無在庫転売業者に損害賠償を請求した話
この記事は、無在庫転売業者に対して損害賠償請求を行った体験談を備忘録を兼ねて作成したものです。同様の被害に遭った方が無在庫転売業者に一矢報いるための一助になれば幸いですが、法律的な判断はもとより、相手の判断なども絡むため、全ての場合に同じ方法で解決できるとは限らない点ご留意ください。
「事件」の発生
2022年8月18日 商品の写真を撮影、同日中にメルカリにて出品
2022年9月30日 業者がAmazonで同じ商品名と画像で出品開始
2022年11月15日 筆者が商品画像の無断使用を発見
証拠の保存
相手が証拠となるものを削除してしまう虞もあるため、商品や出品者のページは相手に連絡する前に保存しておくことをお勧めします。この時点で収集できる証拠としては主に以下のものがあり、いずれも後の裁判で役立ちました。
撮影した商品画像・・・商品が購入されるまでは商品画像を保存するようにしていたので手元に残っていました。
メルカリの出品ページ・・・メルカリでは取引完了後2週間で削除できるようになりますが、証拠になる可能性があったので削除しませんでした。
業者の出品ページ・・・最終的にはスクリーンショットを提出しますが、念のためHTMLファイルとして保存しておくと安心です。Google Chromeの場合は「このページを共有」から「ページを別名で保存」を選択するとHTMLファイルとして保存することができます。今回は業者への連絡後にページが削除されましたが、HTMLファイルで残しておいたため裁判でも問題なく証拠を用意することができました。
業者の出品者ページ・・・Amazonでは、特定商取引法の規定により出品者の連絡先が公開されています。こちらも同じくHTMLファイルで保存しておきましょう。筆者はこちらの保存は忘れていたので少々厄介なことになります。
業者とのやり取り
2022年11月15日 写真の無断使用について業者に連絡
2022年11月19日 業者がスタッフのミスだったことを認め謝罪
2022年11月24日 業者が該当商品を削除
無在庫転売業者?
以下の状況証拠から無在庫転売業者であると判断したためタイトルにも記載していますが、法的にはどちらでも構いません。そもそも無在庫転売自体は違法ではなく、損害賠償請求はあくまでも写真を無断使用したことに対するものだからです。
メルカリにて出品した商品は、未開封品とはいえパッケージの状態があまり良くなく、実物が手元にある場合はそちらを撮影した方が状態の良さをアピールできる可能性が高い。また、こちらから出品の削除を求めたことはなく、商品が手元にあるのであれば画像を差し替えれば済む。
9月30日時点でのメルカリでの販売価格は3,000円だが、11月15日時点で業者の販売価格は6,980円だった。
その業者の出品商品を確認すると、背景が統一されておらず、尚且つ写真撮影の技術などにも差が見受けられた。(但し、Amazonでは他の出品者が作成したページに便乗して同じ商品を出品できるため、この業者が撮影した写真ばかりとは限らない。)
内容証明郵便の送付
(個人情報のやり取りが禁止されている)Amazonのメッセージ機能以外の連絡手段がなく、また、相手の氏名と住所は分かっていたものの遠方で直接出向くことも困難だったため、内容証明郵便を送ることにしました。
2022年11月26日 内容証明郵便を送付
2022年11月29日 内容証明郵便が到達
2022年12月13日 振込がないまま指定した期限(到達後14日)が経過
内容証明郵便の送り方や注意点
内容証明郵便の書き方は、実際に著作権侵害を受けて内容証明郵便を送付した写真家のブログを参考にしました。「事件の概要」「損害賠償請求額とその積算根拠」「振込先(銀行名、支店名、預金口座の種別、口座番号、名義人の名前)」「振込期限」が揃っていれば問題ないかと思いますが、不安な方は弁護士や司法書士に監修してもらうことをお勧めします。
内容証明郵便の送り方は大きく分けて2種類あります。電子かそうでないかです。一般的な内容証明郵便は郵便局に持ち込む必要がありますが、電子内容証明郵便はインターネット上で24時間365日依頼でき、封筒などを用意する手間も不要です。その上、料金も少し安くなっています。そのため、筆者は電子内容証明郵便を利用しました。
内容証明郵便料金は指定の様式での枚数に応じて料金が加算されるため、要点を絞って書くことをお勧めします。上記の文面だと(AmazonのURLが長いせいで割とぎりぎりでしたが)電子内容証明郵便の様式1枚分に収まりました。因みに、電子内容証明郵便の場合は日本郵便のサイトで様式をダウンロードできます。
