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演出効果を生み出すiPadグラフィックレコーディングTIPS

3月は霰と雪が降る札幌に行ったんだったなぁと思い出しながら、この記事を書いている名古屋です。都内はすっかり温かくなりましたね。

さて、SAIHATE LINESでのデジタルでのグラフィックレコーディングは、既にnoteでも熱くレポートしたようにデジタルとアナログの両方を想定したチャレンジでした。

会場内でのスクリーン投影に、A0版への出力と、デジタル&アナログを踏まえた想定や制約内でどんな工夫をしていたのか?ちょっとテクニカル編でお届けします。

先人の知恵に学べ!

既にスケッチやイラストを描く方のTipsも多く出ているので、私たちも先人の知恵から短時間であれこれを吸収して臨みました。ちなみに利用したのはiPadお絵かき勢にはおなじみの「Procreate」です。高機能さ、レイヤーをどう乗りこなすか?そのあたりのセンスが問われますね。

まずは当日登板する2名(わだ・なごや)各々が使いやすくなるよう、個々に環境を設定。特段複雑な設定はせず、これぐらいを設定しておきました。

1本指でなぞる:消しゴム
2本指タップ :1手戻す
3本指タップ :スクラブすることでレイヤー削除

このあたりは複雑にしてはおらず、様子をみながらの設定です。

アナログ出力を前提としたデジタルでのグラフィックレコーディングの設計

今回はiPadで描いた後に、北大にある大判プリンターでA0サイズの出力を行うことを前提としていました。デジタルで描き、仕上がったら即出力! それを会場に展示するという流れです。リアルタイムに行われるデジタルのグラレコを、フィジカルに触れられる大きなものに変えていきます出力したものに参加者の皆さんがコメントの付箋を貼っていくことで、開催中に会場中をひとつにするものを生み出していくという計画を行いました。

事前にiPadの画面と、北大のプリンターで出力した物との間にどれぐらいの色の差が生まれるのか? 感覚値として掴んでおくために、テストプリントを実施しました。

和田が現地調査&ミニワークショップに行った際に描いたグラレコに、簡易的な色相環と、グレースケールを色見本として載せて印刷しています。これを現地から届けてもらい、iPadの画面と見比べながら、どれぐらい色が変わるのか? インクによる沈みが発生するのか? の感覚値を叩き込みます。

また、タイムラインを確認しながら、2名のうちどちらが何を描くのか? を決め、出力が何枚になるか? を計算します。具体的には大きく3回に分けて描くため出力も3枚に分けることにしました。

そして3枚が配置された時にどう見せたいか? 各セッションをどう配置するか? のアタリを設計し、2名共同で使う背景グラフィックを作成。それぞれのグラレコ時に背景設定を行い、3枚が並んだ際の見栄えをコントロールします。


デジタルだから、トライできることを!

普段のグラレコで地色を敷くとなると、膨大にインクを使いますし、乾燥にも結構時間がかかるんですよね。黒いボードに描くこともできますし、他の色ボードもありますが、載りやすいインクの都合を考えるとなかなか自在にとまではいきません。しかしデジタルなら、濃い色合いも自由自在! というわけで背景には濃い色合いを敷きました。

今回の依頼の発端となった「Designing Ours」の表紙デザインが星座であったこともあり、研究者と音楽家の生き様(LINE)を繋ぐという意味から、遠く最果てまで広がる星空を描くベースとして銀河をイメージしています。

Designing Ours「自分たち事」のデザイン(motion-gallery)より

そしてこの背景画像に映えるようなパレットも計画。普段自分たちがグラフィックレコーディングで使っている色を模したパレットをベースに、そこからこの背景に合う基本カラーを選択。これをグラフィッカー2名ともが登録し、大まかな色彩計画が整った3枚の画像を作っていきます。

また、レイヤーの取り扱いができるデジタルツールの利点として、登壇者のお写真を取り込み、上からトレースすることもできます。今回の登壇者のグラフィックは全てこのトレースで描いてみました。トレースをしながら、どう味わいが出るか? グラフィッカーの個性がほんのりと現れるので面白いところです。一度はやってみたい手法ですね!

