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食らいつき、這い上がり、そして立ち向かおう。

2023年11月12日、J3リーグ第35節・SC相模原対FC大阪。
SC相模原のJ3リーグ残留を告げる長い笛の音を聞いて、その場でうずくまって泣いてしまった。


とても静かな展開だった前半。
互いに何度かチャンスを作るも決め手に欠き、0-0で迎えた後半、信じられないような45分間を過ごした。

後半10分台、SC相模原はなかなかボールを奪い取れず、自陣内でのプレーを強いられる展開になっていた。
ある程度サッカーの試合を見るようになって、この時間帯を凌ぎきれば流れが傾くと直感していた。

しかし、今季の相模原はこの耐えなければいけない時間帯に失点をする試合がとても多かった。
ここさえ踏ん張れば……という所で踏ん張れないのが、暫定降格圏に沈んでいた所以だと思っている。

けれど、僕が憂いていた相模原の姿はもう無かった。
FC大阪のボール回しに全員遅れることなく陣形を維持しついていく。中は割らせず、クロスを放り込まれても守備陣が適切に対処する。

一度だけ危ないシーンがあった。
大阪のクロスからのシュートがゴールの枠を捉えた。しかし、GK東ジョンのビッグセーブでボールをかき出し、そのボールに綿引康が反応してスライディングでゴールラインの外に出した。
正しく1点ものの超ビッグプレーだった。

1月に集まった、まだ何者でもない選手達。
季節が移ろい今、彼らはこうして果敢に戦っている。
チームの成長を実感した。

後半20分、FC大阪の攻勢を凌ぎきった直後に先制点が生まれた。
増田隼司が高い位置でボールを奪い取って放ったシュートのこぼれ球を、猛然と詰めていた左WB橋本陸が沈めた。彼の得意な形でのゴールだった。

この一点を皮切りに、怒涛のゴールラッシュが始まった。

得点直後、まだ熱やざわめきが収まらない時間帯に再度相模原の選手達が猛然とピッチを駆け上がってきた。
藤沼拓夢と安藤翼の前線2枚が右サイドで相手を翻弄し、グラウンダーのクロスを入れると、それをゴール前で待ち構えていたのは右WB綿引康ダッた。
デザインされた侵入の形、そして両WBの運動量とポジショニング。申し分のない素晴らしいゴールだった。

得点が入る度にギオンスが沸き立つ。

3点目はコーナーキックから増田が、
4点目はこぼれたボールを前田泰良が転んだ状態から気持ちで、
5点目は再び増田が、
次々訪れる歓喜。今季のこれまでの辛く苦しい戦いの記憶を吹き飛ばすような、圧巻の展開だった。

4点目が決まった時、ここまでのシーズンの悔しい出来事が急に脳裏によみがえった。
3月の第2節に初勝利を収めて以降、全く勝てなかった。

6月、松本山雅戦で大敗した後、戸田監督が僕達のいるスタンドへ上がってきて、
「結果を出します」
と言った。

けれど、結果はしばらくついて来なかった。

僕自身、チームやクラブに対して懐疑的になっていた時期もあった。
いつ勝てるんだろうか、このメンバーで本当に上手くいくんだろうか、JFLに降格するのではないか。
ネガティブな考えに支配されていた。

7月のアウェイのFC大阪戦は、正にどん底の状態だった。
何をやっても勝てない。チームが成長しているのかすら分からない。
長く苦しく、終わりの見えないトンネルを走らされているような感覚だった。

あの大阪の夜から4ヶ月。新加入選手を迎え、徐々に勝てるチームへと変わっていった相模原。
降格確定1枠、と呼ばれた頃もあった。
屈辱にまみれ、前も見えなくなっていた時期はもう過去の話。

けれど、あの時流した涙が、悔しい気持ちが、勝利に対する思いが、彼等を成長させたのだと思う。

後方のパス回しは随分と速く正確になった。
プレスのタイミングも息が合うようになってきた。
何より、攻める姿勢が見ていて分かるようになった。

もちろん、新加入選手たちの働きは非常に大きい。しかし、彼等が入ることで勝てるようになったその土台は、今年の春から夏にかけて、何度も何度も何度も何度も悔しい思いをして、共に涙を流してきた選手達が作り上げてきたものだ。


冬、志をもった若い選手達が相模原に集まった。
春、開幕の頃、"勇敢"のすぐ隣に"無謀"があることを知った。
そして、リーグ戦を戦っていく中で、自分たちの現在地や越えるべき壁の高さを知った。
夏、何度も自信を失いかけた。

けれど、彼らはどれだけ打ちのめされても、必死にボールを追って相手に食らいついた。
日々のトレーニングも腐ることなく、前を向いて歩みを止めなかった。

志高く、勇敢に大胆に。

彼等の不断の努力が手繰り寄せたゴールラッシュ。

必死に食らいついたあの頃があったからこそ、這い上がってこれた。


4点目を取った時、選手たちがゴール裏に駆け寄ってきた。
本気でやっているから、本気で嬉しい。それを痛いほど感じた。

このチームはまだまだこんなものではない。もっともっと成長していける。

1つの試合で本気で悔しがり、本気で喜ぶ選手達がいる。彼等を全力で支える監督・コーチがいる。
何者でもなかった彼等は、もう立派なJリーガーになった。

真摯に、実直にフットボールと向き合う選手・スタッフを心の底から尊敬した。
そして、そのチームを信じ続けた強化部やフロントスタッフにも敬意を表すべきだと思う。

このチームで昇格したい。
残り3試合、そして来季、SC相模原はもっともっと成長していける。

今年苦しい試合を強いられた多くのクラブを見返てやろう。

必死に食らいつき、どん底から這い上がったこのチームならできる。
胸と胸を突き合わせ、正々堂々立ち向かおう。

春、戸田監督は選手に対して「我々は決して弱くない」と呼びかけた。
 
今なら言える。
SC相模原は強くなった。

5-0の後も変わらない、ピッチ上での円陣ミーティング。
まだまだこんなものではない。僕は信じている。

もっと上へ行こう。さらに熱量を上げて。


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