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72) 老化細胞除去薬を使った抗老化医療(その1):フィセチン

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術72

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【加齢とともに体内に老化細胞が増えていく】

 老化は、最も一般的な人間の病気の重要な危険因子です。加齢とともに、体は弱り、慢性疾患を発症するリスクが大幅に高まります。65歳以上の90%以上が、心血管疾患、がん、認知症、糖尿病、変形性関節症、骨粗鬆症などの少なくとも1つの慢性疾患を患っており、70%以上が少なくとも2つのそのような状態を患っていると言われています。
 
この事実は、「基本的な老化メカニズムを治療の標的にすることで、共通の潜在的な危険因子による複数の慢性疾患の発症または重症度を遅らせることができる」という抗老化療法の根拠になっています。
 
私たちの体は正常な機能を維持するために、多数の細胞がお互いに制御しあっています。
このような正常な細胞の集まりの中で、加齢とともに異常な細胞が出現してきます。一つはがん細胞で、もう一つは老化細胞です。
 
がん細胞は、増殖と細胞死の正常な制御ができなくなって、正常細胞や正常組織を侵略するように数を増やしていきます。がん細胞が多く増えると、正常組織が破壊され、宿主は死亡します。
 
老化細胞は、増殖を停止した細胞です。一見、周りの正常細胞や組織に悪影響を与えないかのように思われますが、実際は、老化細胞が組織に蓄積すると、様々な悪影響を及ぼすのです。すなわち、老化細胞はサイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなどの多くの成分を分泌しています。これらの因子は老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれ、老化細胞の周囲の組織に炎症や機能障害を引き起こす可能性があります。つまり、老化細胞が蓄積すると老化関連分泌表現型(SASP)の産生によって、その組織の機能が傷害されるのです。

図:加齢とともに、正常組織の中にがん細胞と老化細胞が出現する。がん細胞は増殖して正常細胞や組織を破壊する。老化細胞は増殖を停止しているが、老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれる様々な因子(サイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなど)を産生して、周りの正常細胞や組織の機能を障害する。



【老化細胞を除去すると新型コロナウイルス感染の重症化を防げる】

 組織に蓄積した老化細胞は炎症や機能障害を引き起こす因子を分泌して、正常組織の機能を障害しています。感染症に対する抵抗力も老化細胞の存在がマイナスに作用することが指摘されています。

新型コロナウイルス感染症では高齢者ほど重症化し、死亡するリスクが高いことが知られています。高齢者は免疫力や全身の臓器機能が低下しているので、感染症に対する抵抗力が低下するのは当然と言えます。老化細胞を除去する治療が、サイトカインストームを抑制し、重症化予防に有効という報告があります。以下のような報告があります。

Senolytics reduce coronavirus-related mortality in old mice(老化細胞除去薬は、老齢マウスのコロナウイルス関連の死亡率を低下させる)
Science. 2021 Jul 16; 373(6552): eabe4832.
 

【要旨の抜粋】
背景:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、高齢者は抵抗性が弱く、重症化しやすいことが明らかになった。老化細胞は、老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれる炎症誘発性因子を分泌する。老化細胞は年齢とともに蓄積し、慢性炎症を引き起こす。
老化細胞の存在が、感染症に対する加齢に伴う脆弱性の原因であるかどうかを検討した。老化細胞除去薬(senolytics)と呼ばれる新しいクラスの治療法で老化細胞をin vivoで選択的に排除できるため、COVID-19を治療するための新しいアプローチを提供する可能性がある。
 
根拠:老化細胞の存在は、炎症誘発性の老化関連分泌表現型(SASP)の産生のために、病原体に対する反応性が高まり、サイトカインストームや多臓器不全のリスクが高まる可能性がある。これをテストするために、老化および非老化のヒト細胞をリポ多糖(LPS)およびSARS-CoV-2スパイクタンパク質(S1)で刺激し、老化関連分泌表現型(SASP)の産性及びその影響を測定した。
同様に、老齢および早老症のマウスをLPSで刺激し、老化関連分泌表現型(SASP)の産性を測定した。
 
結果:老化したヒト内皮細胞は、非老化細胞と比較して、LPSおよびS1でのチャレンジに応答して炎症応答が過剰に起こった。老齢マウスのLPS投与は、若いマウスと比較していくつかの臓器で老化関連分泌表現型(SASP)の発現を有意に増加させた。
老化細胞除去剤のフィセチンで老齢マウスを治療すると、血清および組織における炎症性タンパク質の発現を減少させ、死亡率を50%減少させた。これは、2番目の老化細胞除去療法であるダサチニブ(Dasatinib)+ケルセチン(Quercetin)、および老齢マウスにおける老化細胞の遺伝的除去によっても確認された。ウイルス性病原体に曝露された老化生物における有害な結果の原因として老化細胞の重要性が確認された。
 
結論:老化細胞は、COVID-19および病原体誘発性の炎症を過剰に増幅する。老齢マウスの老化細胞負荷を減らすと、コロナウイルスを含む病原体曝露後の死亡率が低下する。
この実験結果は、基本的な老化メカニズムを標的とすることで、病原体に対する高齢者の抵抗力と回復力を改善し、罹患率と死亡率が軽減されることを示している。これは、老化細胞除去薬が、脆弱な他の人を感染症から保護する可能性があることを示唆している。
 

この論文の内容をまとめると以下のような図になります。

図:(①)コロナウイルス(SARS-CoV-2)が感染すると、細胞はウイルス防御物質の産生を高め、免疫細胞は抗体産生を高めてウイルスを排除する。(②)老化細胞の存在は、老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)の産生によってウイルス防御物質や抗体産生を阻害する。その結果、ウイルスが増殖し、宿主は死亡する。(③)老化細胞除去薬によって老化細胞を除去するとSASPが減少し、ウイルス防御物質と抗体の産生が亢進し、ウイルスを排除し、宿主は生存する。
 
 
 
この論文の著者には、ミネソタ大学やメイヨークリニックなどの老化研究の専門家34人が記載されています。サイエンス(Science)という一流の学術誌に掲載されているので、そのインパクトは高いと思います。

老化細胞を選択的に殺す薬である老化細胞除去薬という用語は、2015年にカークランド(JamesnL. Kirkland)とチコニア(Tamara Tchkonia)によって導入されました。この二人はメイヨークリニック(Mayo Clinic Robert and Arlene Kogod Center on Aging)の研究者で、前述のScienceの論文にも著者になっています。
 
老化の抑制は、老化に伴って低下する栄養成分や体内成分を補うというのが一つの方法です。ビタミンやミネラルやニコチンアミド・モノヌクレオチド、スペルミジン、ホルモン類などを補充して、機能低下を補う抗老化治療が行われています。
 
さらに、老化細胞を積極的に除去する方法の有効性が議論されています。前述のScienceの論文では老化細胞の除去にフィセチンという植物成分が使われています。

フィセチンは、イチゴ、キュウリ、リンゴ、ブドウ、玉ねぎなどの果物や野菜に含まれる生理活性フラボノール分子であり、イチゴに最も高い濃度で含まれています。フィセチンが細胞の老化を抑制することやマウスの寿命を延ばすことが報告されています。

フィセチンはサプリメントでも販売されています。イチゴやキュウリを多く食べ、フィセチンをサプリメントで摂取するのは、抗老化の目的で良いかもしれません。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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