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154)コエンザイムQ10はミトコンドリアのATP産生を増やす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術154

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【生命はATPを使ってエネルギーのやり取りを行う】

生物は、細胞が活動するエネルギーとしてATPという物質を使います。ATPはAdenosine Triphosphate(アデノシン3リン酸)の略です。ATPはアデニンという物質にリボースという糖がついたアデノシンに、化学エネルギー物質のリン酸が3個結合したものです。
 
アデニンはDNAの遺伝情報に使われる4種類の核酸塩基の一つです。アデニンは火山ガスに含まれるシアン化水素(HCN)の化合によって生まれたとされ、最も古くに地球上に出現した有機化合物の一つと考えられています。
 
すなわち、アデニンやアデノシンやアデノシン3リン酸(ATP)は生命が生まれる前から存在し、これらの物質とその誘導体は生命活動において重要な働きを行っています。

ATPは分子内に2個の高エネルギーリン酸結合を持ち、ATPがエネルギーとして使用されるとADP(アデノシン2リン酸)とAMP(アデノシン1リン酸)が増えます。リン酸1分子を放出する過程でエネルギーが産生されます。このようにリン酸分子が離れたり、結合したりすることで、エネルギーの放出や貯蔵を行うことができます。
 
細胞はグルコース(ブドウ糖)や脂肪酸に保存されているエネルギーをATP分子に捕獲し、筋肉の収縮や能動輸送や物質合成などの細胞の仕事に使っているのです。

ATPは生物が必要とする活動エネルギーを保存した「エネルギー通貨」のような分子で、エネルギーを要する生物体の反応過程には必ず使用されています(図)。


図:ATP(アデノシン3リン酸)は塩基のアデニンにリボースが結合し、そのリボースに3つのリン酸基が並んで結合している。ATPから加水分解によってリン酸基が外れるときにエネルギーが放出される。細胞は化学的な仕事を行うために必要なエネルギーの獲得と移動に関してATPを使用している。



【老化に伴ってミトコンドリアのATP産生能は低下する】

私たちの体は加齢に伴って老化します。体の老化を最初に自覚するのは、体力や持久力や俊敏性など運動能力の衰えです。人によっては、物忘れなど脳機能の低下を自覚するようになって老化を意識する場合もあります。
 
このような老化に伴う運動能力や脳機能(認知機能や記憶力)の低下の原因としてミトコンドリア機能の低下が重要です。体の老化に伴って細胞のミトコンドリア機能が低下し、これが、心臓や骨格筋や神経系やその他の臓器の機能低下の主な原因になっています。
 
心臓や骨格筋や神経系は組織の酸素消費量が多い臓器です。これらの臓器ではミトコンドリアで酸素呼吸(酸化的リン酸化)によってエネルギー(ATP)を産生しています。
 
老化に伴って、これらの臓器の酸素消費量が減っていきます。ミトコンドリアの働きが低下し、酸素消費が減り、ATP産生量が低下するからです。その結果、運動機能や脳機能が低下します。
したがって、体の老化に伴う生理機能の低下を予防するには、ミトコンドリアの量と機能を高めることが重要と考えられます。
 
運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量を「最大酸素摂取量(VO2MAX)」と言います。VO2MAXはV = 量(volume)、O2 = 酸素、MAX = 最大限(maximum)に由来しています。

加齢に伴って最大酸素消費量(VO2MAX)は低下していきます。加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、心臓や骨格筋のミトコンドリアの量と機能が低下し、ミトコンドリアでの酸素呼吸が減少するからです。その結果、歩行速度が遅くなり、歩行距離が短くなり、持久力が低下するのです。


図:加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、骨格筋や心筋のミトコンドリアの量と機能が低下する。その結果、最大酸素摂取量は減少し、運動機能は低下する。



【ミトコンドリアでATPを産生するときに活性酸素が発生する】

ミトコンドリアの内膜に存在する一連の酵素複合体でATPは産生されます。これを呼吸鎖あるいは電子伝達系と言います。呼吸鎖(電子伝達系)は主に4つの複合体(I、II、III、IV)と2つの小分子(ユビキノンとシトクロムc)から成り立っています。ユビキノンはコエンザイムQ10と同じです。

ミトコンドリアの呼吸鎖においてATPを産生する過程で活性酸素が発生します。すなわち、ミトコンドリアでは、電子伝達の際に複合体Iや複合体IIIから漏れ出した電子によって、酸素分子が一電子還元され、スーパーオキシドが発生します。ミトコンドリアは生体内の約95%の酸素を消費し、そのうち1〜3%が活性酸素種に変換されると推測されています。(下図)


図:ミトコンドリアの呼吸酵素複合体のIとIIIでスーパーオキシド(O2-)が産生される。スーパーオキシドは膜を通過しないが、外膜のチャネルのVDACを通って細胞質に移行する。スーパーオキシドはマトリックスあるいは膜間腔に存在するスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)によって過酸化水素(H2O2)に変換される。過酸化水素は膜を自由に通過でき、一部はFenton/ Haber-Weiss反応によってヒドロキシルラジカル(Hydroxyl radical)に変換される。ヒドロキシルラジカルは酸化傷害を引き起こす。(出典:Mitochondria in cancer: at the crossroads of life and death. Chin J Cancer 30(8):526-39. 2011) 
 
 

