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93)ドコサヘキサエン酸はアディポネクチンを増やして老化とがんを防ぐ

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術93

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【脂肪組織は生体内の最大の内分泌臓器】

脂肪組織は、余剰エネルギーを中性脂肪として貯蔵する単なるエネルギー貯蔵臓器と考えられていましたが、近年、アディポサイトカインあるいはアディポカインと総称される生理活性物質を活発に産生・分泌する生体内で最大の内分泌臓器として、個体の恒常性維持や代謝の調節に大きく関わっていることが明らかになってきました(下図)。


図:脂肪組織はアディポカインやサイトカイン、ケモカイン、補体因子などの生理活性物質を産生している。アディポカイン(アディポネクチン、レプチンなど)は、インスリン感受性、心血管疾患、関節炎や肥満などにおいて重要な役割を果たしている。



【アディポネクチンはAMP活性化プロテインキナーゼを活性化してインスリン感受性を高める】

アディポネクチンはアディポカインの一つです。脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンのようなタンパク質で、肝臓や筋肉細胞のアディポネクチン受容体に作用してAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、インスリン抵抗性を改善し、動脈硬化や糖尿病を防ぐ作用があります。


アディポネクチンは血中に1分子ずつバラバラにではなく、複数個がくっついた形で存在しています。低分子量(3量体)、中分子量(6量体)、高分子量(12~18量体)です。中でも高分子量アディポネクチンの生理活性が最も強いことが知られています(下図)。


図:アディポネクチンは主に脂肪細胞から分泌されるアディポカインの一種で、低分子量(3量体)、中分子量(6量体)、高分子量(12~18量体)の形で存在する。肝臓や筋肉細胞の受容体に作用してAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、インスリン抵抗性を改善し、動脈硬化や糖尿病を防ぐ作用がある。


肥満が老化やがんの発生・増殖を促進することは多くの研究で明らかになっています。その最も大きな理由は、「インスリン抵抗性」を高めるためです。

インスリン抵抗性とはインスリンの作用が低下した状態のことです。インスリン抵抗性になるとそれを代償するために血中のインスリン濃度が高まります。インスリンは老化速度とがん細胞の増殖を促進する作用があります。

インスリンは51個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、血糖値(血中のブドウ糖の量)が上がると膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌され、血糖値を一定以上に上昇しないように調節する働きをおこなっています。

細胞表面にあるインスリン受容体にインスリンが結合することによって作用を発揮し、筋肉細胞へのブドウ糖の取り込みや、脂肪細胞での脂肪合成、肝臓におけるグリコーゲン合成を促進します。


肥満になって脂肪が増えると、脂肪組織にマクロファージなどの炎症細胞が浸潤し、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの産生が増えます。これらの炎症性サイトカインは脂肪細胞からのアディポネクチンの産生を減少させます。

肥満は脂肪組織における炎症を引き起こし、体を一種の慢性炎症状態にしています。この慢性炎症状態は、炎症性サイトカインの産生や酸化ストレスを高め、老化と発がんを促進する原因にもなります。インスリン抵抗性が亢進して血中のインスリン濃度が高くなると、老化を早めて寿命を短くすることになります。

炎症と高インスリン血症は発がん過程やがん細胞の悪性化を促進します。つまり、肥満ががんの発生や悪化を促進する理由の一つは、脂肪の増加によって体内で炎症性サイトカインの増加とアディポネクチンの産生低下が起こるからです。これは、肥満が老化を促進し、寿命を短縮する理由とも関連しています(下図)。


図:肥満による脂肪組織・脂肪細胞の増加は炎症性サイトカインを増やし、アディポネクチンを低下させてインスリン抵抗性を高め、高インスリン血症を引き起こす。インスリンは老化と発がんを促進し、寿命を短縮し、がん細胞の発生や増殖・転移を促進する。
 
 
多くの疫学研究で、血清アディポネクチンの濃度とがんの発生率が逆相関することが示されています。例えば、血清アディポネクチンの濃度と様々ながんの発生率を検討した2002年から2011年までに発表された45編の研究論文をレヴューした総説論文があります(ISRN Oncol. 2012;2012:982769.)。  

これによると、血清アディポネクチンの濃度が高いほど、乳がん、前立腺がん、子宮内膜がん、大腸がん、食道がん、膵臓がんなど多くのがんの発生率が減少することが示されています。
 
