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ロジックでデザインを捉え 車輪の再発明をなくせ:Galapagos Supporters Book⑥

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

第六弾は今回のシリーズAからガラパゴスに株主としてご参画いただいた、THE GUILDの深津さんです。

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■深津貴之 プロフィール
THE GUILD | 代表
インタラクションデザイナー。株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。2009年の独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、株式会社Art&Mobile、クリエイティブファームTHE GUILDを設立。メディアプラットフォームnoteを運営するnote株式会社のCXOなどを務める。執筆、講演などでも精力的に活動。

デザインを型化できる可能性

中平:深津さんとの出会いは、アーキタイプ(ガラパゴスの株主)野村さんのご紹介でしたよね。

深津:そうですね。面白いデザイン系のスタートアップがあるので会ってみないか?とお声がけいただきました。

中平:僕がビジネス的にどのタイミングで多角化をするべきか、という話をしたとき、すごくわかりやすい図をシェアして「リソースはまだまだ市場が取れそうな所に傾けるべきだ」とアドバイスいただいて。

サービス成長曲線と多角化

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中平:この図のお陰で僕達としては「広告×デザイン」の領域にリソースを集中させる意思決定ができました。その後も1回ランチに行きましたよね。

深津:そうですね、「デザインの定量化」について話しました。

中平:THE GUILDさんて、それこそメンバーがギルド的に集まって「個々の能力で価値を最大化する職人集団」という印象を持っていたんですよ。なので「定量化」という考え方についてはネガティブな反応もあるかもしれない、と少し不安でした。デザインを「型化」とか「パターン化」なんてできるわけない、と言われるかもしれないと。だから、思ったより良い反応をもらえて嬉しかったです。

深津:THE GUILDは全般的に、ゴール・ドリブンなところがあるんですよ。「ゴールを達成するためにどうすればいいか」ということへの意識が比較的高いし、コアメンバーのほぼ全員が経営経験やエンジニア経験を持っているので、目の前の良し悪しよりも、ビジネスとかサービスをモデリングしてオブジェクト化するとか、長期的な考え方を大事にする人が多いですね。

中平:なるほど。深津さんと言えばnote社のCXOですが、昨今はデザイナーの上流がUIUXになっていますよね。このUIUXデザインさえも型化できるんじゃないかというお話もしました。非常に職人的な分野だけど、ある程度フォーマット化した上で、残りの部分をその人らしく輝かせることはできるんじゃないかと。

深津:フレームワークで対応できる部分はあるかもしれませんね。大きな括りで言うならば、デザインとエンジニアリングは「対」というか「セット」になっているので、エンジニアリングが型化できるのであれば同程度にデザインも型化できると思います。

▲国内でもトップクラスのデザイナーが集まるクリエイティブファーム「THE GUILD」。UIUXを中心にエンジニアリング、ブランディング、データ分析など多様な切り口でデザインの課題解決に取り組む。

デザイナーのキャリアと構造的な問題

中平:ちょっと話がそれてしまうんですけど、最近うちには「プロダクトマネージャー(PdM)」がいないという話になっていて。CTOやデザイナー、エンジニアはいるんですけど。UIUX デザイナーが目指すキャリアとしてPdMがあるのかなと思っているんですが、デザイナーのステップアップやキャリアについてはどうお考えですか?

深津:PdM、あるいはクリエイティブディレクターが比較的近いとは思います。

中平:まさにデザインとエンジニアリングの接合点だと思っていて、良いものを作ろうと思ったら両方分かっている必要がある。だからPdMって非常にハイスキル、かつ広範囲な能力が求められる職種ですよね。

深津:そうですね、バランスはすごく重要です。よくBTC(ビジネス・テック・クリエイティブ)なんて言い方をすることがありますけど、3つの要素をある程度知っていることが良いPdMとされています。中心はBTCのどれでもいいと思うんですけど、一箇所を足場にしつつ他の2箇所の理解をしているとか、言語を話せることが重要だと思いますね。

中平:深津さんはクリエイティブを足場にしながら、ビジネスとテックも横断しているイメージでしょうか。

深津:僕の場合は、テックとクリエイティブ半々くらいかな。元々フラッシュ業界でコーディングをメインにやっていたので。フロントエンドのコーディング経験は十分あって、逆にバックエンドの経験はあまりないんです。

中平:BTC全てに精通した人がいるとしたらもはや超人というか、とても希少な存在ですよね。これから市場価値がより高まると思っています。デザイナーのキャリアとしてはそれが理想的だと思う一方で、そうじゃない道筋も、僕らAIR Designの中でつくっていきたいんです。

