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157)野菜の豊富なアルカリ食の健康作用(その3):運動パフォーマンスを高める

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術157

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【無酸素運動では筋肉に乳酸と水素イオンが増える】

グルコース(ブドウ糖)は細胞質で解糖系によってピルビン酸まで分解され、酸素があればTCA回路(クエン酸回路)と電子伝達系による酸化的リン酸化によってATPを生成しますが、酸素が無い場合はピルビン酸からさらに乳酸に変換されます。ピルビン酸を乳酸に変換する酵素が乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase; LDH)です。


図:グルコースが解糖系でピルビン酸(①)まで分解されたあと、酸素があればミトコンドリアでピルビン酸脱水素酵素(Pyruvate Dehydrogenase; PDH)によってアセチルCoAに変換され(②)、TCA回路でさらに代謝され(③)、電子伝達系(呼吸鎖)で酸化的リン酸化によってATPが産生される(④)。酸素が無い条件では、ピルビン酸は乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase; LDH)によって乳酸に変換される(⑤)。


酸素がない場合、なぜピルビン酸で止まらないで乳酸に変換されるかというと、その理由は、解糖系で還元されたNADH(還元型ニコチンアミドジヌクレオチド)を酸化型のNAD+に戻すためです。NAD+が枯渇すると解糖系が進行しなくなります。


図:解糖系では1分子のグルコースから2分子のピルビン酸、2分子のATP、2分子のNADH + H+が作られる。乳酸発酵では、NADH + H+を還元剤として用いてピルビン酸を還元して乳酸にする。この乳酸発酵によってNAD+を再生することによって酸素を使わないATP産生(解糖)が続けられる。その結果、乳酸と水素イオン(H+)が多く産生される。


解糖系でのグルコースからピルビン酸への代謝で、1分子のグルコースから2分子のATPを産生できます。正確には、この反応において4分子のATPが産生され、2分子のATPが消費されるので、差し引き2分子のATPの産生になります。
 
乳酸発酵によって酸化型NAD(NAD+)を再生することによって、無酸素条件下でも細胞は解糖だけでATPを産生して生きていけます。酵母は酸素が無いと乳酸発酵やアルコール発酵で増殖できます。

筋肉も数分であれば、解糖だけでエネルギーを産生できますが、乳酸や水素イオンが貯留すると、筋肉運動は低下してきます。(下図)


図:強度の嫌気的運動(①)ではグルコースの解糖(②)によって乳酸と水素イオン(H+)の産生が増える(③)。水素イオンが筋肉内に蓄積してpHが低下すると筋力は低下する(④)。



【アルカリ食は運動パフォーマンスを高める】

酸塩基のバランスを一定に保つ働きは体のいろいろなところで行なわれていますが、その中でも代表的な部位は、血液・体液、肺、腎臓です。

血液・体液における酸塩基平衡の調節で最も重要なのが重炭酸緩衝系です。この系は、重炭酸イオン(HCO3-)が塩基となってプロトン(水素イオン)を受けとって中和してpHを一定に維持します。
 
果物や野菜などのアルカリ性食品が少なく、肉や魚や乳製品などの酸性食品を多く含む食事は、血液が酸性に傾いた状態(代謝性アシドーシス)を導き、そのことが様々な病気の発症に影響を与える可能性が指摘されています。

155話で解説したように、食事由来の酸負荷を示す指標として潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load : PRAL)があります。PRALは以下の式で算出されます。
 
PRAL(mEq/d)=0.4888×たんぱく質(g/d)+0.0366×リン(mg/d)-0.0205×カリウム(mg/d)-0.0125×カルシウム(mg/d)-0.0263×マグネシウム(mg/d)
 
つまり、食事中のタンパク質とリンの量は潜在的腎臓酸負荷(PRAL)を増やし、カリウム、カルシウム、マグネシウムはPRALを減らします。
PRALが大きい食事は酸性食品で、PRALがマイナスの食品はアルカリ食品です。動物性タンパク質、特に肉、卵、チーズは、体内で大量の酸を形成する原因となります。

果物や野菜は、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩などの有機アニオンを多く含み、体内で重炭酸塩に変換されます。重炭酸塩は、酸を中和する塩基です。


体内をアルカリ化する重曹の摂取が運動パフォーマンスを向上することは多くのエビデンスがあり、スポーツ栄養学の専門家も練習や競技前の重曹摂取の有効性を認めています。

国際スポーツ栄養学会は、『筋肉に水素イオンや乳酸が蓄積するような無酸素運動や、強度の強い運動の前に重曹を体重1kg当たり0.2gから0.3g(体重60kgで12gから18g)を運動の1時間から3時間くらい前に摂取すると、運動パフォーマンスを有意に高めることができることは間違いない』という公式見解を発表しています。IOC(国際オリンピック委員会)の公式見解でも、重曹が運動パフォーマンスを高めることを認めています。(第50話参照)
 
アルカリ食でも同様な効果が報告されています。以下のような報告があります。

Enhanced 400-m sprint performance in moderately trained participants by a 4-day alkalizing diet: a counterbalanced, randomized controlled trial.(4日間のアルカリ化食による適度に訓練された参加者の400mスプリントパフォーマンスの向上:釣り合いのとれたランダム化比較試験)J Int Soc Sports Nutr. 2018 May 31;15(1):25.

この研究では、400 m走におけるアルカリ化食と酸性化食の影響を調査しています。

ランダム化クロスオーバーデザインで試験が行われ、活発に運動している11人(男性8人と女性3人、26.0±1.7歳)が、各個人の未変更の食事で1回の試行を行い、その後、4日間のアルカリ化食または酸性化食の後に試験が実施されました。試験は、ランダムな順序でタータントラックを1週間間隔で400m走ることで実施されました。
 
その結果、400m走のタイムは酸性食後(67.3±7.1秒)と比較して、アルカリ食後(65.8±7.2 秒)では大幅に短縮しました。


つまり、酸性化食に比べてアルカリ化食は、アスリートの400mスプリントパフォーマンスをタイムで2〜3%程度向上させるという結果です。日頃からアルカリ化食を摂取し、競技の1〜3時間前に重曹を0.2g/kg程度を摂取(あるいは日常的に摂取)すると、筋肉に水素イオンや乳酸が蓄積するような無酸素運動や、高強度の運動のパフォーマンスを有意で高めることができます。(下図)


図:強度の嫌気的運動(①)ではグルコースの解糖(②)によって乳酸と水素イオン(H+)の産生が増える(③)。水素イオンが筋肉内に蓄積してpHが低下すると筋力は低下する(④)。重曹やアルカリ性食品を多く摂取すると(⑤)、水素イオンは重炭酸イオンによって炭酸になって消去される(⑥)。その結果、筋肉pHの低下が軽減され、筋力低下が阻止される(⑦)。

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