潮風のブルース #28

#28 夕暮れの風向き

午後ひとりで浜に出た。
昨夜、ハルオから言われた提案を
改めて考えてみたが、
やはり引き受けるには自信がなかった。

ふと、防波堤の人影に目が止まった。
海辺の景色に似合わない
ビジネススーツを着た女がいた。
 久美子だった。

防波堤のコンクリートに座って
缶ビールを飲んでいる。
その様子は、遠目にも
どこか穏やかではないように見えた。

近づいていくと、
私に気づいた久美子が
缶ビールを持った手を上げた。
「会社は?」と横に座った私に、
久美子は「いろいろあってね」と
弱々しい笑みを浮かべた。

詳しくはしゃべらないが、
どうやら突発的に
会社を辞めてしまったらしい。
励ますべきか、慰めるべきか、
私にはわからなかった。
その場に海さえあれば、
私は必要ないと思った。

人は悩みを抱えたとき、
無意識のうちに海に近づくのだろうか。
しかし、海は何も答えてはくれない。 

私は励ますどころか、
自分の悩みを久美子に相談していた。
「本気になれないならやめた方がいいと思う」

久美子のその言葉は
私がいま
何を考えなければならないかを教えてくれた。
彼女と話すと、
いつも自分の中の問題が明確になる。

久美子のような存在がそばにいてくれるなら、
ハルオの提案が受けられるような気がした。
迷っているときに、
たまたまであったヨシノリが
私を前に進めてくれたように、

この久美子との出会いがまた
意味があるのだろうと思う。
すべての出会いが自分の明日につながっている。

気がつくと、夕暮れ...。
陸風が海風に変わっていた。
私の中の風向きも確実に変わっていた。

「一緒にお店やる気ない?」
私の唐突な問いに
久美子は驚いたような顔をした。
そして、海の方に視線を移したあと、
好奇心あふれる顔で振り向き
「それ、いいかも」と笑った。

(#29に続く/全#30)

※マイクロシアター上映会まであと3日!
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2月24日(日)週末しっぽパタパタ上映会
マンガをはみ出した男 ~赤塚不二夫~
16:00~ 定員15名 事前登録制 ¥900
少人数チビチビやりながらの上映会なのだ
茅ヶ崎北口徒歩3分 お散歩ポチシアター
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問合せ ginshiro.urabe@gmail.com
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