分が悪くなったのかも知れない。
声をかけると、それは
騒ぎを起こした若いホステス、
マリーンだった。

マリーンは私に抱きついて泣き出し始めた。
困った私は彼女を促してタクシーに乗せ、
海沿いのファミレスに向かった。
深夜のファミレスはほとんど客がいなかった。

マリーンは珈琲を一口飲んで話し始めた。
どうやら、彼女は客に熱をあげていたらしい。
ところが、その男に妻子があることを知り
激怒したというのだ。

男は遊びのつもり、女だけが本気だった。
二人の間にどんなことがあったのか知らないが、
夜街にはよくある話だ。

男は束の間の恋人気分を味わいたくて、
女に甘えにやって来る。
私たちホステスには、面白いゲームの
提供者であることが求められる。
しかし、それは互いに承知の恋愛ゲーム。

そうはいっても男と女、
深みにハマることも少なくない。
悲恋になることを知りながらも、
男は女を、女は男を求める。
人間というのもは、
どうやらそういう風にできているらしい。

話し疲れて落ち着いたマリーンを
タクシーに乗せて見送ると、
私は新しい珈琲を入れて窓辺の席に戻った。
窓の外を通過して行くヘッドライトを
ぼんやりと眺めた。
海賊に逢いたいと思った。

(#18に続く/全#30)

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2月17日(日) ちがさき上映犬ポチ主催上映会
『 ひ か り の 国 の お は な し 
   ~ あの世の学校からのメッセージ ~ 』
(午前)10:30~ (午後)14:30~ 
一般1000 小中高500 未就学無料
茅ヶ崎南口徒歩5分 ジャム・イン・ザ・ボックス
(予約) ぎんしろう 090-7271-0766
https://kokucheese.com/event/index/550456/ 
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