上記の図に示すように、複合体I(NADHデヒドロゲナーゼ)はNADHから電子を受け取り、ユビキノン(Q)に電子を渡します。複合体II(サクシネートデヒドロゲナーゼ)は別の経路からユビキノンに電子を供給します。ユビキノンは複合体IとIIから受け取った電子を複合体IIIに運びます。複合体III(シトクロムcレダクターゼ)は電子をシトクロムcに渡し、プロトンをミトコンドリアの外部へ移動させます。シトクロムcは複合体IIIから受け取った電子を複合体IVに運びます。複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ)は電子を酸素に渡し、水を生成します。
 
このように栄養素から得られた電子が複数の膜タンパク質複合体を介して移動し、最終的に酸素と結合して水を生成します。この電子の移動過程で、プロトンがミトコンドリアの内膜を越えて移動し、膜の内外にプロトン濃度勾配を作り出します。この濃度勾配は化学浸透圧として知られ、最後にATP合成酵素によって、ADPからATPへの変換に利用されます。



【コエンザイムQ10はミトコンドリアのATP産生を高め、活性酸素を消去する】

コエンザイムQ10(Coenzyme Q10)は別名ユビキノン(Ubiquinone)やユビデカレノン(Ubidecarenone)とも呼ばれ、体内で作られる物質です。CoQ10(コーキューテン)と略されて呼ばれています。かつてビタミンQと呼ばれたこともありますが、動物体内で合成することができるためビタミンではありません。


図:コエンザイムQ10の化学構造


前述の様に、ミトコンドリアでATPを産生する呼吸鎖(電子伝達系)において電子伝達体の一つとして働きます。したがって、細胞内で不足するとミトコンドリアでのATP産生が低下します。さらに、活性酸素やフリーラジカルを消去する抗酸化作用があり、細胞や組織を酸化傷害から守る効果があります。CoQ10は脂溶性の性質によりミトコンドリア内膜内を自由に移動することができます。CoQ10はATP産生に必要なだけでなく、ミトコンドリアを活性酸素から守る作用もあります。
 
ミトコンドリアでのATP産生を高める効果と抗酸化作用があるため、体力増強と抗老化作用があります。ネズミを使った実験で、CoQ10を多く摂取させると若さを永く保ち、年をとっても活動性が落ちないという研究結果が発表されています。CoQ10を与えられたネズミは与えられないネズミより長生きだという研究報告もあります。ビタミンEの抗酸化力を再生する効果があるので、ビタミンEとCoQ10は抗酸化作用において相乗効果があります。


免疫細胞のミトコンドリアの働きを良くするので、CoQ10を投与すると、抗体の産生量や、マクロファージやTリンパ球の数や活性が高まり、感染症に対する抵抗力が増強することが知られています。 CoQ10は心筋細胞や骨格筋のミトコンドリアでのATP産生を高めるので、心臓機能を高めると同時に、運動能力の向上にも有効です。個々の細胞が活性化すると体全体の新陳代謝も促進されます。


図:ミトコンドリアで糖質・脂質・タンパク質を分解してエネルギーのATPを生成する(①)。ミトコンドリアでは酸素を使ってATPを産生する過程で活性酸素が発生する(②)。ATPの産生が増えると心臓(③)や骨格筋(④)の働きが良くなり、運動能力や持久力が向上する(⑤)。コエンザイムQ10(CoQ10)はミトコンドリアの酸素呼吸を高めATP産生を増やす(⑥)。CoQ10は抗酸化作用があり活性酸素によるミトコンドリアの酸化傷害を軽減する(⑦)。これらの総合効果によって体の若返り、減量、美容効果を発揮する(⑧)。
 
 
 
CoQ10はアセチルCoAという物質からコレステロールと同じ経路でつくられていきます。血中に存在するコエンザイムQ10の約60%は体内で合成されたものに由来すると考えられています。CoQ10は体内でつくられますが、その量は20歳前後をピークにして加齢とともに減少してきます。 
 
CoQ10は肉類や魚介類やナッツ類などの食品に含まれていますが、食事からの摂取量は1日5mg程度と言われています。つまり、加齢に伴う体内量の不足を食事で補うには、現実的ではないほどの大量の食材を食べなければならず、サプリメントで摂るメリットは大きいと言えます。
 
日本ではかつてうっ血性心不全の治療薬として医療用に使用されていましたが、2001年から健康食品や化粧品への利用が許可され、サプリメントとして購入できるようになりました。

医薬品としては、「基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状」の効能・効果で、1日30mgの用量で承認されています。加齢と共に体内産生量が低下するので、健康増進や抗老化の目的でサプリメントで補給する意味は十分にあります。
 
サプリメントとして摂取する場合の服用量についてはいろんな意見があります。健康増進や抗老化やがん予防の目的には1日100~200 mgを推奨する意見もあります。進行がんの治療では1日400 mg以上を使っている報告もあります。CoQ10は体内で産生される補酵素であり、かなりの大量を服用しない限り副作用はありません。決められた範囲内で服用すれば重大の副作用は無いと言えます。
 
しかし、CoQ10はワーファリン(血液凝固を弱める薬)やインスリン(血糖を下げるホルモン)に対する体の反応を変える可能性があります。糖尿病の治療におけるインスリンの必要量が低下します。また、胎児や幼児に対する影響は十分に検討されていませんので、妊娠中や授乳中の方は、服用しない方が良いと思います。

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