Sat.

とあるイギリスの若手俳優の取材映像を見た。

それは映画の配役決定のニュースで、
俳優は台本の1節を演じて見せていた。

男性が演じていることを忘れてしまいそうなほど、
女性の儚くも強かな性格が滲み出た演技。

俳優は数テイク同じセリフを繰り返し、
終えてはもう一度と答える。

そして、最後。

話し始めるまでの時間が長い。
瞳はまるで何かを探しているかのようで、
唇は僅かな震えを湛えていた。

フッと、吐息と共に口火を切る。
これまでのテイクよりも何段も、
唇からこぼれる言葉が儚く消えゆきそうで、
こちらを時折見やる瞳は、
どこか怯えをみせつつも、相手を試すような、
張り詰めたものを感じさせた。

OKの掛け声で、すっと取り巻く緊張が解ける。
立ち上がった俳優の姿や話し方には
さっきまでの儚さはなく、
背筋の伸びた自信すらも感じられた。

役者という人は、
これほどまでに見る人に与える印象を変え、
知らぬ間に物語の世界に引き込んでくるのだ。

幕が開いて閉じるまで、
彼はきっと観る人を離さないだろう。

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