足音

いつも口の中は血の味がします。画面に打ちこんでは消して、また少し打ちこんでと、言葉はゆっくり増えていきます。

よく、夜に近所の住宅街を散歩します。いろいろな匂いがします。金木犀の匂い、線香の匂い、木の実の匂い、塗料の匂い、原付が通り抜けた匂い、フェンダージャズマスターの匂い、、など。楽しいです。風呂上がりの熱い体だと、Tシャツでいけます。下はナイキのジャージです。もう15年以上は履いているブツで、素材感とダボダボ具合が気に入っているやつです。はたから見れば不審者ですが、僕ほど真っ当な人間はいません、安心してください。小さな土手に上がって、川向うのマンションのベランダに向かって、深呼吸します。スーハー、スーハー、スーーーっ………ハァーーー……。力が抜けて、酸素を肺に取り込んで、体中に運んでもらいましょう。

これだけベランダが並んでいたら1人ぐらいは僕のことを見ているかもしれない。そう思い、敬礼したりピースサインやエガちゃんのポーズなんかもしてみます。どうだ、中々シュールでしょう。いえ、僕は真っ当な人間ですから、きちんとした挨拶ですよこれは。吐く息は白く、明日は曇っているよ。もう自分以外の人を信じてはいけないよ。

屈伸やジャンプやねじる動きもします。少しずつ、体がほぐれていく気がします。いやぁ、おじさんになりました。後ろを時々、ランニングしてる人や、犬の散歩をしてるお姉さんが通り過ぎます。意外と夜に人は多いです。星たちを指で弾いて、ロンドンまで飛ばします。古い言葉は消えておらず、姿を変えて彷徨っているのです。


ポストを開けるとネットで買ったレコードが入っていました。Marvelous Darlingsのシングル。これで8枚全部揃いました。ディスクユニオンの品揃えは凄いです。

部屋に戻る頃には、体が少し冷たいです。


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