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複雑怪奇な君でいて

新しい話を書くためには音楽に酔うような数日が必要で、今、それをやっている。一つの曲をずっと繰り返し聞いて、頭の中にリズムを刻んでいく。そのリズムが言葉のリズムになって、文章の音楽性が決まる。つまり、どう始まり、どう終わるか。その間にどんな波が描かれるか。

今日はAMの大川さんと電話した。昨日公開された新作について、それから次の作品に向けて。話していくうちに、ぼんやりとした線が浮かんできて、もしかしたらこれが作品をふちどる輪郭になるんじゃないかしらと考える。
二人で楽しいことをたくさんしゃべった。好きなものについて取り留めもなく話すと、元気がでる。できるだけいろんな人とこういうおしゃべりをしたいと思った。
でもそれは、おかしいことにおかしいと言うのを止める、という意味ではない。ということは、もうこれまでもわたしの文章を読んでくれている方には伝わっていると思うけれど。大切なことはいつも流れ行ってしまうから、留まるように何度でも書くね。

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今文章を書く上でやるべきことは、できるだけ嘘をつけかないで文章を書くこと。それは文章の内容に対してではなく、自分に対して。
楽しくなかった過去をすばらしく意義があったとコーティングしないようにする。うまくまとめない。傷ついたけど成長した!みたいなテンプレートで出来事を語らない。お前に起こった出来事はもっと繊細で唯一のはずだろう。そのこまやかさを疑うな。個人に起きる出来事はまぎれもなく複雑なのだ。その複雑さがプリズムのように輝くから美しいのだ。単純化するな、簡易化するな、複雑で他人が理解できないままでいろ。

昨日、理解されることについて考えていた。長らく、それがわたしの一番ほしいものだった。それはとても気持ちが良くて、幸福で。もうこのあたたかさを無くしたくなくて、理解されることを第一にふるまっていた時期があった。自分の本心を隠して。
それはとても不幸なことだった。抑え込まれた気持ちは、反動で爆発した。離散したわたしの心を拾い集めて、元の形にする作業を何年もかけておこなった。大変な作業だった。わたしはそれを「人生に必要だった」なんて絶対に思わないし、安易な意義づけなんてしない。必要のないことをさせてしまった、自分自身に。だからもう二度としない。そして他の人にもさせない。

大切なことだから言葉にしたいんだけど、わたしは理解されない君を愛しているよ。だから、誰からも理解されなくてもいいんだよ。複雑でいいんだよ。複雑怪奇でも楽しいね。君にしかわからないルートを一人、たどっていたとしても、変わらずに君を愛しているよ。一人じゃないんだよ。

大切なことはいつも流れ行ってしまうから、これから何度も書くね。きちんと君の心に留まるように。それじゃあ今日もおやすみ。明日も元気で過ごしてね。君は君でいてね。

よしもとみおり@yoshimoto_miori

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photo by Shin Ichinose

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