レイヤーと格闘する、スリル満点のデジタルグラレコ

さて。色々自由自在に見えたiPadグラレコですが、今回出力サイズを踏まえた高い解像度&キャンバスサイズを設定したところ、なんとレイヤー数が4枚しか保持できないことが判明しました。背景用としてもう1レイヤーが存在するのですが、背景レイヤーに画像設定ができなかったため「利用できない背景レイヤー」が存在することに。もったいない!!

300dpiに対して、物理サイズが巨大(793mm×561mm)

前述のように設定した星空の背景に、イベントタイトル&サブタイトルを入れたキャンバスをそれぞれ準備し、また登壇者の似顔絵も別レイヤーに準備しました。開始直前まで3つのレイヤーを分けていたのですが、始まる前に統合し、レイヤー数を稼いでいます。

その状態で開始し、1パート(研究者2セッション+1ライブ)が終わると4つのレイヤーはこんな状態になっていました。予備レイヤーとして残していたレイヤー4もしっかり使っています。

①調整用レイヤー(上記の場合は右側、2番目の登壇者で利用)
②テキスト入れ、描画の縁取り

③登壇者の塗り(消した下レイヤーに画像を配置、トレース済のもの)
④背景画像
背景(④の画像は設定できなかったので意味を為さないものに)

事前準備ができるだけに、気を配りたい部分

今回のように「研究者2名+音楽家1組」を1枚のグラフィックに収めるために、下準備として登壇者のグラフィックを事前に準備していました。ただ、話はお一人ずつ時系列に行われますので、登壇者のグラフィックを別レイヤーで保持できる場合は、1名ずつ保持し、未登壇の方は登壇時まで隠しておくと、リアルタイムさが少し維持できます。(お話されていない方が表示されっぱなしになり、ちょっとポツンとしてしまうのです)

右下、星空と同系色で塗っている箇所に、
2番目の登壇者のグラフィックを配置しています。

また、デジタル/アナログ問わずのTIPSとしてお伝えしたいことが! 主に女性の登壇者さんの場合、プロフィール写真と比較して髪型が変わっていることがよくあります。プロフィールではストレートロングの方が、ウェーブ&ハーフアップに♥ということもありました。そのため可能な限り登壇前にご挨拶におうかがいし、当日のヘアメイクを確認します。信頼関係を築く意味合いからも、事前に登壇者のグラフィックを準備する際には大事なポイントです。その場でゼロから描く分にはクリアできる部分ですが、事前に準備する場合はこのあたりも気をつけておきたいところです。

具象でないものを、グラフィックレコーディングにする面白さ

今回は研究者の発表前に、音楽家のライブも行われました。この掛け合いが、それぞれに点を連ねてひとつのフェスを形作ります。

音楽には歌詞があったり、インストであったりと、音楽家によって様々です。音楽の世界観をどうグラフィックレコーディングしていくのか? は事前の考えどころでもあったのですが、ここは私たちグラフィックレコーダーもセッションの1部としてライブ感を出すポイントだとも捉えていました。

ここは和田、名古屋それぞれの感性が出た部分だと思うのですが、音楽から受けた印象を、形や色に描き表し、世界観をグラフィックに載せていきました。この具象ではないものを書き表すのは、新しい面白さでした。また、せっかくライブと合わせてスクリーン投影されているので、リズムにのってペンを走らせ、抽象的なあしらいをリズミカルに描いたりもしました。ここは現場で見て面白く感じていただける部分かもしれません。

アナログとデジタルを行き来しながら、描く世界を広げていく

アナログとデジタル、ツールは変わっても、リアルタイムにその場の話を描いていく点でグラフィックレコーディングとして大きな差はありません。ただ、その中でも具体的に話されたことを描くだけではなく、フェスの全体観を捉えられるような俯瞰した視点も持ちたいと計画していました。

その結果、このグラフィックレコーディングが「コンセプトの再構築」だったというコメントをいただき、私たち自身も伝わたったものがあるんだと、フェスの出演者として嬉しくなりました。

グラフィックレコーディングの可能性と面白さは、まだまだ試しごたえがありそうです! これからも楽しい設計をしながらチャレンジしていきます!

(なごや)

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