経企実務に大切な事は、すべてジャイロ・ツェペリが教えてくれた

はじめに

 経営企画ーー。それは経営トップの右腕として全社戦略を打ち出す参謀役であり、会社の予算執行権を握る金庫番であり、内外にガバナンスを利かせる監視者であり。また、前線で駆け回ってきた各部門のエース級が配属され、自身の経験を活かし会社規模での施策を打ち出す…そんなサラリーマン人生における躍動の場、出世の登竜門でもあります。事業、財務の幅広い知識と培ってきた社内各所との人脈を存分に振るう部門、経営企画。そんな部署に、活かすべき経験も人脈もない若手が配属されると、何が起こるでしょうか。
 …わっかんないんです、何やってるのか。自分ごととして捉えるにはデカすぎる事業規模・予算額が羅列された膨大なExcelを弄りながら、既に構築された型の中で、予算立案・フォローアップ・中期計画…といった定型イベントをこなす日々。手触りがないのに膨大な作業量、議事録作成、調整業務…。関係部署の対面は自分より遥かに格上な職位、飛び交う謎の専門用語にやたらと強い他部署からの風当たり。よく分かんないのに忙しい、かつ自分を主語にすることが難しい系の業務、それが、悲しいかな、経企実務なのです。
 入り口でモチベーションが保てず腐る人、そのまま異動・転職の決断をしてしまう人も多いであろうこの部署で、若手が何を心掛けるべきか?そのヒントは、ビジネスパーソン必読の書・ジョジョの奇妙な冒険第7部こと、『スティールボールラン』の作中で、ジャイロ・ツェペリからジョニィ・ジョースターへと語られる「レッスン」の中に含まれていたのです!!(なにぃぃッッ!?)
 前置きが長くなりました。本noteは、自分の役割ややりがいに悩める経企実務者、あるいはあらゆる職場で苦心する若手の皆様への一つのヒントとして、スティールボールランのジャイロからジョニィへのレッスンを引用する、というニッチなものになります。
それでは以下より、ジャイロのレッスンに準え、経企実務の勘所を探っていきましょう。

Lesson1『妙な期待はするな』

「妙な期待はするな 脚が動いたのは単なる肉体的な反応にすぎないぜ」(ジャイロ・ツェペリ)

 経営層及び参謀を頭脳、実際に動く各部門を筋肉、と表現すると、経企実務はさしずめ、それらを繋ぐ神経系、でしょうか。トップの意向を伝達し、関係各所にあらゆる依頼を発信し、各所から情報をかき集め上申していく、そんな頭脳と筋肉を“繋ぐ”のが実務であるあなたの役目です。
 注意すべきなのは、依頼メールを各所にぶん投げただけで、あなたの欲しいアウトプットが帰ってくる訳ではない、という点です。
 例えば予算差異の分析を依頼する時。あなたの依頼は、関係部署の窓口から部、課、担当者…と各階層に展開され、同じルートを逆流して収集された情報が、今度はアウトプットとして帰ってきます。巡り巡った依頼を受けた人が動いたのは「単なる肉体的な反応に過ぎない」のであり、あなたの意図を汲んでくれたわけではありません。あなたの依頼が階層、人を経れば経るほど、当初の意図と異なる解釈がなされ、ズレた回答が来る可能性が高まります。全網羅的な依頼を投げることが多い経企実務は、とりわけその傾向が高い仕事です。
 過度な期待に沿って依頼を投げるだけでさあ一安心、では確認と修正で多大なロスが発生しえます。欲しいアウトプット”だけ”を抜き出せるような工夫、例えば有用なフォーマットを作成する、共有のデータフォルダを使って抜け漏れなく情報収集するなど、「肉体的な反応」でも事故らない工夫が、実務であるあなたが付けられる付加価値になるはずです。あなたの考えていることを、なにも言わずに理解してくれる人は世界に1人もいないのですから。

Lesson2『筋肉に悟られるな』

「黄金の回転はそれを悟らせない!皮膚までだ・・・ーーー!皮膚を支配しろ!皮膚までなら筋肉は異常事態が起こっていると気づかない」(ジャイロ・ツェペリ)

