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#4 アラサーチー牛が英語を勉強してUKに行く話

午後の会社説明会も滞りなく始まった。うちのブースは会社の規模に似合わずそこそこ人気だった。WEBデザインと、自社開発のアプリというのがもしかしたら就活生に刺さるのかもしれないな。年下の先輩が彼らに淀みなく説明をし、僕はそれに合わせてひたすらPageDownを押すだけだ。

ふと一人チャラいやつがいるな、と思った。なんか厚めのカジュアルジャケットを着た茶髪の男がいた。それだけなら別に構いはしないのだが、なぜか彼は僕を見ていた。いや、違うな、位置的に僕の背後の先輩を眺めているのか。先輩確かに美人だしなぁと思っていると今度こそチャラ男と目が合った。するとチャラ男はどこかバツが悪そうに映像に目を移す。さては先輩のファンだな。

「窪塚さん、次のシート」

背後から冷たい声が耳元に届いたので、僕はあわててPageDownを押した。チャラ男に気を取られすぎてしまったらしい。おのれチャラ男め。しかし、なぜだろう。僕はどこかで彼を見たことがあるような気がする。


「高城ちゃん、めっちゃ良かったよー。高城ちゃんの同僚になっちゃおうかな。」

「あはは、ありがとうございます。そのバッジ、柳さんも参加されていたんですね。」

「そうなんだよー、地元で就職も悪くないかもなと思ってさ。」

発表が無事終了すると、先輩はチャラ男と和やかに話し始めた。どうやら二人は知り合いだったらしい。先輩は人当たりが良いから人脈広いのだろうが、その人の良さを少しでも僕に向けてくれてもいいのではないだろうか。

「あの、インターンについてお話を伺えますでしょうか。」

そんなことを考えていると、僕の前には若い二人の女性がいた。

「あ、はい、インターンについてですね、ありがとうございます。」

インターン参加要項について一通り説明したところ、参加したいと考えているとのことだったので、記入用紙を諸々埋めてもらった。所属などを確認したところ二人は職業訓練生であるとわかった。

「あ、お二人はサンブレーンさんのところなんですね、実は僕もそこの出身なんですよ。」

偶然にも、僕は彼女たちと同じ職業訓練校に通っていたのだ。

「え、本当ですか?」

「ビックリデス!」
二人は北野雫さんと、朴雪花さんというらしい。北野さんは現在23歳で、朴さんは韓国人で日本に来て現在6年目の25歳らしい。日本語はまぁまぁ上手だ。

「そうなんです、そこでPC基本技能を習って、そのおかげでこちらに就職したんですよ。お二人はWEB科なので僕とは違うコースですけどね。」

「何コースだったんですか?」

「EO事務科ですよ。」

「あ、今は名前違いますけど、確か私達の隣のクラスでやってますよ。でも..なんというか意外です!」

名前変わっているのか。確かにパイロット的に作ったコースだとか言ってた気がする。EOってなんですか?ってその時の先生に聞いたらExtraordinaryの略だと言っていたので、ふざけた名前だと思ったのを思い出した。

「あのコース、ソコソコノオジサンと、ソコソコノオバサンしかイナイデスヨネ。クボヅカサンってもしかして結構オジサンですか?」

朴さんはぶっちゃけたことをいった。てかそこそこのおじさんってなんだ。誰だそんな変な日本語を覚えさせたやつは。でも僕は、そこそこおじさんより、結構おじさんかと聞かれるほうが嫌だぞ。

「えーと、一応27かな..」

「ちょっとソルファちゃん、それは窪塚さんに失礼だよぉ」

苦し紛れに自分の年齢を言うと、北野さんからフォローがあった。北野さんは背が低く、くりっとした目をした小動物のような可愛らしい女の子という感じであった。しかし新卒のような初々しさはなく、髪を高い位置でお団子にまとめていて、リクルートスーツ姿もキリッ着こなしていてこなれた印象を受けた。

