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とある休日 本が大漁からの夜の動物園

本が大漁。

机の上に、いま図書館で借りてきた本が5冊ある。ふだんだったら一度に2冊、せいぜい3冊といったところなのにいきなりの5冊、である。

じつは、この半月ほどのあいだにポチポチと予約していた順番待ちの本が、どういうわけかいっぺんに届いてしまったのだ。うれしいけれど困った。

ひょっとすると、思いがけず網にサンマがたくさんかかった漁師もこんな気分なのだろうか。大量ではなく、だから大漁。

読書に都合のよい場所をさがす

休日の朝、とにもかくにも本を読まねばならない。予約が多いものから順に、とっとと読んで後に回してあげないと。決死の覚悟で本を読む、というのもおかしな話だけれど。

ところで、みなさんは家で本を読むとき、どこでどんな風にして読んでいるのだろう。素朴な疑問。というのも、ぼくが遅読なのはなにより集中力に欠いた人間だからである。ひとつところでじっと読書するのがしんどい。なにか自分なりのルールや工夫があったらぜひ教えてほしいところ。

とりあえず、日のあたる窓際にスツールを移動し、深煎りのコーヒーを淹れて態勢をととのえる。こうして午前中いっぱい本を読むことに費やした。そして、とても贅沢な時間の使い方をしていることに気づく。以下は、読書メモ。

読書メモ

竹田ダニエル『世界と私のA to Z』(講談社)

いわゆる《Z世代》を理解するための手引書といった内容。とはいえ、これは著者自身も指摘していることだが、世代論というのはわかりやすい反面、往々にしてあらゆる物事を単純化して断じすぎるきらいがある。たとえば、いまの十代から二十代が中心を占める《Z世代》についていえば、そこに見られる特徴がその世代ならではの気質なのか、あるいはまだ社会に出ていないか、出てまもない若者にありがちな年齢相応の性向なのか区別がつきづらいということもある。というのも、《ミレニアル世代》にせよ《ブーマー世代》にせよ二十代の頃はそんな感じだったのでは? と思えるような部分も読んでいてすくなからずあるからだ。だから、個人的には世代論は血液型診断や星占いとおなじくらいの距離感をもって接したほうがよいのではと思っている。参考にしつつ囚われないというか。結果的に分断につながりがちな世代論よりも、世代を超えて共有できる《ものさし》について考えを深めていきたい。

山崎ナオコーラ『ミライの源氏物語』(淡交社)

言わずとしれた古典文学の名作を、あえて現代的な問題意識をもって読み直してみる試み。それはたとえば、ルッキズムであったり、マウンティング、ロリコン、またジェンダーの多様性といったトピックであったりする。この試みじたいは、なにも『源氏物語』でなくともギリシャ神話や森鴎外、あるいはシェイクスピアでも成り立つだろう。では、なぜ『源氏物語』なのかというと、それが卒論のテーマにとりあげるほど著者にとって愛着のあるテキストだからということに尽きるのではないか。極端な話、仮に『源氏物語』に1ミリの興味がなかったとしても読み通せてしまうのはそういう理由からだろう。あえて遠い昔の物語を素材とすることでジャーナリズム的な生々しさが薄れ、かえって問題意識が鮮やかにあぶり出される。おもしろい読書体験だった。

休日と上野 百貨店が輝いていた時代を思う

夕方近くなってから外出。電車を乗り継いで上野をめざす。最初の目的地は上野松坂屋

松坂屋へは地下鉄の「上野広小路」駅を利用すれば直結だが、きょうはJRの「御徒町」駅で下車する。ちなみに、「上野広小路」と松坂屋とが地下で直結しているのは、地下鉄駅の建設費用を百貨店が負担したおかげだという。これは地下鉄の「三越前」駅もおなじ。

上野松坂屋が竣工したのは昭和4(1929)年のこと。外観からは想像つかないが、内装はそのまま当時のアールデコ様式が残っている。百貨店という業態が輝いていた時代というのは、そう思うと70年間くらいだったかもしれない。はたして長いのか短いのか。

ところでライトアップは踏み絵になるか?

催事場で開催されている「北欧展」の最終日に駆け込み。出店中の知り合いらとしばらく立ち話した後、コンサートを聴くため上野公園内にある東京文化会館に移動する。

途中、なにかのイベントのためライトアップされた国立博物館の、そのあまりの趣味の悪さに呆然とする。建物じたい美しいのだから、たとえば東京駅のようにシンプルなライトアップで十分なのに。ご丁寧にサーチライトまで。一緒にいた友人は「こわい」と言っていた。もし同じものを見て「きれい!」と感激するような人だったら、はたして友人になっただろうかなどとふと考える。学生時代ならいざしらず、大人になってからはそこまで趣味の異なる人と友人になるというのはなかなか難しそうだ。

たとえば、このライトアップが好きなひとは右手へ、嫌いなひとは左手へ移動してもらう。割合が半々だったとすると、100人のうち50人にまでともだち候補は絞られるだろう。それを何度か繰り返すと気の合う5人程度と出会えるだろうか。あるいは、そんなマッチングアプリもすでに存在するのかもしれないけれど。

夜の動物園

その後、前川國男が設計したモダンなコンサートホールで東京都交響楽団の演奏を堪能。

東京文化会館は、なによりホワイエがゆったりとられていること、また段差のある造りとなっているところが気に入っている。休憩時、音楽を楽しむ人びとの中を回遊したり、少し高いところから見下ろしたりするのもまたコンサートを聴く愉しみのひとつだと思うからだ。新しい劇場の多くが、音響のよさにはこだわってもホワイエにまで神経が行き届いていないのは、だからとても残念に思う。

ひっそりと静まりかえった夜の上野動物園
迷路のように巡らされた待機列の誘導路が、なんだか冗談みたいにシュールに映る。みんなどこに消えたのか。エドワード・ホッパーの絵を思い出す。

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