 一ヶ月も実務をやってると見えてきますが、悲しいかな、経営トップの指示はそのまま展開できないものも多いです。時には明らかな思い付きだったり、非現実的だったり、関係者の気持ちを逆なでするものだったり…。そうした無茶ぶりの中から、本当にトップがやりたい事の本質を見抜き、咀嚼した内容で各部署を動かしていく、そうした立ち回りが経企職に求められる役目の一つです
 当然そのプロセスの中では、妥協や二枚舌といった「不本意」な動きも出てくるでしょう。ですが、そうした中のごちゃごちゃは、不用意に筋肉たる各部門に悟られてはなりません。経営企画は、経営者の代弁者でもあるポジションです。外部に対して打ち出す時は、毅然とした態度で効果的かつ明瞭な発信を行う。そうすることが、組織の、ひいては経営陣のプレゼンスを保つ事にも必要なのです。
 ただし、「”皮膚までなら筋肉に悟られない”」。あなたが日々向き合う対面の担当者には、そうしたぶっちゃけトークをする事で緩やかな共犯関係を作り、裏表でうまく連携していく・・・といったテクニックもあるかもしれません。

Lesson3『回転を信じろ』

「回転を信じろッ!回転は無限の力だ それを信じろッ!」(ジャイロ・ツェペリ)

 計画を立て、実行し、進捗を評価し、次の手を打っていく。こうしたPDCA回転(”サイクル”)を回していくのが企業活動の基本です。仮説検証、予実分析、軌道修正・・・そうした全社単位のPDCA回転(”サイクル”)のプロセスを設計することで、各部門の中での回転(”サイクル”)を促し、さらに個人の目標設定と振り返りの回転(”サイクル”)へと繋げ、常に各活動が有機的に回り続ける状態を維持する。それが経営企画の大きな役割です。あなたの日々の実務でも、単に予算策定や分析を求めるのではなく、その仕事が次の回転”サイクル”を産む=無限の回転に繋がるか?そんなことを意識しての業務設計が大切です。
 逆に言えば、回転を損なうような”形だけの仕事”を潰せるのも、経営企画の重要な役目でもあります。

Lesson4『敬意を払え』

「敬意を払って『回転』の更なる段階に進め・・・」(ジャイロ・ツェペリ)
「『本物』を探せ・・・自分の眼で・・・『本物』を見なければ回転しないッ!ツェペリ家の掟は!それが言いたいのでは・・・」(ジョニィ・ジョースター)

 ここまでさも経企が重要部署っぽい感じで語ってきましたが、実際に売上・利益・付加価値を産み出すのは、日々第一線で切った張ったを繰り返す他部署の皆様です。
 この超基本を見失った経企部隊は、現場から突き上げられ、経営層の御用聞きと叩かれ、評論家と化し、やがてピントのズレの経営施策が連発され企業の競争力を奪っていくのです。最も重要なのは、利益の源泉である関係部署に敬意を払うこと。その上で、機能として言うべきことは言っていく。そんな、「リスペクトを前提とした緊張関係」が“正しい道”には大切なのです。
 あなたはこれから必ず、自分だけでは解決できないような困難な業務にぶちあたるはずです。どう打破したらいいのか、全く分からない。そんな時は必死に悩んだ上で「出来るわけがないッ」と4回、心の底から叫ぶのです。そうして初めて、日々お世話になっている関係各所を頼るのです。
 困難を超えるヒントはあなたの中ではなく、事業活動の最前線にしかありません。日々リスペクトを持って接してきた人々の中に、本物の黄金長方形を見出した時、困難な状況はきっと打破できるはずです。

Lesson5『遠回りこそ最短の近道』

「オレはこのSBRレースでいつも最短の近道を試みたが 『一番の近道は遠回りだった』『遠回りこそが俺の最短の道だった』」(ジャイロ・ツェペリ)