深津:なるほど。

中平:僕らはデザイナーの待遇や働き方を根底から変えて、より良くしたいという想いがあって。デザイナーの仕事の幅が、ただ「バナーやLPをつくれる」だけだと、現状どうしても先行きが乏しいじゃないですか。

深津:そうですね。それだけだと、デザインというよりはマニピュレーション(操作)の領域に近いですね。そこを足掛かりに、より設計の部分に入り込めるかじゃないでしょうか。

中平:まさにそこが論点なんですが、市場価値を高めるには本当に設計の方にいくしか道がないのか。一つの分野を極めて、ちゃんとものづくりをしていれば稼げるようになるという未来もあるんじゃないか、と考えていて。手を動かして「つくれる人」ってすごく偉大だと思っているので、そういう人たちの市場価値を高めていけるような産業にしたい。現場でものづくりをする人の給料が低くて、キャリアもなかなか描きにくいというデザイン産業の構造について、深津さんはどのようにお考えですか?

深津:キャリアの最初が美術学校経由で、構造や設計等の論理的側面より、美的側面が教育のスタートであることが大きいですよね。そこからWEBやアプリのデザインへ進路をとった場合、デザイナーの興味がフロントエンドの美しさやビジュアルに向かってしまう。それ自体は悪いことではないんですが、優先度が強くなりすぎてしまい、サービスの設計や運用に対する意識が弱くなりがちになるのは課題です。本来デザイナーが見るべきサービスの上流設計が他の人たちに任されて、必然的にデザイナーの仕事は「決まったものを作る」という、受託的なポジションになってしまう。そのポジショニングが完成しつつあることが大きな課題かと思います。

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バリューチェーンの上流から関われるデザイナー像

中平:AIR Designとしては「広告×デザイン」で、バリューチェーンの上流から関わりに行ってるんですよ。その商品が何であり、ユーザーが誰であるかを整理した上で、クリエイティブを設計して再構築する。そのバリューチェーン全てに価値があるし、デザイナーはなるべく上流工程から絡んでいくべきだと考えています。深津さんのおっしゃる受託的なデザイン業務だと、その価値を全く知ることなく終わっていくことが多いじゃないですか。

深津:そうですね。

中平:それって作り手としては虚しいというか、残念なことですよね。「Design as a Service」という言葉、「DaaS」で商標登録を取ったんですけど、デザインって納品するためのものじゃなくて、サービスのためのもの、成果を出すためのものであると、そんな意味合いを込めています。深津さんはデザイナーのキャリアとして、どういうルートがベストだと思われますか?

深津:デジタルなデザイナーという前提であれば、基本的に3つの普遍的なスキルが身に付くと良いですよね。1つ目は「このサービスはそもそも何で、どうすればうまくいくのか」という大きな絵を描いて設計できること。2つ目は実際に手を動かしてクオリティを担保できること。3つ目は、実行可能性やサービスの持続可能性、運用性を担保できること。そんな普遍的なスキルを身に着けられる道筋が、理想的なキャリアだと思います。

それが身についていけば、経験を積んでいるうちに、どういうものがスタンダードで、どういう時に何を出せば良いかが分かる。最終的には、見たことのない、答えがないものに対して「こうあるべきである」という社会提案やサービス提案ができる。そんな登り方をしていけたらいいのかな、と考えています。

中平:スタンダードを型化していくところは、機械学習が得意な領域だと思うんです。全く新しいものを予測するには適さないですが、ある程度過去のパターンから導出可能なものであれば、機械学習で対応できる。システムに任せながらも、人にしかできないところにフォーカスして、上流工程に必要なスキルを磨いていくのが、デザイナーの目指すところかなと。そんな解釈でも違和感ありませんか?

深津:そうですね。欲を言うと、打席や前例の少ない分野でも打率を上げていくことができるとか、そういったことが優秀な人の定義になると思います。そこはまだ機械学習ではできない部分なので。

中平:抽象度の高い状態でも、近しい経験から類推して仮説を立てるというやり方ですよね。AIR Designでは、デザイナーがベーススキルを身につけ、不確実性に向き合うフェーズへのキャリアパスを加速していけるような世界を目指しています。

深津:それが実現できると良いですよね。例えば、LPについて一人のデザイナーとか一つの会社がノウハウを持っていても、世の中に大きな影響を与えられるわけではないので。スタンダードな部分はある程度、標準的に皆がつくれるようになって、上流部分やサービスそのもののチューニングにリソースを使えるようになると理想的かと思います。

