潮風のブルース #19

#19  幸福な時間

深夜4時。 
BARジェラスの扉を押し開くと、
「久しぶり」と
海賊がしゃがれ声で迎えてくれた。

カウンターにいたカップルの男が振り返った。
金髪の外国人女性を連れたハルオだった。
ハルオは、気さくな顔で笑っている。
どこに座ろうかと迷っていると、
ハルオが横のスツールを指差した。

海賊がオシボリとコースターをセットした。
私は、離れて座るわけにもいかず、
ハルオを外国人女性とはさむ形で座った。
他に客はいなかった。

ハルオは相当酔っているらしく、
両側の女の肩に両腕を回して上機嫌だった。
外国人女性が、英語でハルオの向こうから
怒ったように私に何か言った。
ハルオは両手を広げて知らん顔で
ワイングラスを持ち上げている。

さらにまくしたてる外国人女性に、
海賊が英語で諭し始めた。
丁寧なしゃべり方だったが、
品良く飲まないと
叩き出すというような英語だった。

その一言で、英語がしゃべれる海賊に
興味を示した外国人女性は従順になった。
「いつもそうなんだよ」と
ハルオが私に吐き出すように言った。

女性を口説こうとここに連れてくると、
みんな海賊の方に興味を持つのだと言う。
「君もその一人だろ?」と
伺うような眼差しを向けた。
私は迷うことなく「そうかも」と
冗談っぽく答えた。

その答え方が意外だったのか、
ハルオはしばらく私の顔を見ていた。
私は、その視線を無視するように
海賊にホワイトレディを注文した。 

私の注文で、海賊と外国人女性との
会話が途切れた。
再び、ハルオが下手な英語で
外国人女性を口説き始める。

海賊が私のためにカクテルを準備する。

私は黙って、シェイクする海賊を眺める。
私の前に置かれたグラスに
ホワイトレディが満たされるまで、
海賊はグラスから視線を外さなかった。
それは、私が彼を独占出来る
唯一の幸福な時間だった。

(#20に続く/全#30)

---------------------------------------------
2月17日(日) ちがさき上映犬ポチ主催上映会
『 ひ か り の 国 の お は な し 
   ~ あの世の学校からのメッセージ ~ 』
(午前)10:30~ (午後)14:30~ 
一般1000 小中高500 未就学無料
茅ヶ崎南口徒歩5分 ジャム・イン・ザ・ボックス
(予約) ぎんしろう 090-7271-0766
https://kokucheese.com/event/index/550456/ 
---------------------------------------------