「ア、ソウナンデスネ、スミマセンクボヅカさん。」

韓国人の子は雪花と書いてソルファさんというらしい。一度留学で日本に来てから文化にハマり、その後技能実習ビザで日本にやってきたのち日本に帰化したという。髪をポニーテールにしたクールな美人である。肌は雪のように白く、赤い口紅が妖艶な雰囲気を醸し出していたが、僕は彼女は天然なのではないかと思っている。

「あ、いいよいいよ。まぁ確かに色んな人がいて、僕が最年少だったからさ。」

「事務コースは、センセイとオジサン、オバサンタチがいつもオオゴエデ話してます。隣のクラスですけどメッチャ声がキコエテキマス。」

あのコースは魔窟のようなところだった。
岩のようなおじさんとか、妖怪みたいなおばさまがひたすら、質問と言う名のいちゃもんをつけて先生を疲弊させるコースだった。
僕にとっては、彼らのアグレッシヴさに始終圧倒される3ヶ月であった。

思えば今イギリスにいる元カノと出会ったのも僕があの訓練校に通っている時でもあった。思い出すと懐かしくもあり、悲しくもなった。

「先生はいつも怒ってます。一回、怒って出ていったこともありました。」

「先生って、もしかして高島先生?」

「あ、そうです!」

先生まだあのコースやってたのか。僕のときは先生は日を追うごとにどんどん疲弊していっていたけど、今ではついに切れ散らかすようになったらしい。防衛本能だろうか、強く頑張ってほしい。

インターンについての確認は一通り終わり、質問タイムに入った。

「窪塚さんはどうしてこちらの会社に入られたのか、参考までにお聞かせいただけますか?」

やっぱり気になるよね、一応君たちの先輩だし。

「うーん、実は僕は、定職に就きたかったというのが先にあって、職種はそんなに気にしてなかったんです。ただうちは社長が若い世代の育成に力を入れている人なので、中途も積極的に採用していて、それで雇ってもらった口です。あ、まぁ先程説明したとおりですが、女性がすごく活躍できる現場ですし、私も思い思いに仕事ができるので気に入っています。」

うーむこれで良かったのだろうか。対して思い入れがあって入社したわけじゃないからなー。

「ありがとうございます、私も似たことを思っていたので参考になりました。」

良かったかもしれない。まぁ、私はWEBデザインをやらせてもらえずIT土方になって、今はそこを追い出されて強制的に広報をやらされてるなんて言えなかったが。

「クボヅカサンは、ショクギョウクンレン以外でもPCのスキルをミニツケタコトハありますか?」

「いや全然とくには持っていませんでしたね、訓練校でほぼ初めてOffice365を触ったとかそういうレベルでした。」

「ニュウシャしてからクロウシマシタカ?」

「最初は確かに覚えることが多かったですが、段階的に技能を身につけられたので大丈夫でした!まあ人による部分はあると思います。お二人は3週間インターンに参加されて、ある程度感覚を掴んでいただけると思います。」

これは嘘だ。突然上司にJavaができると言って別の協力会社に放り込まれて、そんなこととはつゆ知らず客先で作業し始めたら話と違うと怒鳴り散らされ、ひいこらしながらやったものだ。まぁどこでもそんなものだろうからこの辺は言っても仕方がない。

「他になにか質問はありますか?...はい、それではこの場での手続は以上となります。受け入れ可否についてはこちらから訓練校の方に連絡させていただきます。基本的に先着順なのでお二人ともアサインして頂く形になるかと思うので、これからよろしくお願いいたします。」

「よろしくお願いいたします。」

「ヨロシクオネガイイタシマス。」

とりあえずインターンの申し込みの手続きは完了したので、そこで北野さんと朴さんとの会話を打ち切った。

「窪塚さん、先程はどうも。」

昼に会話した女子高生の柊あかねであった。

「あ、えっと柊さんだったっけ、どうしたの?」

「私もインターンの手続きお願いできますか?」

うちのインターンめっちゃ好評らしい。
あれ、でもこれ僕の負担が増えるだけかもしれない。

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