その女性の魅力の、つまるところ
人の心を巧みに操ることができたら?
異性を骨抜きにするほどの美貌と魅力を備えられたら?
『レッド・スパロー』は、そんな願望を手にした元バレリーナが主人公のスパイ映画である。
(※以下、ストーリーに触れる内容です)
色物シーンが観たいからといって、軽率に足を運ぶなかれ。
主演がジェニファーローレンスというだけあって、色っぽいシーンもありながらも、拷問シーンまでもが激しく描かれている。
痛めつけられ、悶える姿は、映画であることを忘れて目を背けてしまいたくなるほどである。体が硬直しているのを感じていると、隣の男性も居た堪れないとばかりに居住まいを何度も正していた。
バイオレンス系の作品を見ないからかもしれないが、あれほどに精神やらなにやらを削られて、どっと負荷のかかった数分はなかった。
しかし、と見終わって思うのである。
この作品を「ハニートラップ」と括る人もいる。
だが、果たしてそうだろうか?
ジェニファーローレンス演じるドミニカは、軽率に自らの身体を差し出すことはしていない。女性の身体を差し出すということに恐れはない。ただ、正当な理由もなく差し出さず、尊厳を守り抜いているように感じたのだ。
さらに、すべてが計算された行動のように思えるが、襲撃された時の反応は、計算されたものだったのだろうか、と疑問を抱いてしまうのである。
道を選んだ理由も、母親のためであり、他人を掌握することに自体には関心はない。
鍵を握っていたのは、色欲ではなく、心理を深く読み取る能力ではなかっただろうか。
「ハニートラップ」という甘いキャッチフレーズに包まれているが、芯にはそんな表面的なものではない頭脳戦、心理戦、奥底にしまいこまれた弱さがある。それらが毒のように染み出して、140分という長い時間、見る人を惹きつけてやまないのではないだろうか。
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