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【CHC】Another Comeback~Bellinger堂々と帰還す~

時は日本時間2024年2月25日の日曜日の16時過ぎのこと。

現地シカゴでは午前1時を過ぎてカブスファンがST2連勝を喜んでスヤスヤ寝ている最中、安心と信頼のMLBトップインサイダーと名高いJeff Passan氏が、待望の瞬間を教えてくれた。

狂喜乱舞、有頂天外、欣喜雀躍きんきじゃくやく大慶至極たいけいしごく…。様々な喜びの表現が浮かび上がってくる中、かの騒がしい日本人カブスファンは…

まるで某賭博黙示録漫画の主人公張りに絶叫していましたとさ…。

ということでお疲れ様お前がだろです、イサシキです。

今オフFA市場で目玉選手と評されていたCody Bellingerコディ・ベリンジャー3年$80Mでカブスが再契約を果たしました。敏腕エージェントと名高いScott Boras氏とカブスが結んだ契約規模としては、2003年オフに3年$24Mで加入したGreg Madduxグレッグ・マダックスを抜いて史上最高額を大幅に更新するという、球団にとってもヒストリカルなイベントになりました。

以前よりカブスとの再契約がほぼ既定路線とみられていたBellinger。しかしここに至るまでの道のりはお互いにとって茨の道となったことでしょう。今回は契約内容とそれに関する双方の思惑、そして起用法と再契約に至るまでのヒストリーを辿ってみようと思います。

また、昨日緊急ライブ放送を敢行したカブスラジオのアーカイブでも、お馴染みMasatoさんとフェグリーさんの3人でBellingerについて語っていますので、よろしければお聴きください!

契約詳細と契約までの経緯、その思惑

スライド

カブスラジオとかで使ったやつ

契約詳細と契約経緯についての考察

昨日お話ししたカブスラジオで使用したスライドの通りにはなりますが、3年$80MAAV換算で約$26.67Mと適正価格に近しい評価をできる一方で、特筆すべきなのはその契約年数の短さ毎年オプトアウト可能であるということでしょうか。
当初6年/$200M超の契約を要求していたとされるBellingerサイドですが、移籍の噂が挙がっていたヤンキースを筆頭に別の選手を獲得して早々と撤退する状況の中、年明けあたりからカブスとの残留交渉が本格的に取り沙汰されるようになりました。

代理人であるBoras氏はいつも通り球団幹部ではなく、シカゴを拠点とするスポーツラジオメディア”The 670 Score”を通じつつ、カブスオーナーであるTom Ricketts氏と直接の会話を試みようと動いていましたが、案の定Rickkets氏はこれがBoras氏のやり口であり、それをするとGMらとの関係性を壊してしまうとの理由で全く応じず。一貫してチーム補強方針をカブスの編成総責任者であるJed Hoyer氏に一任している姿勢を崩さなかった形となりました。
一方、Bellingerが現状のカブスにとってフィットすることも事実であったため、2月中旬の時点で交渉段階に入っていないことなどを憂慮している発言などもありました。

正直なところ、私自身もBellingerはドジャース時代から二人三脚で歩んできたコーチのJohnny Washingtonジョニー・ワシントンと一緒にエンゼルスに行きたいのかなあと考えたり、贅沢税を無視してベストフィット感のあるパドレスに行くのかなあと思ったりする日々が続いてしまうくらい、Bellingerサイドとの再契約に現実味を感じていませんでした。
もし再契約を試みているとしても、あまりにも硬直状態が続きすぎてBellinger本人のパフォーマンスに影響が出てしまうのではと日々考えている始末。これではせっかく円満に見えた23シーズンが水の泡と化してしまうとも思っていました。

それが一転して契約へと結びついたこのカムバック劇。個人的にはBellingerがディスカウント待ちに待ったをかけた形で成立したものではないかと考えています。

Bellingerサイドの思惑についての考察

スライドにもある通り、契約にある最大の思惑は「早期にFA市場で大型契約を狙える」ということでしょう。

無論AAV約$26.7Mは同地区のブルワーズに所属するChristian Yelichクリスティアン・イェリッチや、先日大型エクステンションに応じたロイヤルズのBobby Witt Jr.ボビー・ウィット・ジュニアらと同規模。昨年MLB全体で4人しかいなかった”20-20”HR-SBを達成したバウンスバックシーズンのオフということもあって、この金額は妥当と言えるでしょう。

