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136)糖質の吸収を阻害するアカルボースは寿命を延長する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術136

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【糖質は単糖に分解されて消化管から吸収される】

米やパンや麺類やイモなどに多く含まれる炭水化物(糖質)は、糖がいくつも連なった物質です。このような糖が連なった状態では小腸から吸収されないため、糖を細かく切っていく必要があります。この時に働く酵素がアミラーゼです。アミラーゼなどの酵素が働くことで、糖が2つ連なった二糖類へと変換されます。
 
二糖類もまだ小腸から吸収されません。小腸から吸収されるためには、単糖類として1つの糖にまで分解される必要があります。そして、「二糖類 → 単糖類」への分解に関与している酵素がα-グルコシダーゼです。(図)


図:食品中のデンプンなどの糖質はアミラーゼによって二糖類まで分解され、さらに小腸でα-グルコシダーゼによって単糖に分解されて小腸粘膜から体内に吸収される。
 
 
そこで、このα-グルコシダーゼを阻害できれば、糖の吸収を阻害することができます。このような作用をする薬をα-グルコシダーゼ阻害薬と呼びます。α-グルコシダーゼ阻害薬としてアカルボースなどがあります。
 
アカルボースは小腸粘膜微絨毛膜に存在するα-グルコシダーゼを用量依存的に阻害するほか、膵液及び唾液のα-アミラーゼも阻害し、食後の血糖上昇を抑制します。


図:アカルボースはα-アミラーゼとα-グルコシダーゼを阻害する。



【α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースは寿命を延ばす】

正常細胞の培養液にブドウ糖(グルコース)の量を増やすと老化が促進されることが報告されています。逆にがん細胞の場合は、ブドウ糖の取込みと利用が亢進しているので、ブドウ糖の量を増やすとがん細胞の増殖が促進されます。
 
生体でも、高血糖はがん細胞の増殖を促進し、正常細胞の老化を促進します。したがって、糖質制限はがん細胞の増殖を抑制し、正常細胞の老化を抑制することになります。


がんの治療や再発予防やがんサバイバーにおける長期的な副作用(老化促進や2次がんなど)の予防に糖質制限が役立つことが示唆されます。食事からの糖質摂取を減らすことで上記の効果が得られるのであれば、食品中の糖質の吸収を阻害するα-グルコシダーゼ阻害薬は、糖質制限と同様に、老化抑制やがん予防の効果が期待できると予測できます。
 
実際に、α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースが老化を抑制して寿命を延ばす効果、がんを予防する効果が報告されています。


例えば、米国のシアトルのワシントン大学医学部から、アカルボースがマウスの加齢に伴う臓器機能の低下を抑制することが報告されています。
生後20か月の C57BL/6 オスとメスのマウスに標準食、または1000 ppmのアカルボースを添加した食事を3か月間与えました。その結果、アカルボースを投与されたマウスでは、心臓と腎臓の老化性病変が有意に減少したことが示されました。

C57BL/6マウスの平均寿命はオス826日、メス766日という報告があります。生後20ヶ月(600日)は人間の平均寿命を80歳とした場合の60歳前後に相当します。この年齢からでも糖質制限やアカルボースによる糖質吸収阻害は心臓や腎臓など臓器の老化性病変の進行を遅らせる効果が期待できるということです。

【出典:The antidiabetic drug acarbose suppresses age-related lesions in C57BL/6 mice in an organ dependent manner(糖尿病治療薬アカルボースは C57BL/6 マウスの加齢に伴う病変を臓器依存的に抑制する)Aging Pathobiol Ther. 2021 Jun 29;3(2):41-42.】
 

同様の結果は、米国メイン州のジャクソン研究所、テキサス大学、ミシガン大学など多数の研究機関の共同研究でも報告されています。

老化したHET3 マウスを使用して、400 ppm、1000 ppm、および2500 ppmの3つの用量でアカルボースの効果を検討しました。以前の報告と一致して、アカルボースの効果はオスの方がメスより大きく、オスの寿命の中央値を 1000 ppmで16% 、2500 ppmで 17% 増加させましたが、メスでは1000 ppmで4%、2500ppmで 5%の増加でした。さらに、アカルボースは、オスの肺腫瘍を減少させました。

【出典:Acarbose improves health and lifespan in aging HET3 mice.(アカルボースは老化した HET3 マウスの健康と寿命を改善する)Aging Cell. 2019 Apr; 18(2): e12898.】
 

食事で糖が吸収されると血糖値が上昇します。血糖が上昇すると膵臓からインスリンが分泌されて血糖を低下させます。血糖値の急上昇や急降下は、血管の内壁に大きな負担をかけ、動脈硬化を引き起こす原因となります。

