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レコード棚を総浚い #63:『Crosby,Stills,Nash & Young / Déjà vu』

2023年はジェフ・ベックとデヴィッド・クロスビーの訃報で幕を開けた。
フォークロックの「発明」を成したザ・バーズでキャリアをスタートしたクロスビーは、バッファロー・スプリングフィールドのスティーヴン・スティルス、ホリーズのグラハム・ナッシュと組み、異質な才能の「膠」のように機能した。
さらに異質なニール・ヤングまでも組み込んで作られた世紀の傑作が本作『デジャ・ヴ』となる。

思えば、ザ・バーズというバンドは、一聴難解なボブ・ディランの楽曲を民衆に理解しやすいカタチに「翻訳」し、拡散したバンドだった。
本作でも深い精神性を湛えたジョニ・ミッチェルの名曲『ウッドストック』を非常に明快なロックチューンに再構築している。
おそらく、デヴィッド・クロスビーの翻訳マインドが発揮されたものと思う。

ジョニにこの曲のインスピレーションを与えたのは、当時の恋人であったグラハム・ナッシュだったそうで、ジョニ自身より先に本作の同時発売シングルとしてリリースされた。
ジョニ本人は、アルバム『レディズ・オブ・ザ・キャニオン』からの第1弾シングルのB面に『ウッドストック』を収めたが、CSN&Yの大ヒット(全米11位)で、彼女のキャリアにも大きな転換点を与えた。

アルバム『デジャ・ヴ』には、癖の強いニール・ヤングの楽曲と温厚な人柄あふれるナッシュの楽曲が違和感なく並び、この名盤の輪郭を作っている。そしてこのアルバムの「ロック」らしさを担うのがスティルスだろう。72年に彼が先導して作った『マナサス』は、愛聴盤中の愛聴盤。

この異質な才能たちは、このアルバムを制作している間もぶつかり続け、泥沼の混戦となる。それを一つに束ねて作品に仕上げたクロスビーの人柄こそが、最大の才能であったのかもしれない。


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