日記

田んぼに少し緑の色見が出始めて、穏やかな田舎道をロードレーサーが徐行運転で水分補給している。俺は道を歩かない。田んぼのど真ん中を横断している。俺には道とはそういうものだ。死んだ重機にはコケがこびりつき、2度と動くことはないだろう。が、俺はそれに近付いていき、ガソリンを飲み干したあと、野良犬とともに乗りこむ。野良犬とはテレパシーで会話し、その重機(ショベルカー)を動かしてもらった。そんでそのまま虹に突っ込んでいき、虹の一番高い部分をショベルでひとかきし、破壊した。それでもまだまだ俺は満たされなかった。


永遠に開くことのない踏切の向こう側にいるのは君で、長い貨物列車が過ぎたあとで煙みたいに消えてしまった。君は堂々と姿勢良く立ち、俺に笑いかけていた。なぜか、バスガイドさんみたいに白い手袋をはめ、両手を前で組んでいた。あれは一体なんだったのだろう。あの普段見せたことのないほどの笑顔が、不気味だったな。ほんの少しの勇気があれば、野良犬にしたようにテレパシーが使えれば。のっぺらぼうの心、ぐしょ濡れの心臓、松葉杖なんか捨ててやる。今なら走れそう、いや絶対走れる。刑法に触れない程度になら過ちも犯せる。俺の全財産は6シリング9ペンス。それとぬかるんだ罪悪感が50ポンド分。涙は眼から流れてくようで、本当の涙は心のブリキ缶に落ちている。1滴1滴、ポタッ、ポタッっと、ぶら下がったブリキ缶にしたたり溜まる。その音が俺のリズム(BPM)になった。俺は生きようと思った。踏切の向こうにいた君に会える日まで。


言い切れない思いを大切にそっとしまう。
路地裏に集まる掃き溜めの言葉を探して俺にくれ。
誕生日占いをマジで君は信じてたなぁ。
コカ・コーラのベンチで、ペプシコーラを。
現実とインターネットが逆転した世界で、君と痺れるキスを。俺の墓場もそこでいい。スーパーファミコン並のグラフィックで作られた墓石に、「横山」とだけ書いてくれたら。たくさんの人がそうしてるように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?