内容証明郵便を発送する際は必ず配達証明を付けましょう。相手が受け取った証拠になるだけでなく、内容証明郵便の到達日を基準に振込期限を設ける場合にも役立ちます。
後述の通り、上記の請求金額は請求可能な金額からするとかなり低めの金額になっています。裁判などの手間を避けて解決できるならこの程度でも良いと妥協してのものでしたが、基本的には満額請求することをお勧めします。
法人登記の確認
ここまでは相手が個人か法人かは曖昧なまま進めてきましたが、ここからは裁判所を通じて行う手続きになるため、訴えるべき相手が個人なのか法人なのかをはっきりさせる必要があります。そこで必要になるのが法務局での法人登記の確認ですが、Amazon上では販売業者名しか記載されておらず苦労することになりました。
検索システムが利用できない
オンラインや法務局の検索機では法人名や法人番号で検索することができます。そこで、まずは販売業者名で検索して検索結果がないことを確認しました。然しながら、これだけでは販売業者名と同名の法人が無いことが分かっただけであり、別の名前の法人が店舗名などとして使っている可能性が残ります。そのため、検索機の案内スタッフからは窓口で確認するように勧められました。
窓口でも分からない
案内に従って窓口で確認してみたものの、やはり検索結果はありませんでした。検索システム自体は同じで、アルファベット表記だった販売業者名を他の表記でも検索してくれただけのようです。そこで、今度は現地の法務局に確認してみることを勧められました。
現地の法務局へ電話
現地の法務局に電話をかけて確認してみましたが、検索システムは全国で共通なので、(申請書を送ってもらえば検索はするけれども)同じ検索結果になるはずだと説明されました。窓口スタッフの思い違いだったようです。
自営業者と仮定
法人と判断する術がなく手詰まりになったため、ここからは相手が自営業者と仮定して進めることにしました。
無在庫転売業者が逃亡開始?
法人登記について確認するために改めてAmazonの出品ページを確認してみたところ、何故か販売業者名が、店舗名から運営責任者の名前に変わっていました。そこで不審に思って確認してみたところ、10頁以上はあったはずの出品商品が全て取り消されていました。さらには、法人登記の有無を確認するために記載されている電話番号にかけてみたところ「現在使われておりません」のメッセージが流れるのみでした。
先述の通り、筆者は出品者ページはいつでも確認できるものと思ってその場では保存していなかったため、既に保存していた商品ページにある出品者名と現在の出品者名が食い違うことになりました。そのため、スクリーンショットだけでは出品者が誰であったかを示すことができなくなり、後述の通り余計な手間が増えてしまいました。そのため、最初の段階で出品者ページまできちんと保存しておくことを強くお勧めします。
民事調停は断念
まずは民事調停を起こそうと地元の簡易裁判所に行きましたが、これは相手の住所を管轄する裁判所でしかできないと説明されました。然しながら、そのために片道600kmを超える旅をするのは流石に無駄なので断念し、少額訴訟を起こすことにしました。
民事調停とは
裁判所で裁判官立ち会いの下行う「話し合い」です。裁判とは異なり、お互いに同意できる妥協点を見付けることが目的ですので、お互いに同意できなければ不成立となります。また、一方が欠席した場合も同様に不成立になります。一方で、裁判に比べると格安で申し立てができ、お互いに同意できれば判決と同じ効力を持つため、話し合いができる相手なら便利な制度です。
少額訴訟を提起
訴状の様式は何種類かあるため、簡易裁判所に訴状を貰いに行く場合は予め事件の概要を説明できるようにしておきましょう。給料や売買代金の未払などの場合は専用の様式が用意されており、それらに当てはまらない今回のような場合は「金銭支払(一般)請求」になります。
簡易裁判所に訴状を受け取りに行くと、以下の4点を渡されました。
「少額訴訟の手続きについて」・・・少額訴訟に関する基礎知識が書かれた紙です。主な内容は後述の「少額訴訟とは」に記載しています。
「訴状提出時に必要なもの」・・・提出が必要なもののチェックリスト
事情説明書(甲)・・・(後述)
訴状・・・(後述)
少額訴訟とは
請求金額が60万円以下の場合に利用できる簡略化された裁判です。原則として1日で判決を出すため、何度も裁判所に出向く必要がありません。また、控訴ができないため上級裁判所に移行して続けることもありません。(異議申し立てにより同じ簡易裁判所でもう一度行う場合はあります。)さらに、通常の裁判に比べると安く起こせる点も特徴です。
事情説明書(甲)
事件に関するアンケートのようなものです。内容は以下の10項目で構成されており、基本的にはありのまま答えるだけです。
