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100の試合に出ること。

ひそかにカウントダウンを始めたの半年くらい前からだったろうか。

ふと、応援してるJリーグ・FC岐阜所属の浮田健誠選手のJリーグ公式戦の出場試合数が気になって調べた。確かその時点で88試合とか、そこら辺だったと思う。

このまま試合に出続ければ、100試合出場はこれくらいかな、と何となく皮算用していた。その時点では、特に何も思うことがなかった。

けれどそれから少し経った夏場、彼は試合に出られなくなった。
故障やコンディション、色々なことがあったのだと思う。

これくらいで達成できるのかな、と勝手に来るものだと思っていたそのイベントは、毎週、試合が来る度に遠のいていった。

僕は自分の軽率な思考が恥ずかしくなった。毎節出場試合数という数字が積み上がっていくのは、当たり前のことではなかったのを忘れていた。

彼が出場するということは、出られない選手がいるということ。
そして、その逆も然り。

毎週末スタジアムで行われる試合だけがJリーガーの仕事ではない。その試合に出るため、試合以外の日もトレーニングで自分を磨いて、アピールしていく。
チームメイトと相対的に評価され、認められれば試合に出れる。認められなければ出られない。
そんな世界。

"出場試合数"とは、彼が必死に日々戦った証そのものだと思い直した。

振り返れば、確かにそうだった。去年、SC相模原で彼を応援し始めた頃、初めてベンチを外れた試合でそれを知って、アウェイスタジアムで試合前に動揺して落ち込んでしまった。

僕のそれより比較にならないほど、本人の気持ちの落ち込みは激しいと容易に分かる。
メンバー入り出来なければ、悔しいだろうし、辛いだろうと思う。その現実と向き合いながら次の試合に向けて準備と挑戦をするために、気持ちを作る夜が何度もあったのだと思う。

今季も、春に試合中の怪我で戦列を離れた時期があった。
メンバーに選ばれるのは、当たり前のことではない。

メンバーに選ばれれば、前日の夜は身体を緊張と高揚に身を浸すことになるのだろう。

メンバーに入っても入らなくても、戦いは続いていく。そして、その末にメンバー入りできた試合が100試合……。大学卒業後にレノファ山口FCに入団し、SC相模原を経由して足掛け4シーズン目での達成。

もう4年もそんな日々戦う生活に身を置いている彼を心から尊敬する。

10月、彼が再びリーグ戦に出るようになった。
メンバー発表で彼の名前を見た時、今までも確かに時計の針は進んでいたけれど、そこから秒針のカチッ、カチッという音が聞こえてくるかのように、世界が色づいて見えた。

また進む。彼がまた必死に日々戦っていることを知った。
大学卒業から4年のキャリアのうち、まだ2年弱しか応援できていないけれど、僕の中でJリーグ公式戦100試合出場がただの記録だと思えなくなった。

なんてことのない1つの試合だけど、その試合だけはとても見に行きたくなった。

このまま試合に出続けられたら、どこで達成できるだろうか。日程を改めて確認した。


11月25日、2023年J3リーグ第37節・FC琉球対FC岐阜。

前日仕事をなるべく早めに切り上げ、早めに寝た。
午前3時半に起きて、相模原の自宅を出て、始発電車で羽田空港に向かう。
羽田に着く頃、空が白んできた。普段と変わらない、いつもと同じだけど、少しだけ気持ちがちがう試合日。

飛行機で3時間弱、そしてレンタカーで1時間ほど。
タピック県総ひやごんスタジアムにたどり着いた。

家を出る頃はブルブル震えながら着ていた上着も時折不要になるような暖かさ。それだけで少しテンションが上がった。

スタメンで出場し、60分弱の出場時間。
いつも通り、良いプレーも、おそらく後で反省したり悔しくなるプレーも、どちらもあったように映った。
試合後の彼の顔を見たら、後者の方が多かったかもしれない。

いつもと少し違った気持ちで迎えた試合は、いつもと同じように終わった。

彼のキャリアの中の、100試合のうちの1試合。他の試合と何も変わらない、ただの1試合。

きっと、明日からまた、101試合目の出場に向けた準備と挑戦が始まる。

けれど、スタジアムを出た時、えも言えない気分になった。
数字はただの積み重ねだけれども、彼はそこまで戦い続けてこれた。それが本当にすごい。

この100という数字には、カップ戦はカウントされていない。当然、トレーニングマッチの出場も含まれていない。
けれど、「100」という数字に到達するまでに、多くの試合に出ている。

もっと言えば、彼が小さい頃にフットボールに出会って、Jリーガーになるまでの数え切れない試合数が、「100」の後ろにはある。

喜びや興奮が収まらず、寝れない日もあったと思う。
逆に、悔しくて、しんどくて、寝れない日もあっただろう。
自信を失いかけた時も、あったかもしれない。

そんな数え切れない彼がフットボールと歩んできた人生が、今日「100」という数字を積み上げたのだと気付き、目が潤んだ。

彼を支えてきた多くの人、
様々な所属先で彼を応援してきたファン・サポーター、
関わってきた人々。

全てが連綿と繋がり達成した数字。

100試合出場。もしかしたらJリーガーでは当たり前の記録かもしれない。

けれど、確かにフットボールと人生を共にして、血のにじむような努力をして、次々やってくる壁を乗り越えて、たどり着いた100試合出場。
まだまだ続くフットボールの旅路の、1つの通過地点。
ただの通過点だけれど、少しだけ後ろを振り返りたくなる、とても大事な記録。
ちゃんと言葉にして伝えなきゃ、だめだと思った。

浮田健誠選手、
Jリーグ通算100試合出場、本当におめでとうございます。
見える所でも、見えない所でも戦い続けていることを感じられて、日々生きる活力をもらっています。

この先も、この旅路が続きますように。




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