食後の血糖値が急上昇と急降下を起こす状態を「血糖値スパイク(グルコーススパイク)」といいます。スパイクは「とげ」を意味しますが、血糖値のグラフを見るとまさに「とげ」のような形になっています。

α-グルコシダーゼ阻害薬は糖の吸収をゆるやかにします。その結果、血糖値スパイクが抑制され、ブドウ糖による毒性が軽減されます。



【アカルボースは腸内の短鎖脂肪酸を増やして寿命を延ばす】

さらに、分解されずに大腸に移行した糖質が腸内細菌の餌になり、腸内細菌叢を変化させる効果も報告されています。すなわち、アカルボースを投与されたマウスは腸内細菌による短鎖脂肪酸、特に酪酸が増えることが報告されています。


図:酢酸は炭素が2個、プロピオン酸は炭素が3個、酪酸は炭素が4個の単鎖脂肪酸。乳酸は炭素数3個のカルボン酸。これらは腸内で水溶性食物繊維の発酵によって産生される。乳酸は乳酸菌による乳酸発酵で産生され、短鎖脂肪酸は酪酸菌などで発酵されて産生される。それぞれの化学物質はいろんな中間代謝産物を介してエネルギー代謝の経路に組み込まれてエネルギー源となる。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用があり、様々な遺伝子の発現を亢進する作用がある。
 
人間でも、アカルボースが大腸内で酪酸などの短鎖脂肪酸を増やすことが報告されています。二重盲検クロスオーバー試験で、1 日 3 回、50 ~ 200 mg のアカルボースまたはプラセボ (コーンスターチ) を被験者に与えました。アカルボース投与群では、でんぷん発酵菌と酪酸菌が増え、糞便中の酪酸濃度が有意に増加しました。

【出典:Acarbose enhances human colonic butyrate production(アカルボースはヒト大腸における酪酸産生を増やす)J Nutr. 1997 May;127(5):717-23.】
 

アカルボースは、結腸に入るデンプンの量を増やすことができ、それによって炭水化物分解細菌を増やし、腸内微生物叢とその発酵産物を変化させます。したがって、アカルボースによる治療は、潜在的な 短鎖脂肪酸産生菌の存在量を増加させる可能性があります。

酪酸菌を増やすと寿命が延びることは多くの研究で示されています。酪酸は様々なメカニズムで免疫力を高め、寿命を延ばす効果があります。

【出典:Extension of the Life Span by Acarbose: Is It Mediated by the Gut Microbiota?(アカルボースによる寿命の延長;腸内細菌叢によって媒介されるのか?)Aging Dis. 2022 Jul 11; 13(4): 1005–1014. 】
 

アカルボースが腸内細菌叢への作用を介して寿命を延ばす作用のメカニズムを以下にまとめています。


図:食事からのデンプンなどの糖質(①)はα-アミラーゼやα-グルコシダーゼによってブドウ糖(グルコース)に分解されて体内に吸収される(②)。ブドウ糖は血糖とインスリンを上昇させて、がん細胞の増殖を促進し、老化を促進し、寿命を短縮する(③)。アカルボースはα-アミラーゼとα-グルコシダーゼを阻害する作用があり、ブドウ糖の体内吸収と血糖・インスリンの上昇を抑制する(④)。分解されなかった糖質や二糖類は大腸の腸内細菌によって分解・発酵され(⑤)、酢酸やプロピオン酸や酪酸などの短鎖脂肪酸の産生を増やす(⑥)。短鎖脂肪酸は腸内環境改善、免疫細胞活性化、抗老化・寿命延長、がん細胞の増殖抑制などの効果を発揮する(⑦)。これらのメカニズムによって、アカルボースは抗がん作用と寿命延長効果が期待できる。
 

アカルボースは糖質摂取の減少や血糖スパイクの抑制に加えて、腸内細菌の酪酸産生を増やす効果など、総合的に健康寿命を延ばす効果が期待できます。
 
糖質の多い食事のたびにアカルボースを服用すると、腸内での発酵によってガスが増え、腹部膨満などの副作用がでます。 
 
糖質制限を実践しながら、時々、糖質+アカルボースで腸内の酪酸産生を増やすことは抗老化と健康寿命の延長に有効です。アカルボースは糖質を食べていない時は服用する必要はありません。糖質を食べた時だけです。アカルボースは非常に安価です。酪酸菌の宮入菌(ミヤリサン、ミヤBM)とアカルボース(+糖質)の組み合わせは、腸内の酪酸を増やして、寿命延長に有効です。

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