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胚(受精卵)凍結 体験記録

初診〜採卵〜採卵当日〜採卵後の記録です。
胚(受精卵)凍結については、周囲にわりとオープンにした。体調を崩す可能性があったし、通院に莫大な時間がかかったから。その過程で、同年代やもう少し若い世代の女性が興味津々なことを知った。みんな不安をかかえている。家族とか病気とか、色々な事情を抱えている。そして私も採卵前には採卵レポを読み漁って、助けられた。
こういった状況に、私も助力できればと思ったので、レポ残してみたよ。
卵子凍結を考えている方は、採卵までが参考になるかも。

背景情報

・30代序盤夫婦、子供なし
・私:理系、博士修了間近、海外勤務予定、仕事がんばりたい
 夫:文系、激務、仕事がんばりたい
・海外へは単身渡航予定。他に家庭の事情もあり、直近出産を考えていない
・月経困難症で10年来低容量ピルを服用していること等から妊孕性に不安があった
・夫も生殖機能について精査経験は無い
→ 渡航前に一度話を聞いてみよう、と初診予約

初診

初診は夫婦で行った。結果的には、夫婦で行くのがオススメです。理由は以下。

  • スケジュール感を共有できる

  • 診療の流れ(採血→エコー→…)、受診時間の感覚(長い)を共有できる

  • 感染症検査と精液検査を初診時にやっておくと、夫側は次の受診が採卵日だけでよい。都合がつかなければ自宅採精→持ち込みもあるので、初診のみ受診も最低限可能。

初診時に質問したこと。
・卵子凍結と受精卵凍結どちらがいいか
 →受精卵の方が凍結技術が発展していることや受精して発生の進んだ段階で
  凍結できることを考慮すると受精卵凍結
 (※パートナーが変わらない予定ならば)
・1回目試してダメだったら次すぐにリベンジできるのか?
 これは留学を控えており時間的猶予が無かったため。
 →卵巣腫れるのでリスク高いが、できないことはない。

初診時は問診→採血→エコー→インフォームで約3時間。エコーで卵胞が少ない(右1-2個、左は描出に苦労)、卵巣はおやすみしている感じだねと言われる。やっぱりかという感じ。エコーは内診台で経膣。

次回は月経が来て3日目までに受診。担当医(男性)から「茶おり(茶色いおりもの、の意)が出たらもうそれ1日目ね!」と女性スラング?混じりに言われてビビる。知っていてさすがである。

採卵まで

月経2日目に2回目の受診。採血→エコー→インフォーム→処方の流れ。
まさか月経中でも経膣か…?と構えたが、エコーは全て経膣です。ちゃんと描出するためなので、がまんがまん。お医者さんだって、経腹でいいならそうするよね。

卵巣を刺激する

初診時の内診で卵胞が少なそうだったので、強めに刺激してみようか、と提案いただいた。AMHという卵巣予備能の参考になるホルモン値も実年齢の5歳くらい上平均。やれることは全てやってみたいと伝えた。
自己注射の説明を受ける。普通にアンプル(凍結乾燥製剤)、生食、2.5 mlシリンジ、23G(薬液調整用)、27G(注射用)のセットで、素人もこれやるんか?!とビビる。アンプルでめちゃくちゃ手を切りそう。
初回は看護師さん監督のもと、おへそまわりに皮下注射。27Gなので刺入は全然痛く無いけど、薬液注入時はちくちくと痛い。
注射経験は比較的豊富だが(獣医なのと、実験動物への投与で)、ヒト、ましてや自分に注射は心理的負担が大きかった。非医療者で自己注射されている方のことを心底応援している。周りにいたら代わりにやってあげたい。

以下に採卵までの通院スケジュールと投薬スケジュールを図示。
月経開始日をDay1とします。

通院・投薬スケジュール。頻回通院が時間を奪い、周りより作業できてない焦燥感がキツかった…。

投薬は人と場合によって違うと思います。私は時間猶予が無かったのと、卵巣がお休み感出てたので強めの刺激スケジュールだったと思う。

初めての自己注射(最初の監督下を除くと)が出張先の宿泊施設だったので、なんだか非現実感があって侘しかった。出張戻り以降も毎日、大学のトイレなどで自己注射。トイレは狭いし、様々な疾患で自己注射されている方々の普段の苦労を窺い知る。

刺激により急成長する卵巣

これは、私みたいに(自分は女性としての機能が劣っているのではないだろうか)と思っている人の勇気になればと思うのですが、強めの刺激プロトコルが合っていたのか私の卵巣は急成長を見せた。初診時「お休みしているね」といわれた卵巣(かわいい表現だ)は、次の受診時(Day6)には嚢胞腎みたいになっていて、それぞれ7-8個の卵胞がエコーで描出された。体調としてはあまり変わらず、順調。採卵まで、少しお腹が張るかなくらいで基本的には順調だった。薬の副作用か、多少気分が悪かったりお腹の調子が悪い日があったけど、生活習慣もやや乱れていたので原因は定かでない。受診するたび卵胞は成長していった。
腹囲が増えるので、ワンピースやゆるいズボンを買い足した。頻繁に通院があり、毎回エコーで下半身すっぽんぽんになるので脱ぎやすいゆるいレギンスとワンピースがあると便利。