強いて言うのであれば「年数の短さ」

大型契約も望まれた今オフでそれが叶わなかった理由はいくつかありますが、やはり最も懐疑的な声が上がっていたのは「23年のBellingerは本物だったのか」という部分でしょう。

Marlins Fishbagさんが過去にポストした解説にもある通り、Bellingerの場合は

「バウンスバックであってバウンスバックでないもの」

つまり、ドジャース時代にMVPを獲得したときのような打撃のプルヒッティングやハードヒットを目指しているのではなく、コースに逆らわない確実性の高いアプローチに徹した結果が好成績につながったのではないかという考察に強い説得力を感じるとともに、それが大型契約を得るための「就活打法」と言われるのも個人的には頷けます。

Bellingerも決して疑いの余地がない完璧な形で市場に出てきたわけではないということ。そして求める契約規模も相まって球団側との交渉が進展しなかったということもあっての長期化により、時間が経つにつれて不利な状況に追い込まれていったと見るのが自然といったところでしょうか。

とはいえそこはさすがのBoras氏。21年オフにアストロズからFAとなったCarlos Correaカルロス・コレアが結んだ3年総額$105.3Mの短期高額契約、そして毎年のシーズンオフにオプトアウトを付けて大型契約を勝ち取るチャンスを残す、いわゆる「Correa式契約」の締結にまでこぎつけました。
これでBellingerは24年シーズンに活躍すれば晴れてオプトアウトを選択、そして大型契約をゲットする可能性も高いでしょうし、何より2年連続で活躍することになればMLB各球団からの信頼度もグンとアップしますよね。

結果だけ見れば6年$200M以上という条件を引き出すことはできませんでしたが、BellingerのキャリアやBoras氏(とその企業)の利益、そして後述するカブスにとって現時点での理想的な契約になったとも感じます。

球団サイドの思惑についての考察

Hoyer氏のここまでの補強ぶりに特徴を簡単に述べると

リリーフはバウンスバック狙いor訳アリのベテランを安く獲得する
→21年~22年はそれをトレードチップにする錬金術を積極的に行う
②5年以上の大型契約を凄まじく嫌う
→球団編成のトップになってから結んだ5年以上の契約は、Dansby Swansonダンズビー・スワンソンへの7年$177M鈴木誠也への5年$85Mのみ
③補強方針として
スターターは内野守備を活かすために技巧派でグラウンドボーラータイプを積極的に狙い、野手はメークアップに優れつつ、攻守にソリッドな選手を狙う(フリースインガーは避けている印象)。

おおよそこの3つを軸にコアとなる選手を集めており、今オフも長い長い沈黙の後に今永昇太Hector Nerisヘクター・ネリスを獲得して不安だったスターターとハイレバレッジリリーバーの補強を敢行しました。

野手陣も悪いメンツではなく、たとえBellingerが抜けても、彼が怪我で離脱した穴を埋めたMike Tauchmanマイク・トークマンがいて、プロスペクトにはPete Crow-Armstrongピート・クロウ‐アームストロングが既にMLBデビューを果たしている状態であったため、Bellingerの出戻りが必ずしもチームにベストフィットになるとは限りませんでした。
また、長期間の契約を締結してしまうと、外野手のプロスペクトが多いカブスの有望株を幽閉することにつながりかねない恐れもあり、仮にファーストにコンバートさせたとしても、そこにはドジャースからトレードでやってきたMichael Buschマイケル・ブッシュといった試したいプロスペクトが控えている現状。チームペイロールにもあまり余裕がない中、契約面でも運用面でもマストな補強ではなかったかもしれません。

ただそれでも昨季チームトップの成績を様々な部門で残してきたBellingerのいる打線といない打線とでは雲泥の差であることは火を見るよりも明らか。そして何より左の強打者がいなかったカブスのラインナップからBellingerがいなくなることは、打線の大幅な偏りをもたらすものであるということをHoyer氏も感じていたのではないでしょうか。