中平:よく社内で、「システム8割ヒト2割」という話をしているんですが、システム化やノウハウ化できることは早くしてしまって、人間のリソースは残り2割の重要な事に使えるようにしようと。例えば寿司職人は10年修行しなきゃ一人前になれないって言われるけど、本当に必要なのかという話ですね。デザイナーも同じ話で、一年AIR Designで必死にやったら、まずは標準的なLPやバナーが作れるようになる。無駄のないプロセスで、成長を後押しできるんじゃないかと考えています。

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デザインの本質はデコレーションではなくロジック

中平:受託とか請負になりがちなデザイナーの構造問題、これは日本特有の課題なのか、海外でも同様なのか、そのあたりはどうお考えですか。

深津:雰囲気の話ではありますが、海外の方がデザインの地位が高い印象はあります。デザインそのものへの意識やコミット具合が、デザイナーに限定されていない気がしますね。ビジネスサイドの人もデザインに対する教養がある。エンジニアでも同様ですね。言語として、デザインの定義が海外と国内だと違う気がします。国内ではデコレーションとかスタイリングっていう色が強いですよね。

中平:その違いってどこからくるんでしょうか。

深津:日本の場合は、美術や芸術などの教育から派生していることが、理由のひとつとしてあるでしょうね。美術はワードとして「美」が先に来ているし、そこに縛られます。他には例えば、写真は「真実を写す」と書きます。日本の場合はスナップやドキュメンタリーの意味合いが強いですけど、海外では「フォトグラフィー=光の絵」というルーツになっているので、自由度が高いんです。

中平:義務教育で美術を学ぶから、デザインをそれに近しいものと捉えると、どうしても美の要素が強く出てしまう。

深津:美術をベースにして教育カリキュラムがつくられるから結果そうなる、という側面はありますね。デザインの本来の意味は「設計・仕組」です。

中平:それに近しい学問でいうと、建築があります。日本って他国と比べても建築は強いと思ってます。歴史もあるし、認められているはず。それなのにデザインの地位は低い、という事象は非常に興味深いです。

深津:日本では建築学部は工業大学にあることが多いですね。美大に属しているかというと必ずしもそうではない。

中平:どちらかというと構造学とかの分類になるんでしょうか。その文脈でデザインが発展してきていたら、もっと構造とかロジックへ意識が向きやすいのかもしれない。

深津:本当は、工業大学にデザイン学科があるといいんじゃないかと思いますね。

中平:理系の人間だと、ロジックは好きだけど、デコレーションとなった瞬間に自分の領域じゃないって思いそうじゃないですか。だから日本においてデザインってビジネスから遠いものと受け取られている感があります。

深津:それはあると思います。今でもスタートアップなどの経営者にも、デザインをデコレーションと思っている方は多いですよね。

中平:日本国内においてはその距離感をもう少し縮められると信じているし、元々デコレーションを学んでいない僕たちがAIR Designを立ち上げること自体、そういうメッセージになると僕は思っていて。「デザインはロジックだ」という概念を広げていきたいんです。

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デザインにモノサシをつくり、合意を形成する

中平:AIR Designが提供すべき「体験価値」についても、ぜひご意見を聞かせていただきたいです。

深津:AIR Designの誰に対する体験価値としましょうか。

中平:二つありまして、ひとつはユーザー。商品やサービスの認知度向上の責任を負っているマーケターですね。もうひとつはAIR Designを使うデザイナー。双方の体験があると思います。

深津:発注者サイドからみると、非デザイナーや専門家じゃない方にとっての一番の問題は、デザインがコントロールしきれない事象であることですね。「こういうものを作って欲しい」というリクエストに、目的レイヤーで合意されたアウトプットが含まれないため、ランダム性が高いんです。デザイナーとビジネスサイドの間でゴールが共有されない、あるいは出てきたものに対して良し悪しのジャッジができない。自分たちが考えたものに対して、アンコントローラブルな状態でジャッジしなくてはならないということですね。そこが非デザイン経験者からみた場合のペイン(悩み)なのかなと思います。

