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教養を身につける方法

 ついこの間、Twitterのタイムラインをごろごろとスクロールしていると、皇族の方がお書きになった『赤と青のガウン』という本が人気であるという投稿を見かけた。その投稿のスレッドを見ていると「天皇陛下が親王時代にお書きになった『テムズとともに』というオックスフォード留学時代の本があって、それも面白いよ」とあった。

 そういえばこの間学会でお会いした先生がオックスフォードかケンブリッジに行って、現地の学生がすさまじい勢いで勉強していてあれはちょっと真似できないね、とおっしゃってたな……と思い出したり。

 さらにそういえば、我が愛するアーサー王伝説の円卓の騎士にして王の甥・ガウェイン卿、彼を尊みMAX最高峰エベレストの騎士として描いた中世英国詩『サー・ガウェインと緑の騎士』。
 あれに出てくるガウェイン卿、めっちゃ皇太子時代の陛下に似てるんだよね……尊みぶりが。

 よし、ガウェイン卿研究の一環だし、読むか!
 そう思って手にとった『テムズとともに』。
 なかなかにガチだった。
 いや、ガチそのものだった。

 まずは速攻で英語をがっちり勉強されている殿下。英語はタダで簡単にしゃべれるものじゃないんだな、ということを身に沁みていきなりわからせられる……すみません、近道とかないですね。ドストレートにバチバチに勉強するべきですね。

 読み進めていって思うのは殿下の周りはクラシック音楽にあふれているなぁ、ということである。モーツァルトやシューベルトなどのメジャーどころはもちろんだが、留学先の影響で英国のマイナーな音楽家ももちろん出てくる。ブリテンとかタリスとか。
 そういえば歴史好きのフォロワーさんが漫画に描いてたな、タリス……と思いながら、本を読みつつ、タリスの曲をBGMにして楽しんだ。

 また、陛下は精力的にあちこち史跡になるようなところを見て回られている。英国滞在をいいことに英国の史跡ガンガンである。無論英国ゆえに中世もりもりである。
 私はアーサー王伝説が好きなので、当然ながら中世ヨーロッパの話には弱い。そして楽しい。よくあるロココ時代やヴィクトリア朝を中世ヨーロッパと間違えている……とかいう話は陛下の場合、欠片の微塵もない。ガチの中世の話をしてくれる。ありがとうございます陛下。ストレスたまらないです。

 そしてテムズ川についてや、オックスフォードについて詳細に述べていかれる陛下。研究者の書いてる論文と、なんかノリが近いです。むしろまんまです。陛下、研究者気質なんでしょうね。
 テムズ川の水運とか日本でフツーの生活してたら全く関わらないですからね。でもせっかくテムズの傍にいくんだからテムズの研究をというのは正しいよな。研究するなら対象から近い方が史料も大量に手に入るし……。

 それにしても見ていると、すさまじく学問に励まれる傍ら、陛下、ゴリゴリに社交されていて、とんでもないな……と。
 ちょいちょいエリザベス女王陛下が出てくるあたりが現実感がないんですよね。女王と普通に思い出話しとる……ハッ!そういえば筆者、陛下だった!!(このときは親王だけど、次々皇位継承者には違いない)と我に返ったり。お話の中に入りこんで拝読していると、陛下が殿下だったことをちょっと忘れるのです陛下。

 外国の王族とたくさん交流されているのを拝読していて、そういえば、陛下的には同僚が外国の王族ということになるのか……と思うと、外国の王族との交流は大事だな、と思う。同じ目線で話ができる仲間がいると心強いですもんね。

 皇族あるあるエピソードとしては、身分を隠して村祭りに行ったり、夜遊びに行ったり、B&Bに泊まったりしたエピソードだ。身分を隠して、人々と交流するのは陛下も非常に楽しまれたようである。
 王族ものを読んでいるとよく王族の人がこっそり身分を隠して市井の人と交流して楽しんでいるシーンがあるが、あれって本当にあるんだな……と思いつつ。
 年がら年中誰かが警護について、人目にさらされて、人に対応し続けるのってやっぱり窮屈なのだろうな、と月並みなことを思ったり。

 そういえば、アーサー王物語でも王の甥のガウェイン卿、自分とばれるまではあえて自分が誰か公言しなかったりするなぁ……と。いつ相手が敵になるかわからない警戒もあるだろうけど、自分とバレてない状態の解放感を楽しんでいたりもするんだろうか。

 そんな皇族独特の話と、オックスフォード留学の詳しい話が読めて非常に楽しかった。
 それにしても芸術に学問にスポーツに社交に目が回るように忙しい。
 しかしそれはとても豊かなことだ。教養というものは、こうやってめいっぱい行動して身につくのだな、と思う。

 私の愛する円卓の騎士ガウェイン卿もすばらしく礼儀作法を心得ていて、冒険(円卓の騎士は冒険するのである)先の城の人々にこんなひそひそ話をされている。

「さあ、いまから美しい作法のお手本と、洗練された会話の非のうちどころのない見本をとっくりと見せていただこうじゃないか。このような良い育ちの権化のような人が来てくれたのはもっけの幸い、こちらから頼まなくても、どんな風にしゃべったらよいものか見せてくれようというものさ。(後略)」

『サー・ガウェインと緑の騎士』
作者不明 J.R.R.トールキン現代英語訳 山本史郎日本語訳 原書房

 私もガウェイン卿に倣った中世の城の人々に倣って、陛下をちょっと見倣わないと。陛下、お手本を本当にありがとう存じます。

 と、いうわけで。
 こちらの本、オックスフォードの留学生活が気になる方にはもちろん、教養について知りたい方におすすめです。

 物事は一流に教わるものがいいとされます。
 それでいうとこの本ほどふさわしいものはありません。
 なにしろ、教養において、一流どころではなく最高峰の御方がお書きになった本なのですから。

『テムズとともに 英国の二年間』徳仁親王著 学習院教養新書

浮き沈みはげしき吟遊詩人稼業を続けるのは至難の業。今生きてるだけでもこれ奇跡のようなもの。どうか応援の投げ銭をくださいませ。ささ、どうぞ(帽子をさし出す)