「長期的なロースターロックは必要なくとも、現時点で左の強打者を短期間保有しておきたい」という編成上の課題を合理的な形でまとめ上げてきたのではないかなあと感じます。

いずれにしても、ここまで長引いたBellingerとの再契約を最適化されるまで粘ったHoyer氏には称賛の声が上がっても良いかもしれません。

チームメートは大喜び

カブス加入は昨季からという歴の浅さではあったものの、チームメイトからは絶大な人気を誇っており、Hoyer氏からもめちゃくちゃ褒められるという非常に稀有な好かれぶりでした。

Swansonに至っては1月のカブスコンベンションで「次のシーズンを迎える前に、Belliと再契約しないといけない」と発言するほど。公の場で実名を出して1人の選手の獲得を進言するレベルにまで到達するBellingerの存在感が光った一面でもありました。
ちなみに、再契約が実現した夜にBellinger本人からFaceTimeでの電話がかかってきたそうですが、Swansonはその電話に出なかったようです。

また、再契約が深夜に決まったにも関わらず、XをはじめとするSNSではカブスの選手たちが続々とリアクションを表明。特にJameson Taillonジェームソン・タイヨンはその一報が出てから20分後”Hell to the yeah.”当たり前だろ!というGIFを貼り付けて喜びを表現。その姿にカブスファン総出で「早く寝ろ」と思ったほどだったとか…。

いずれにしても1年間の在籍だけでこれだけのリアクションを引き出すBellingerの魅力を体感させてくれる出来事でした。

本人の根幹にあった「カブス愛」

ポストシーズン進出を逃した昨季のシーズン最終戦でHoyer氏と談笑をしていたというBellinger。不振を拭い去ったオフにFAを選択できる権利を持っていたことに相当ワクワクしており、年齢も相まって7~8年クラスの大型契約を勝ち取れるのではないかと思っていたそうで、実際に結んだ契約と開きがあったのは事実でした。

しかしそれ以上にカブスに戻ってくることを望んでいる節がありました。

“didn’t hide the fact internally that I did want to come back here”


「俺はここ(シカゴ)に戻りたいという事実を隠してこなかった」

原文意訳

“I love Wrigley Field, I love the fans. Me and my family enjoyed Chicago. When it was coming to the end and everything was coming to light, this was something I definitely wanted and both sides agreed on. I’m super happy it worked out the way it did.”

「俺はリグレーフィールドが大好きだし、ファンも好きだ。俺も家族もシカゴを満喫していた。それが終わりを告げ、そしてすべてが明るみに出たとき、これは俺が間違いなく望んだことであり、お互いが望んだことだった。この結果になったことをとても幸せに思っているよ。」

原文意訳

この言葉に嘘偽りは感じませんでした。本当にお互いが利益を享受し、最も丸く収まった形なのかなあと…。

そして各メディアでも取り上げられたこの一言

“For me to come back here with almost the same team and experience playoffs in Chicago is something I want to do, something I want to experience. It’s a big part of the reason I did want to come back here.

「ほとんど変わらないチームに戻ってきて、カブスでプレーオフを経験することは、俺にとってやりたいことだし経験したいことなんだ。それこそがカブスに戻ってきたいと思った最も大きい理由なんだ。」

原文意訳

これがすべてではないでしょうか。

打線の中軸としても”Comeback”している

FanGraphsより

先述の通り、ただのバウンスバックではない復活劇を上げたBellinger。やはり追い込まれてからのコンタクト意識が強くにじみ出ているスタッツも見えますが、とりわけ投手有利なカウント1-2と0-2以外では全て長打率が.400を超えています。

自分のバッティングはローあるいはミディアムレバレッジで、重要な局面(ハイレバレッジ)はコンタクトヒッティングでチームに貢献する。
思惑はどうであれ、このチームの中心選手として、そしてチームの勝利に献身的に貢献する姿はファン目線でも抜け目がないように見えます。

最後に

数々のAwardを受賞し、自身のキャリアを再び輝かしいものにしようとしているBellingerが次に見せてくれる物語に期待したいと思います。

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