採卵

前々日(Day14)の22時に点鼻とhCG自己注射、23時に点鼻でたまごにオラ!成熟しろ!と指令を出し、いよいよ採卵。採卵日の確定は採卵3日前。1日くらいは自分の都合でずらしても大丈夫な感じだった。仕事の都合とかあるから、本当は早く確定させたいよね。でも、卵胞の育ち具合をチェックしながらなので、採卵日の決定は数日前が基本と思われます。
鎮静(プロポフォール)をかける予定だったので、前日21時から絶食。水分は24時まで。

当日準備

特別な持ち物はなし。軽食とナプキン、鎮痛剤があればという感じ。自分はどれも使わず。お腹を圧迫したくなかったのと、着替えやすさを重視してユニクロのマタニティレギンスとワンピースで受診。
朝9:30受診。夫は採精室へ。私はリカバリー室で着替え。全裸ガウンになる。靴下も脱いだ。リカバリー室は簡単なベッドとロッカーのある部屋。荷物を鍵付きロッカーに入れる。ちなみに当日はアクセサリーやネイルは全オフ、メイクなし。まつエクは特になにも言われなかった。
抗菌剤を処方されて、少し待機。トイレを済ませる。10時前にルートを取りに看護師さんがやってきて、点滴開始。しばらくしてオペ室に呼ばれる。
オペ室ではこんな感じ。

私は体が硬いので、毎回の開脚が辛くて仕方がない。
煌々と照らされる股間がシュールで笑った。

入室したのは10:05くらいだったと思う。胚培養士さんがご挨拶に来て腕に巻いたバーコードを読み取り、ドクターが呼び込まれて入室、導入開始が10:15。看護師さんと数をかぞえながら入眠。「じゅうよーん」までいったところで眠たくなってうとうとした。結構浅めで、途中2回ほど目が覚めてプロポ追注。チクチク採卵の痛みはあったものの、激痛ではなく耐え。鎮静中はぼやーっとしていてわりと気持ちよかった。メガネが無かったのでよく見えなかったけど、モニターに写っている卵細胞的なやつ(周りの残滓をよけよけしてるとこ?)を眺めたり、時計を見たりして過ごす。終了は10:45。採卵自体はちょうど30分くらいで完了。
「止血のために膣にガーゼをがんがんに詰められた」というレポを見かけて恐れていたが、終了時にドクターが「ガーゼ要らないですー」と言っているのを小耳に挟んでニヤつく。終了後は速攻退室。看護師さんが車椅子に乗せてくれてリカバリー室へ。フラフラ度はほろ酔いといった感じ。

リカバリー後

麻酔や鎮静剤の相性によっては結構フラフラしたという話を聞いたり、隣のリカバリー室の人(私の前に採卵したと思われる)がしんどそうだったので覚悟していたけど、幸いとても回復が早かった。
記録によると、採卵が10:45に終わって、リカバリー室にはいったのち立ち上がってパンツを履き、スマホを手にとって11:08には夫に元気だよというLINEをしている。ちなみにすこしだけ出血していて、ガウンについてしまった。その後ほとんど出血はなかったけど、ナプキンはやっぱりあった方が安心かも。
点滴はリカバリー室に入ってから10分くらいで終わって、ルートも抜いて自由の身に。11:35には一般待合室に戻った。その後エコーで出血してないことを確認して(ボコボコだった卵巣は縮んでいた)、インフォーム。
31個(多くて驚いた)採卵し、1個は変性卵だったので30個を分け、20個ふりかけ法、10個顕微でいきましょうと説明を受ける。翌日の夕方くらいに、受精結果のメールが行きますと伝えられて当日は終了。お会計して帰宅。

受精結果

採卵翌日15時にメールで連絡が来た。ふりかけも顕微も50%くらい。成績としてはさほど良くなくて、このタイミングでやっておいて良かったのだなぁと改めて思う。

採卵後

苦悶の採卵後


採卵まで、自己注射が辛かったものの順調に来た。採卵日も回復がスムーズで特に痛みもなく経過。はー終わった終わった!と思った。
しかし採卵後が一番具合が悪かった….。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは
女性の卵巣は親指大ほど(3~4 cm)の臓器ですが、その中の 卵(卵胞)が不妊治療における排卵誘発剤に過剰に刺激される ことによって、卵巣がふくれ上がり、お腹や胸に水がたまるな どの症状が起こることを卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼びます。

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1r01.pdf

多数の卵子を採取するため、ガンガンに卵巣を刺激し、通常1個育つものを私は31個も育てたわけです。OHSSのリスクが高いことは分かっていたのだけど、お腹がパンパンに張って、腹水も貯留した。

