潮風のブルース #26

#26 連絡の取れない場所

ヨシノリが海に忽然と消えてから、
一ヶ月が過ぎた。 

どこからか親族が現れ、
ヨシノリが借りていた
古く小さな平屋を整理していった。

そして、夜街は以前と変わらぬ顔に戻った。
行き場のなくなったユキは、
私のルームメイトになった。

朝、私が目覚めると、
いつも部屋の中にユキの姿はない。
ユキは、浜辺に座って長い時間
海を見つめて帰ってくる。

そして、昼間の時間を何となく過ごし、
私たちはほぼ同じ時間に勤めに出る。
ユキは、ヨシノリとよく行っていた
アニキの店で働き出した。

アニキの店でもDeepblueでも、
そしてジェラスでも、
ヨシノリのことを誰も話題にしなくなった。

しかし、それはみんなが彼のことを
忘れ去ったというわけではない。
以前の状態に戻っただけなのだった。

ヨシノリは、自分の方から
積極的に連絡をとるような人間ではなかった。
同じ町に住みながら連絡が取れない男だった。
だから、何も変わらないといえば変わらない。

今でもヨシノリはこの町のどこかで生きていて、
人知れずサーフィンをしているのではないか。
そして、いつかフラリと店に入ってくる。
誰もがそう思いたがっていた。

考えてみれば、この世を去るということは、
ただ、会ったり連絡したりできなくなる
というだけのことなのかも知れない。

事実、私がこれまで関わった人たちの中でも、
消息を知り得ない人もたくさんいる。
ヨシノリもまた、その内のひとりなのである。

残された者の現実逃避なのかも知れないが、
悲しみとうまくつきあっていくための智恵だろう。

その夜、店がはねてから私はジェラスに寄った。
客のいない店内で、
海賊がギターを抱えて爪弾いていた。

(#27に続く/全#30)

※マイクロシアター上映会まであと5日!
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2月24日(日)週末しっぽパタパタ上映会
マンガをはみ出した男 ~赤塚不二夫~ 』
16:00~ 定員15名 事前登録制 ¥900
少人数チビチビやりながらの上映会なのだ
茅ヶ崎北口徒歩3分 お散歩ポチシアター
登録 https://popcorn.theater/events/1569
問合せ ginshiro.urabe@gmail.com
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