被告との交渉の有無
(1で「ある」と回答した場合)被告の言い分
(2で「言い分に食い違いがある」と回答した場合)被告側の言い分
裁判前に内容証明郵便などで支払催促などを行ったか
証人の有無
(5で「いる」と回答した場合)証人は裁判に出廷できるか
(5で「いる」と回答した場合)証人に証言すべき内容を書面にしてもらい提出できるか
訴状に記載した場所以外で被告が書類を受け取れる場所を知っているか
裁判所を交えて、被告との話し合いによる解決ができるか(減額や分割払いに応じる意思などの確認)
その他参考になる事情や裁判所に配慮してほしい点
余談ですが、10に無在庫転売を疑っている理由と無在庫転売について相手に確認したいことを記入しました。また、内容証明郵便と少額訴訟で請求金額が異なる理由もここに記入しています。
訴状
訴状は同じものを3枚用意し、1枚は原告が自分で持ち、残り2枚(裁判所用と被告用)を裁判所に提出します。そのため、裁判所で貰える訴状の様式は3枚の複写式になっています。項目は以下の6つで、前半は特に迷うところはないはずですが、後半は法律的な知識なども必要なため弁護士や司法書士に監修してもらうことをお勧めします。
筆者は、記入例を参考に下書きしたものを市役所の無料弁護士相談に持ち込み、助言いただいた点を追記したものをさらにハローワークの無料弁護士相談で確認してもらってから提出しました。
※ハローワークの弁護士相談は基本的に労働関係が専門ですので、事前にその他の質問も受け付けているかを確認しましょう。また、あくまでも本来の目的で利用する方を優先し、邪魔にならないようにしましょう。
本年、この裁判所で少額訴訟を行った回数
原告の住所、氏名、電話番号、FAX
被告の住所、氏名、電話番号、FAX
請求の趣旨・・・請求金額などを記入する欄です。
紛争の要点(請求の要因)・・・事件の概要を記載する欄です。
添付書類・・・証拠として提出する書類の一覧です。
訴状は必要事項さえ揃っていれば印刷でも構いません。筆者は連絡先などを記入する1枚目は裁判所で貰える訴状の様式に手書きしましたが、2枚目は記入事項が多かったため印刷にしました。
1つの裁判所で起こせる少額訴訟は年10回と決められています。この記事を読んでいる方は年間どころか人生で1回目だと思いますが、同じ年に複数回少額訴訟を起こした場合は間違わないよう気を付けましょう。
筆者は訴状到達の翌日からの遅延損害金を請求していますが、内容証明郵便などで支払期限を設けた場合はその期限の翌日からの遅延損害金を請求することもできます。内容証明郵便でも満額請求するよう勧めたのはそのためです。
訴訟費用には、裁判所に訴状を提出する際に納める収入印紙や切手の代金の他、裁判中に証人に出廷してもらった場合に支払う旅費や日当などが該当します。弁護士を雇った場合であっても弁護士費用は含まれませんので注意しましょう。
その他訴状提出時に必要なもの
収入印紙・・・裁判所に払う手数料です。請求金額によって変わり、請求金額が10万円以下の場合は1,000円です。
切手代・・・裁判所によって多少異なるようですが、被告が1人の場合は5,000円程度です。被告の人数が多くなると増えます。
添付書類・・・要は証拠です。「甲第1号証」のように番号を振って提出します。特に色は指定されませんでしたが、朱書きする場合が多いそうです。筆者は窓口で「甲第 号証」の判子を借りました。(全ての裁判所で借りられるかは分かりません。)
その他、当事者が法人の場合は登記事項証明書が、未成年の場合は戸籍謄本などが必要になります。
裁判所から追加で提出を求められる
訴状を提出する際に窓口で伝えられますが、訴状を一旦受け付けた後でも裁判所が追加で欲しい情報について提出を求められる場合があるようです。
筆者の場合は、「ローマ字表記だったため読みしか分からなかった被告の氏名の漢字表記」と「株式会社アマナ以外の料金表」について追加の提出を求められました。
住民票の写しの請求
Amazon上ではローマ字表記の被告の氏名が記載されていたため、内容証明郵便や訴状はそれをひらがな表記にして書いていましたが、住民票の写しを請求して漢字表記を確認するよう言われました。指摘されるまで知りませんでしたが、どうやら訴訟などで必要な場合は第三者であっても住民票の写しを請求できるそうです。そこで、相手の住所のある市役所に訴状と証拠の一部のコピーを同封して住民票の写しを請求したところ、約10日で住民票の写しが届きました。これにより、被告の本名を正式に確認することができました。
因みに、住民票の写しは裁判所から提出を求められます。そのため、手元に残しておきたい場合は予めコピーしておきましょう。裁判所内にもコピー機はありますが、料金はコンビニよりも高めです。
