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ありがとうプロ野球ai

野球好きなもので、時々週刊ベースボールを買ったりする。リーズナブルな価格、割と読み物が多い構成、こんな言い方してはあれだが、ちょっとした暇つぶしに最適だ。
ところで、本屋に行って週刊ベースボールの並んでいる棚に目をやると、いつもなんだか気になってしょうがない雑誌がある。

それがプロ野球ai。

アイドルのような笑顔で表紙を飾る若手プロ野球選手たち。プロ野球雑誌なのにユニホーム姿の選手はあまりいなくて、ほぼ私服。プロ野球aiの常連選手は、完璧なイケメンというよりも、かわいいタイプで隣のお兄ちゃん的な、親しみやすい感じの選手が多い。
「今光っているヒーローランキング」「選手の素顔」「もっとプロ野球にドキドキしよう!」などなど、若年層の女子がターゲットであることが一目瞭然な、独自路線を貫いているプロ野球雑誌だ。
いつからか、私は本屋に行くとプロ野球aiの表紙を必ずチェックするようになっていた。今女子に人気なのはこの選手なのだな、と確認して、試合を観るときもそれをふまえた上で観るようになった。プロ野球aiで知るようになった選手も少なからずいる。

しかし、私は自分はプロ野球aiのようなキラキラした雑誌とは無縁の人間だと思っていた。一応女子だが若くもないし、中身は野球好きのおっさんみたいな人間だし。割と渋めの選手だったり大人な感じの選手をかっこいいと思うクチだから、プロ野球aiの読者層とはどう考えても相容れなかった。
しかし、どんな選手が表紙なのかは気になる。なんなら人気ランキングの順位を知りたいとさえ思う。ちょっと立ち読みしちゃおうかな、と思ったことも1度や2度ではない。でもできなかった。

恥ずかしいのである。

誤解無きように言えば、プロ野球aiが恥ずかしい雑誌だということでは全くなく、自分のようなおっさんみたいな女が、こんなキラキラした雑誌を手に取っている姿を見られるのがたまらなく恥ずかしいのだ。誰も自分のことなんか見てないとわかってはいても、それでも恥ずかしいのだ。
そういうわけで、私はプロ野球aiは表紙をチェックすることのみに終始。実際買うのは週刊ベースボールやがっつりプロ野球という日々を送っていた。


転機は突然訪れた。
ある日いつものように本屋に行ってプロ野球aiの表紙を見ると、なんと、信じられないことに私の好きな選手が載っているではないか!
‥‥‥私はその場に立ち尽くした。おそらく30分くらい呆然としていたのではないか。私の心の中に葛藤が渦巻いた。見たい、読みたい、買いたい。私の好きな選手はどんな私服で、どんな食べ物が好きで、どんなアイドル笑顔で笑っているのか⁉見たいけど見たくない‥‥でもここでこのプロ野球aiを買わなかったら一生後悔するかもしれない‥‥‥。

震える手でプロ野球aiを手に取りレジに向かいかけ、戻って棚に戻す。深呼吸。それほど買いたくもない雑誌をもう一冊選び、プロ野球aiの上に乗せて意を決してレジに向かう。エロい雑誌を買う10代男子の心境はこんな感じなのだろうか。おそらく最初に表紙を見てから1時間くらいたっている。いったい自分は何をやっているのか。

レジカウンターには20代とおぼしきお姉さん。
1冊目の雑誌のバーコードをピッとやったあと、お姉さんの視線はプロ野球aiに注がれる。お姉さん、見るな、見ないでくれ!違う、違うんだ!私は堂林をどうクンとか坂本のことをハヤトとか、そんな呼び方をしたことは1度もないんだ‥!
お姉さんが私の顔を見る。
「袋にお入れしますか?」
もちろん、もちろんですよ!ぜひ入れてください!
ビニールの袋から透けているプロ野球aiの表紙。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしすぎるよーー!!

会計が終わった後、ものすごく冷たい汗をかいている自分。一気に力が抜ける。とにかくやり遂げた。プロ野球aiを買えたのだ。

私は家でプロ野球aiを読んだ。好きな選手が対談しているページも堪能したし、好きな選手ランキングもじっくり眺めた。ランキングは北海道日本ハムファイターズの選手が上位を独占していた。
選手の上目遣いや、ちょっと照れた顔、カメラ目線のスマイルが満載のプロ野球ai。質問は好きな女性のタイプはとか、よく聴く曲はとか、ファッションのこだわりはとか、野球ほぼ関係ない。いや、すごい、すごいなプロ野球ai。

いろいろ言い訳して自分の心に嘘をついていたけど、私はプロ野球aiを買いたかったのだ。選手の上目遣いが見たかったのだ。
そんな自分の真実の声に気付かせてくれたプロ野球ai。本当に感謝しかない。ありがとうプロ野球ai。


その後プロ野球aiは2017年に休刊し、世の野球好き女子たちから惜しまれたが(私も惜しんだ一人である)、2018年出版社を変えて無事復刊。

以前よりターゲットの年齢層を若干高めに設定し直したのか、スーツ姿の選手を前面に押し出し、落ち着いた表紙。これは買いやすくなりましたね。

これはまるでananと見紛うような表紙。セクシー路線できたね。
乳首出てる表紙は買いづらい!(そして価格!需要!)でもまあ今は通販で買えるからね。



今、なかなか選手に取材もできなくて雑誌作るのも大変な時だと思うけど、プロ野球aiにはこれからも独自路線を貫いて野球好き女子を喜ばせてほしい。がんばれ、プロ野球ai。ありがとうプロ野球ai。