採卵後受診したのは採卵4日後。採血でHtが高い(46%)ので水分をたくさんとってねとのこと(血栓症リスクが上がっているため)。エコーでは卵巣が長径9 cmと7 cmに腫大しており、腹水貯留もみられた。採卵直後に萎んでいた卵胞は再び大きくなっていた。黄体になっているらしい。繁殖の授業で聞いた僅かな記憶をたぐる。
腹水は膀胱子宮窩まで溜まっているとわりと溜まってるねーとの判断らしい。溜まっていたので、中等度といったところなのかな。卵巣長径が12 cmを超えると入院を考慮するレベルだそう。OHSSは採卵後1週間くらいで急激に良化することが多いとのことで、様子見。これを書き始めているのは採卵6日後なのだけど、まだお腹パンパンです。採卵すれば全てが終わるという計画、キケンなので気をつけてね。

OHSS経過(追記)

結局、採卵後1週間くらいは腹水と卵巣の腫大でお腹が苦しく、歩くのにも苦労する時間を過ごした。採卵後はすぐ元通りに動き出せるような計画で居たので、大誤算。硬い地面を歩くとお腹に響いて痛みと違和感があり、いつもの半分くらいのスピードでしか歩けず…これが地味に辛かった。波動感ってこういうことかと思った。
腹腔内臓器の圧迫なのか、食欲も落ちてしまった。酸っぱめのサラダしか食べられなくて、2kgくらい体重が落ちてしまった。また、便秘になりますと言われていたのだけど、それも本当だった。
採卵8日後に月経が来て、そこから急激に良くなっていった。「採卵後1-2週間で月経が来て急激に良くなります」と事前に言われていたのだけど、本当で感動。腹水も月経が来たくらいのタイミングから3日くらいかけて急激に無くなっていった。いま辛い思いをしている方、きっともうすぐ良くなって元気ピンピンに戻ります。採卵2週間後にはけっこうタフな旅行もこなせるレベルに回復!ただ、月経はいつもより量が多くて重たかったかな。

凍結

採卵からちょうど1週間後、メールで凍結個数のお知らせが来た。8個。
31個採卵して30個を受精に供し、20個ふりかけ、10個顕微で受精が14個。胚盤胞まで行ったのが8個。じつに1/4くらい。人それぞれだと思うのだけれど、とても難しいことなのだと思い知った。ここからいざ移植となった時に、どれだけ育ってくれるかもまだ分からない。今の時点でやっておけて良かった、これに尽きる。

費用

胚は特段の理由(病気など)が無い限り、すぐに移植する前提が保険適用なので今回のような凍結は全て自費になります。

初診時:妻側3.5万円、夫側1.5万円。
採卵まで:約23万円。
採卵:約10万円。
培養と受精作業(顕微は1個当たりの価格)、胚凍結:約40万円
合計70万円くらいか…(@_@)

その後胚凍結更新料:1個につき約3万円

まとめ

やって良かったかどうかでいうと、圧倒的にやってよかった。
まず、夫婦お互いの生殖機能について認識することができた。結果的に、自然妊娠でOK〜はなまる大丈夫!な状態では決してなかったので、今の段階で凍結を試みることができて良かった。
あと、話し合いづらかった妊娠というライフイベントに夫婦で改めて向き合うことができた。何度か話はあっても、次第に話しづらくなってきていた。話し合いづらかったのは、私に「いま産む」という選択肢のない話し合いだったから。お互い忙しく、腹を割って話す機会すら失われてきていた。このことを無遠慮に他人から批判されたりするけど、人にはさまざまな事情があること、ご理解ください。

ずっと担当してくれたドクター(完全担当医制の重圧はいかほどだろうか…)も夫婦お互いのキャリアプランでタイミングが難しかったらしく、とても親身に話を聞いてくれた。私が獣医だと知ってプチ医療トークをしてくれたり、信頼関係が築きやすかった。腹水のエコー画像も、「欲しがると思って…」と印刷してくれた(欲しかったのでめちゃくちゃ嬉しかった)。心の底から感謝している。

思っていること

出産育児に踏み切る決断には勇気がいる。人それぞれの事情がある。
ここではキャリアプランという観点から言うと、出産育児というライフイベント、キャリア形成で重要な年齢とまるかぶりでつらいよ。学部6年で24歳、数年働いて、博士課程に入るころにはもう30が見えていた。博士課程は4年間。学位をとって"博士"になってからは、なおのこと頑張りたい。目の前の仕事やなんやかんやをどれだけ身を削ってこなしても、体の加齢はどうにもならない。「早く産め」と言ってくる人間が周囲に増え出すことにも憎悪がつのるばかり。ぜったい話しかけんな!

冒頭に記した通り、同じような悩みを抱えている女性、これからの人生設計に不安を感じている若い世代、そして夫側の男性にも参考になるといいと思っています。よろしくね。

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