 ここまで述べてきたように、経企の実務で自分1人でどうにかなる仕事はほとんどないのが現実です。関係各所の連携を促す動きや情報収集、誰かに動いてもらうことが基本になります。
 これは一見ネガティブで、自分の力で道を切り拓いている同期たちと比べると、無力感を感じる事もあるかも知れません。しかし見方を変えれば、経企実務の仕事は、自分より実力も経験もある人々の力を借りながら、企業としての進むべき方向を示し自分だけでは出せない大きなアウトプットに繋げていく、という側面でもあります。
 若手の立場で多くの関係者に動いてもらうのは一苦労、正直職場の看板や上司の威を借りてラクしたくなる場面も出てきます。それでも、確実に大きな組織体を動かしていくには、丁寧なコミュニケーションやこまめな進捗報告といった一見遠回りに見える立ち回りが非常に重要です。
 経企実務として降り立ったあなたに対し、経験豊富な各部署の窓口の方々は、まず試すような目を向けるでしょう。時にはあなたの指示や依頼に対し、否定的な見解を示されるかもしれません。それでも、丁寧なコミュニケーションから逃げない事が、相互の理解による確実な業務遂行、その先にある自分の成長につながるのです。

最後に 『納得はすべてに優先する』

「『納得』は全てに優先するぜッ!!でないとオレは『前』へ進めねえッ!!どこへも!!『未来』への道へも!!探すことはできねぇッ!!」
「見えたぞッ!見えて来た!父上!『勝利』の感覚が見えて来たッ!」(ジャイロ・ツェペリ)

 ここまでザーッと、私の経験に基づいた経企実務の重要なポイントについてジャイロの言葉を借りながらまとめてきました。過不足や認識の甘い部分はあるかとは思いますが、経企実務のみならず若手のムーブに参考となる点があれば幸いです。
 とはいえ、ここまでは「立ち回り」のポイントに終始しています。最も重要なのは、あなたが業務に納得できるかどうか、です。述べてきたように、実務とはいえ経企部隊の発信は会社規模を巻き込む多くの関係者に影響を与えることが日常茶飯事です。そんな重要な発信が思いつきレベルで行われると、一実務担当では取り返せないようなロスを会社規模で与えることもあり得ます。
 たとえ上司の指示であっても、まずはあなた自身がなぜ、何のためにこの業務を遂行するのかを、実務の目線で納得する、その小さなワンステップがとても大きなロスを防ぐ防波堤になるのです。また、あなたの依頼を受けた関係各所の問い合わせや抵抗に対応するにも、まずは自分の納得がないと会話の場に立つことも出来ないはずです。
 右から左に仕事を流すだけでは付加価値はありません。まずは納得する、納得できないなら納得できるまで議論し、最適な形で業務を遂行する。これは、職種問わず全ての組織人に必要な態度であり、年次に対する動かす関係者の多さから、経企実務は特に意識すべき点かと思います。
 とはいえ我々もサラリーマン、納得のいかない業務でも進めざるを得ない時は必ずあります。それでも、その時感じた疑問やフラストレーションは大切に、自分自身の立場が変わった時に、正しい道を示せるよう引き出しの中にしまっておく、それが黄金の意思の体現に必要な態度じゃあないでしょうか。

 ここまでダラダラとお付き合い頂きありがとうございます。言いたかったのは、業務背景の理解と納得感、丁寧なコミュニケーションと関係部署へのリスペクトは大事だよ、という事です。
 何かと悩ましいことや、フラストレーション、自分の存在意義への問いが多い経企実務ですが、ここで学んだ仕事のイロハと関係構築は、必ずキャリアの次のステップに生きてきます。
 「自身の役割を前向きに捉え成長に繋げる」どんな組織に所属しても、最も重要な『黄金の精神』はこの辺にあると、私は思います。悩みながらも腐らずに、お互いに切磋琢磨していきましょう。もし悩んだら、今一度スティールボールランを読み返すのです。ジャイロとジョニィの困難な道程に、必ずあなたの悩みを解決するヒントが隠されているはずです。

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