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自分のやりたいことなんて 分かってるのかな…【シメジ シミュレーション②】

みなさんこんばんは、倉須(ぐらす)です。

今回は『少女終末旅行』のつくみずさん最新作、『シメジ シミュレーション ②』を推したい。


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『シメジ シミュレーション②』

登場人物

月島しじま…主人公。元引きこもりで、めんどくさがりな性格。頭にしめじが生えてる。

山下まじめ…しじまのクラスメイトで友達(自称)。明るい性格で頭はあまりよくない。生まれつき頭に目玉焼きが乗っかっている。

もがわ先生…『穴掘り部』の顧問。美術の担当も務めている。ややネガティブな性格。お酒を飲む。2巻のキーパーソン。

すみだ先輩…『穴掘り部』に所属してる2年生。話すのが得意ではないので持っているスケッチブックで筆談したり、絵で気持ちを表現する。

謎の少女(庭師さん)…見た目小学生な、服が白くてオッドアイの少女。しじまたちが暮らす町で〈間違いを直す〉仕事をしている、らしい。

ひらめブロック…ブロックに対して常に表向きになるひらめ。穴を掘る永久機関の動力として使用。

作品の世界観…空き地に謎のオブジェクトが刺さってたり、モブ学生たちが頭に色々乗せてたり、SF(少しふしぎ)な空間の町。主人公しじまが学校で色々体験したりしてボンヤリと世界や事象を思索する。簡単に言ってしまうと、つくみずさんらしい世界観。この世界観は読んで体感してくれと言う他ない。前作のように世界が滅んでないのでいちおう安心(いまのところ)


仕事とドーナツと自分のやりたいこと

2巻のメインのおはなし。しじまとまじめが入った部活『穴掘り部』は校舎裏の庭でひたすら穴を掘る部活。部活の顧問もがわ先生は初めはしかたなく顧問をしていたのに、次第に穴を掘ることに怖いくらいにのめり込んでいく。

「掘り続けるうちにだんだんこれこそが自分のすべきことなんだって
気がしてきて…」
「それに穴を掘ってる時は嫌なことを思い出さなくてすむんですよね…
お酒飲んでるときみたいに」

なにか、ズキリと心に刺さる言葉。

そのうち人力では掘り進めるのが難しくなってきたので、堀削機を導入し掘り進める。穴を掘り進めることには成功したけど、自分の力で掘る必要が無くなった。先生はふと〈やらなきゃいけない〉、研究授業の準備を思い出す。今まで作業に没頭していたことで避けていた現実を考えざるをえなくなり、途端に無気力となる先生。

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その様子を見て心配するしじま。

まじめ「自分で掘りたいんなら自分で掘るって言うでしょ?」
しじま「だけどみんな自分のやりたいことなんて 分かってるのかな…」

〈やりたいこと〉を自覚して生きてる人ってどれくらいいるのだろうか。やりたいことが分からなかったり、やらなきゃいけないことに押しつぶされて時間がとれなかったり。自分のやりたいことが分からないまま日々の仕事に忙殺されるのが、一番つらいかもしれない。
アンニュイな世界観でのさりげない会話だからこそ、胸によく刺さりがち。

2週間が経つと掘削機も見えなくなり、穴に石を投げても音が反響しなくなるほどの深い穴が掘られた。しじまとまじめ「とにかく深い穴ができた」と分かって満足して帰ろうとしたところで、すみだ先輩が珍しく大声を出したことに気づく。

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もがわ先生は、まるで穴に吸い寄せられるように、淵にもたれかかって座っていた。ズルズルと落ちていく先生を捕まえようと飛び込む先輩、まじめ、しじま。結局4人は底の見えない穴に落ち続けてしまう。


真っ暗な穴を抜けると何故か真っ白い空間で、そこで謎の少女に出会い、少女が「自分の部屋だ」という、海辺らしき場所へと移される。

助かったものの、なぜ自分があんな穴を掘り、吸い寄せられるように落ちていったのか…。悩む先生に、謎の少女は不思議な力で暗示をかける。そうすると、何故か魔法のように砂を動かせるようになった先生。動かした砂はどれも自然と輪っかにのカタチになった。それをみてすみだ先輩は、

「穴掘りも…ドーナツを作ろうとしてたんじゃないですか…?」
「地球に穴を開けて…」

今までの自分の行動の原因に気づいた先生は呟く。その目には涙がつたう。

「教師になったんだからこんなもの作ってちゃだめだって
思ってやめたのに…」
「そのせいで結局大きな穴を開けようとしたんですね…」

もがわ先生は大学時代からドーナツのような輪っか状の陶器を、置き場が無くなるくらい大量に作っていた。それが、先生の〈やりたいこと〉だった。でも社会人になったらやらなきゃならない〈仕事〉をしなくちゃいけない。〈やりたいこと〉ばかりやっていると、世間から白い目で見られる。輪っかの陶器なんて使い道の無いモノを作っていればなおさら。

キッパリやりたいことを忘れて仕事だけに時間を割けるのが、現代社会では効率の良い生き方なのかもしれない。けれど、それ以上にやりたいことをやることも大事で、大切なことなのだと気づかされる。


さいご

もがわ先生の台詞は、ラストの見開きのページから引用したのですが、ここの見開き絵は『泣けます』。まるで絵画を見ているような、美しくて郷愁が胸にこみ上げてくる絵。最初は電子書籍で買ったのに、紙で最後のシーンを見たくなって物理本の方も買いました。それくらい、心惹かれました。

穴掘りのおはなし以外にも、水着回図書室の美少女JK(成人済)との出会い前作の少女たちによく似た隣人など、つくみずさんらしいSF(すこし不思議)なおはなしが盛りだくさんです。ぜひとも読んでみてください。

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