また、アディポネクチンはがん抑制遺伝子のLKB1を活性化し、その下流のシグナル伝達系にあるAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)の活性化とmTOR(mammalian target of rapamycin:哺乳類ラパマイシン標的蛋白質)の活性阻害によって、がん細胞の増殖や転移を防ぐ作用があることが報告されています。そして、アディポネクチンは糖尿病や動脈硬化やメタボリック症候群を予防し、寿命を延ばす作用があります。
 
したがって、アディポネクチンの産生を増やすことは、長寿とがん予防の両方を達成するために極めて重要と言えます。



【ドコサヘキサエン酸はアディポネクチンを増やす】

魚油に多く含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)がアディポネクチンを増やすことは多くの臨床研究で明らかになっています。例えば、以下のような報告があります。

Docosahexaenoic acid-enriched canola oil increases adiponectin concentrations: a randomized crossover controlled intervention trial.(ドコサヘキサエン酸が豊富なキャノーラ油はアディポネクチン濃度を上昇させる:ランダム化クロスオーバー介入試験)Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2015 Jan;25(1):52-9.

この臨床試験は、肥満でメタボリック症候群の症状がある114人の成人男女が参加しています。油の種類が異なる5種類の食事を、4週間のウォッシュアウト期間で区切られて、それぞれ4週間摂取しました。3000 キロカロリー当たり60gの油を含む食事で、油は次の5種類です。

1)トウモロコシ/ベニバナ油混合 (リノール酸が多い)
2)亜麻仁/紅花油混合(α-リノレン酸が多い)
3)従来のキャノーラ油(オレイン酸が多い)
4)高オレイン キャノーラ油 (オレイン酸含有量が最も多い)
5)ドコサヘキサエン酸(DHA)強化高オレイン キャノーラ油(オレイン酸とDHAが多い)
 
その結果、DHA強化キャノーラ油が最も血漿アディポネクチン濃度を増加させ、炎症性サイトカインのインターロイキン-1βや炎症反応(CRP)を低下させました。

つまり、DHA が豊富なキャノーラ油は、植物由来の多価不飽和脂肪酸(リノール酸、αリノレン酸)と比較して、アディポネクチンを増やし抗炎症効果を発揮するという結果です。
以下のような報告もあります。

Effect of n-3 fatty acids supplementation during life style modification in women with overweight.(太りすぎの女性のライフスタイル変更中のn-3脂肪酸補給の効果)Cent Eur J Public Health. 2018 Dec;26(4):265-271.

この研究では、肥満の女性が減量の目的でライフスタイルを変更している時に、魚油由来のオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸 (EPA) とドコサヘキサエン酸の摂取を増やした場合の効果を検討しています。

その結果、ライフスタイル変更だけのグループに比べて、DHA+EPA摂取を増やしたグループでは体重と腹囲と体脂肪が減少し、最大酸素摂取量が増えました。また、DHA+EPA摂取群では血漿中のアディポネクチンの濃度が増えていました。

アディポネクチンはインスリン抵抗性を改善して、インスリン濃度を低下させます。インスリンは脂肪合成を促進して体脂肪を増やす作用があります。DHAとEPAは脂肪組織におけるアディポネクチンの産生を増やし、インスリン抵抗性を改善することによって減量効果を促進すると考えられます。
 
以上のことから、魚油に多く含まれるドコサヘキサンエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取を増やすことは、アディポネクチンの産生を増やし、炎症を軽減し、インスリン抵抗性を改善する効果によって、老化とがんを予防し、健康寿命を延ばすことができます。(下図)


図:過食や運動不足で肥満になる(①)。肥満はアディポネクチンの産生を低下し(②)、インスリン抵抗性を亢進する(③)。その結果、高インスリン血症(④)になり、老化と発がんを促進する(⑤)。インスリン分泌亢進が長期間続くと、膵臓のβ細胞が疲弊し、インスリン分泌が低下し、糖尿病になって高血糖になり(⑥)、老化と発がんを促進する(⑦)。ドコサヘキサエン酸はアディポネクチンの産生を増やし(⑧)、減量を促進して肥満を改善し(⑨)、老化とがん発生を抑制する(⑩)。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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