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Ludwig (1973)

 ヴィスコンティの歴史的超大作。最初に日本で公開されたときは184分のダイレクトカット版だったが、今回は初めて復刻版の237分を見た。(子供と一緒に見ていたので、残念ながら3日間かけての鑑賞となった。)

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 長いながらも何度も見たい。繰り返し見れば見るほど、ルドウィグの哀愁が落ち葉のようにちりつもる。国王就任式のときは本当にシュッとしたきれいな後ろ姿だった。男でも女でも嘗めまわしたいような背中から足まで。個人的にヘルムート・バーガーは好きなタイプの俳優ではないけれど、この長いブーツを履いた正装姿は本当に美しい。そのあと彼はまるで自分自身を覆い隠すように、虚勢を張っているかのように、肩幅の大きい厚手のコートばかりを着ているシーンがだんだんと多くなる。


 ヘルムート・バーガーは心が傷つきやすくて、みじめだけど強がる、孤高な青年の役柄がぴったりだと思う。きれいだけど、透明感を自分で保つことができなくて、汚してみたくて汚しまくる。あの虫歯の多くて歯が真っ黒な感じも、顔としてぴったりである。(ルドウィグ2世とは本当にそういう人だったらしい)ヴィスコンティはあまり役者に演技をつけさせないというから、彼は本当にそういう人柄なのかもしれない。

 本作品は、ヴィスコンティ作品の中でも珍しいストーリー展開方法を用いている。周辺人物が調査というていで過去を回想していくというものである。調査内容は、「国王に精神的な問題がありうるか否か、そして国務を行う能力があるか否か」を問うもので、その周辺人物というのも家族などは含まれておらず、あくまで政府高官や護衛兵である。そのためルドウィグ自身の視点はなく、そしてあまり身近な人からの調査はされていないので、ルドヴィグ自身は少し遠く感じる。パーソナルなようで本当のパーソナルは描かれていないというか。スキャンダル的なものが多くなるのはもちろんのこと。しかしこれが国王というものなのだ、といわんばかりである。(実際にも、こういった証言のみで本人への診断記録は残っていないらしい。)

 ルドウィグが亡くなる前、夜中の散歩中、付き添いの医者に
「自分は謎のままでいたい。他人にも、自分自身にも」
と、ルドヴィグがこぼすシーンがある。国王という職務についた者ならではの言葉である。自分が生前から、はたまた幼少期から、歴史の一部であるということを分かっていて、もう自分自身でさえも自分のことを客観的に見続けている。なので彼は、彼自身の何か目的があって、つまり彼の歴史的居場所を求めるために「狂人」に成りすましたのかもしれない。そう思わせるようなシーンが随所にあり、ヴィスコンティが歴史に対して問いかけた疑問、メッセージである。

 しかし結局なぜルドウィグがこんなにまで自分をずたずたにし、傷ついていって、狂人と化し、自殺をしたのかわからないのだ。(そもそも自殺なのかどうかも謎めいたまま終わっている)彼が戦争に背を向け、政治に背をむけたのは分かるが、戦争や政治の様子は一切描かれていないので、それがいかに彼を彼自身の世界に閉じ込めてしまったのかはわかりにくい。


 神からのプレッシャーというのもあったのだろうか。彼は自他共に認める敬虔なカソリック信者だったのだ。いつも神父の言葉に耳を傾けていた。(そして彼の母はプロテスタントで、のちにカソリックへ改宗する。当時のドイツはほとんどがプロテスタントだったと思われる。このシーンをわざわざ描いたのも何かヴィスコンティの意図があるに違いない)
そんな彼が同性愛に走ってしまい、そのことにいつも罪深さを感じている。「山猫」のサリーナ公爵とはここが大きく違う。サリーナ公爵はむしろ科学的で神を信じていない。娼婦と寝ても、神への懺悔はしない。しかしルドウィグは抗えない体に染みついた信仰心によって、ずっと大罪を背負いながら生きている。そして彼の溺死死体はまるでキリストの彫刻のようであった。

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 今でいうアダルトチルドレンっぽさはある。作った城は3つ、とくにノイシュヴァンシュタイン城は有名だが、中世に憧れをもっていたルドウィグが建築様式などをまったく無視して、舞台美術家に設計させたロマンチック、メルヘンな城である。リンダーホーフ城(これも城内に洞窟があり白鳥が泳いでいる)へ気に入った舞台俳優を城に招待するものの、ルドヴィグは当惑した顔をする。
「王はロミオを演じないあなたには興味はない」
と付き人に言われ、終始全力でロミオのセリフを暗唱する俳優。このシーンのルドウィグの顔もまさに少年のような、目つきなんて溢れんばかりキラキラしている。

 彼はワーグナーに心酔し、ワーグナーに国家予算を費やしたのも、狂人とみなされた原因の一つである。実はこの映画でヴィスコンティは、ワーグナーの未発表作品を使用している。舞台芸術、音楽家一家ヴィスコンティ家のものだからこそ為せる業である。(彼は「山猫」でヴェルディの未発表ワルツも使った。あの有名なクラウディア・カルディナーレとサリーナ公爵のワルツシーンである。ヴィスコンティの母方の祖父はヴェルディと親友だったらしい)とても短い曲でいなくなるみたいなメロディだけれども、これまたルドウィグの孤高さに大変マッチしているのである。


最近「シネフィルWOWOW」という映画配信サイトが良い映画揃っていていいですね。感動です。

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