中平:デザイナーと非デザイナーの「噛み合わなさ」みたいなものがありますよね。

深津:そうそう。エンジニアリングも同じだと思いますが、要は発注者からみた時にデザインがアンコントローラブルな外部要因になっていると、「デザインのチームを作ろう」とか「リソースを張ろう」という判断にならないですし、デザインだけがブラックボックス、上流部分で見えないものになりやすい。本来は予測可能な要素として、予算や時間をこれだけ投下したらこれだけ打率が上がる、といった算段が立つべきです。アンコントローラブルな外部要因から、コントローラブルな線形の要素として、サービス設計・ビジネス設計の中に組み込むことができるようになるのが、発注者側からみた体験として一番価値が高いと思います。

中平:解決策は二つあるかなと。ひとつは、ゴールまでのプロセスはある意味無視してもらう。「広告で投資対効果をこのぐらい出したい」という要望に対して、私たちが最適なデザインを提供するので、プロセスは考えずにお任せいただく。結果的にゴールのROI(Return on Investment/投資利益率)になれば、投資対効果が合うという判断になりますよね。

深津:はい、そうですね。

中平:もうひとつはモノサシをつくること。やはりそうは言ってもプロセスが気になるとなった時に、「このデザインはゴールに到達する確率が75%の品質です」というように、定量的に測定できることが非常に大事なんじゃないかなと。噛み合わないビジネスサイドとデザイナーをつなぐモノサシをつくりに行くのが僕たちの挑戦なんだと思っていますね。

深津:大きくはそういう考え方だと思います。さらに一歩踏み込んでいくと、ゴールを一緒に合意していく能力があるのか、ゴールをセットする能力があるのか、という話が焦点になると思うんですけど、その第一歩目としては、その山を登頂するプランに合意できる能力があるかどうか。

中平:そこですよね。ゴールの設定って難しいじゃないですか。エンジニアリングとの噛み合わなさもそこに原因がある気がします。納期の肌感が合わないとか。

深津:デザインとビジネスの間での不幸な事例あるあるで言うと、富士山とオーダーしたのに、今は高尾山が花見のシーズンだから高尾山にしました、みたいな。

中平:(笑)

深津:そういう意味だとAIR Designは旅行会社に近いのかもしれないですね。パッケージツアー、あるいはパッケージでないところでも要件を定めたら旅行のプランを作ってくれて、一定程度安心した旅行が提供されるというような。

中平:なるほど。僕たちはシンプルなソフトウェアだけのSaaSサービスにはなり得ないとずっと思ってるんですけど、やっぱり期待値コントロールとか合意形成ってすごく重要な仕事のひとつなんです。最後はそういうヒトらしい仕事が大事なんじゃないかと思っていて。

深津:うん、大事だと思います。

中平:大筋の方向性は決めた上で、対話者と合意形成をする仕事。デザイナーの仕事として本来注力すべきは、その部分なのかもしれない。

深津:そう考えると、エベレストに登る時のシェルパにも近いんですよね。

中平:道先案内人のようなイメージですね。手段を知り尽くしているからこそ、ちゃんと頼れて信頼できる。今後はデザイナーがよりその立ち位置に近づいていくかもしれないですし、そういう人が増えていくと嬉しいですね。

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ーー最後に、深津さんがガラパゴスに期待する役割についてお聞かせください。

深津:やっぱり自分としては、デザイン業界全体での車輪の再発明をできるだけなくしたい、という想いがあります。サービスをつくる会社やスタートアップとして一番リソースを使わなきゃいけないのは、「自社のサービスがどうあるべきか」や「ベストにするには何が必要か」ということ。でも、実際にデザインチームの蓋を開けてみると、多くの場合バナーやLPを作ることにリソースが注ぎ込まれているのが現状です。それ自体はもちろん大事な仕事ですが、本来はコアプロダクトの顧客体験にリソースを注ぎ込むべきですよね。

バナーとかLPは毎回ゼロから個々のデザイナーが作るより、どこかに存在しているベストプラクティスによって解決して、その分のリソースをコアのコアに注ぎ込める状態が理想だと思います。業界全体で再現性があると、業界共通のイシューとその会社固有のイシューが分離される。共通イシューに対して共通の解決策が見いだせれば、世界全体の生産性が上がりますよね。その部分をぜひガラパゴスさんのAIR Designに担っていただきたいです。

中平:本当にそう思います。「車輪の再発明はやめて、ノウハウとデータを集約しましょう」という考えがまさに私たちの向かう先なので。ぜひ期待していてください。

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▲サービスの初期設計からグロースハックまで、幅広いデザイン領域をカバーする深津さん。近年はスタートアップのサポートにも注力されています。

▲深津さんのnote。「デザイン=設計」の基本思想を感じる良記事が多数掲載されています。

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(文責:武石綾子・髙橋勲)