株式会社アマナ以外の料金表
筆者は写真素材の販売価格については知識がなかったため、インターネットで検索して出てくるものを流し見て大体の相場を知りました。それが月2万円であり、内容証明郵便での請求金額の根拠としました。
ところが、裁判ではそれが本当に妥当なのかを証明する必要があったため、公益財団法人日本写真家協会賛助会員のサイトを片っ端から確認して株式会社アマナとPPS通信社の料金表に辿り着き、上記の相場に近かった株式会社アマナの料金表を参照して訴状を書きました。従って、それがある程度妥当な金額であるだろうと個人的に判断していましたが、裁判所からすれば株式会社アマナの料金表以外の判断材料がないため妥当性を判断できないことになります。そのため、他社(他者)の料金表も提出するよう求めたということでした。(それぐらい勝手に調べてくれれば・・・と思わなくもないですが、裁判所としては提出されていない証拠は存在しないものとして扱う他ないため仕方ありません。)そのため、「PPS通信社」「朝日新聞フォトアーカイブ」「時事通信フォト」「毎日フォトバンク」「日本写真家ユニオン」の料金表を追加で提出することにしました。
因みに、当初PPS通信社の料金表を採用しなかったのは、使用目的の分類が細かくてややこしい上、無断使用の場合は1000%で計算するため請求金額が数十万円に達し、訴訟費用も高くなってしまうからです。
答弁書
裁判所から訴状を受け取った被告は答弁書を提出できます。答弁書には、原告の主張に対して認否や反論などを記載します。また、被告が提出した答弁書の内容は事前に原告にも渡されます。
筆者の場合は、少額訴訟の日の10日ほど前に答弁書を受け取りました。内容を確認すると、無断使用の事実は認める一方で、金額については争う姿勢を見せ、内容証明郵便に書いていた金額が妥当だと主張してきました。(それなら無視せず払えば良かったのに・・・)
裁判当日
訴状の不備を修正してから約1ヶ月後、いよいよ裁判が行われました。
少額訴訟は一般的にイメージされる大法廷ではなく、会議室のような場所で全員が同じテーブルを囲んで行います。書記官に促されて入ると、次に司法委員、そして裁判官が入ってきました。因みに、今件の被告は電話での出席でした。
開廷
まず初めに本人確認と和解に応じる意思があるかを確認されました。次に、被告にも電話をかけて本人確認や少額訴訟の説明の後、和解に応じる意思があるかを確認していました。その後一旦電話は切られて書記官と裁判官が退室し、司法委員と二人きりになりました。お互いに和解に応じる意思はあるため、司法委員が主導して妥協点を探ることになります。
和解
まず司法委員から妥協できる金額を尋ねられたため、訴状の8万円と被告が主張する4万円の間を取って6万円ほどで考えている旨を伝えました。そこで一旦退室を促され、その間に司法委員が被告に電話をかけてこちらの意思を伝えます。暫くして、入室を促されるとともに被告が6万円で同意したことが伝えられました。
次に、司法委員が同意した内容を纏めた和解調書を作成します。金額や支払い方法、支払い期日などを記載し終わると再度退室を促され、電話で被告にも内容が伝えられます。
再度入室を促されると書記官と裁判官も続いて入室し、電話をかけて裁判官から改めて和解内容の確認が行われました。また、被告には期日までに支払わなかった場合の遅延損害金や強制執行などに関する注意事項の説明も行われました。
因みに、裁判の予定時間は1時間でしたが、スムーズに進んだためか30分ほどで終了しました。
振込
裁判から1週間後、6万円が振り込まれました。自己負担になった裁判費用4千円弱を差し引くと、5万6千円ほどが手許に残りました。
最後に
縁遠い存在だと思っていた裁判ですが、いざやってみると何とかなるものです。また、結果として内容証明郵便の送り方や裁判の起こし方など、良い勉強になったと思います。その上、損害賠償を勝ち取れたので個人的には満足の行く結果でした。
ですが、今回は相手が比較的簡単に折れてくれただけで、全ての場合で同じように上手く行くとは思いません。この記事が裁判を起こす際の参考になれば幸いですが、それと同時に、準備不足や相手の反論次第で結果は変わるということを十分承知した上で裁判を起こすかを検討してください。
また、一部では無在庫転売がローリスクな副業として紹介されているようですが、他人の撮影した写真を無断で使用することにはこのようなリスクがあるということを理解すべきだと思います。訴える側にとってはローリスクの良い副業になるかもしれませんが(苦笑)
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