秋田発の“カブトムシ”スタートアップ「TOMUSHI」、創業の地へ
秋田駅から車で北におよそ2時間、青森との県境に近い場所に、いま注目を集めているとあるスタートアップの本社があります。
それが、株式会社TOMUSHI(トムシ)です。NewsPicksが主催するピッチコンテストでは、1億円の出資希望額に対して、堀江貴文さんを含む3名が投資に手を挙げ、堀江さんからは「世界を狙える」と賞賛を集めました。
今回は、秋田で開催した事業創造プログラム「LOCAL START-UP・GATE」の一環として、株式会社TOMUSHI本社に見学へ。プログラム参加者は、TOMUSHI代表の石田健佑(いしだ・けんすけ)さんとの対話を通じて、地域における世界観ファーストでの事業立ち上げについて、見識を深めました。
さてここからは、当日参加した国際教養大学1年生の湯本志築(ゆもと・しづき)さんに、1日の様子をレポートしてもらいます。湯本さん自身も現在、秋田の伝統芸能に関する事業プランを検討中。LOCAL START-UP・GATEを通じて、自身の世界観と事業プランを磨いています。
資本金は祖父母から借りた400万円、本社は今も「祖父母の実家」
今回私たちがうかがった株式会社TOMUSHIは、「昆虫の力でごみを資源化し、世界の資源不足を解消する」というコンセプトを掲げています。
食品廃棄物をカブトムシをはじめとした昆虫のエサとして加工し、そのエサで育てた昆虫をペットとして販売したり、昆虫からタンパク質を取り出して畜産資料の代替品といて販売したりと、昆虫の力を活かしてサステナブルな未来をつくろうと事業に取り組んでいます。
TOMUSHIがあるのは、秋田県の大館市。実は、創業者である石田健佑さんと陽佑(ようすけ)さんのおじいさまとおばあさまが住む実家が本社になっています。
創業から4年が経ち、今では宮城県や徳島県など全国各地に拠点を構えて事業を展開していますが、本社は変えていません。
実はTOMUSHIの創業をさかのぼると、お二人から祖父母への“一生のお願い”に端を発しています。カブトムシを大量飼育するための資金として、400万円を借りたことで、事業がスタートしたそうです。
実家に本社を構えているのにも、事業初期に支えてくれた二人への感謝が伝わってきます。
家(オフィス)の中は、落ち着きのある昔ながらの風情が残り、部屋の壁にはこれまで受賞されてきた様々な功績がたくさん飾られていました。
TOMUSHIの創業ストーリーを聞く
さてTOMUSHIのオフィス見学後は、石田さんからじっくりお話を聞くべく、場所を移します。
向かったのは同じく大館市内の白沢。吉田松陰が、東北遊学の際に泊まった歴史ある土地です。そんな場所にあるのが、「としょ木漏れ日」。空き家の古民家を活かした、地域の交流の場です。
誰でもふらっと立ち寄れる「地域の茶の間」のような場所で、宿泊施設としても利用できます。としょ木漏れ日を運営する三澤雄太(みさわ・ゆうた)さんによると、「Airbnb経由での宿泊客の多くが海外から」だそうです。
さて、お話を聞いたのは、引き続きTOMUSHI代表の石田健佑さんと、同社の和田宇史(わだ・たかふみ)さん(取締役事業管理部長)です。幼少期から現在に至るまでの石田さんの経験や、TOMUSHIの世界観をどのように組織として共有しているのか、などを聞きました。
大館市で生まれ、小中高と青森で過ごした石田さん。カブトムシが大好きで、双子の陽佑さんとともにカブトムシの採集に行っていたそうです。
健佑さんは19歳で家出をすると、祖母のいる大館市で生活を開始。その後、SNSで知り合ったDMM.comグループ創業者の亀山敬司さんと出会い、亀山さんが運営するコミュニティで経営やマーケティングを学びます。
その後、陽佑さんと共に東京でWebマーケティングの会社を起業。しかしうまくいかず、二人とも大館市に戻ってきました。そこで、幼少期に好きだったカブトムシの飼育を始め、その規模が徐々に広がるにつれて、事業へと発展していきました。
石田さんの話で特に印象に残っているのが、ビジョンを明確にすることの大切さです。ビジョンを明確に打ち出し、同じくビジョン実現を志した仲間や、共感した人が集まって、現在のTOMUSHIができあがっています。
私自身の事業アイデアを形にしていく上でも、一緒に取り組んでいるメンバーとビジョンを常に確かめ合い、同じ方向へ歩みを進めていくことが大事なのだと改めて気づけました。
健佑さんは「自分が大好きなカブトムシで世界を変える」という自身のビジネスに対して誇りがあるからこそ、人を惹きつけたり人の心を動かすことができるのでしょう。健佑さんのように、試行錯誤を繰り返しながら、自分の世界観を実現できる事業を立ち上げたいと強く思いました。
事業アイデアの壁打ち会、地域で事業をつくる“先輩”ならではの視点でフィードバック
さて、話を聞いた後は、参加者それぞれが自身の事業アイデアについて、相談をする時間となりました。
TOMUSHIの石田さんと和田さん、そして会場を貸してくれた三澤さんも加わり、「壁打ち会」がスタートしました。
私が目指しているのは、「高齢者が生きがいを感じながら楽しく暮らし続けられる秋田」です。
秋田は、高齢化や人口減少に直面しています。これらはネガティブに捉えられがちですが、そのイメージをポジティブなものへと変え、高齢者がいきいきと暮らし続けられる地域を実現したいと思っています。そこで現在は、地域に根ざした伝統芸能を他の地域に住む人や海外の人に向けて発信し、秋田との関わりを持つ人を増やせないか、事業プランを検討しているところです。
私は秋田に来て半年ほどですが、秋田竿燈(かんとう)祭りや地域のイベントに参加する中で、秋田の魅力に触れてきました。より多くの人にそれが伝わり、訪れたくなるような場所になってほしいと考えていますが、一方で、事業プランを詰めていく中では懸念や不安もたくさんあります。
「このアイデアで、本当に地域の活性化につながるのか」「協力したいと思ってくれる人がいるのか」「対象の外国人に、伝統文化が受け入れてもらえるのか」。
そんな中で石田さんさんからは「地域の伝統芸能のみならず、古くからある温泉や食、建物など地域資源がどんどん少なくなっていっている。その点もぜひ事業に取り入れてほしい」といったフィードバックをもらいました。
実際に秋田で生まれ、事業を展開している石田さんは、古くから続いてきた温泉や地元の産業がどんどん活気を失い、終わらざるをえなくなっているという現状を目にしてきたそうです。そうした話を聞き、私の事業プランに込められた「地域に根ざす希少な資源や文化を絶やさない」ことの必要性や重要性を改めて認識できました。
また、としょ木漏れ日を運営する三澤さんからは、ホームステイのような経験ができる場所が少ないと教えてもらいました。「旅行としてホテルや旅館に泊まるだけでなく、そこに住んでいる人のディープな部分が味わえるような体験を提供できると、独自の価値を提供できるのでは」という意見をもらうことができました。
さて、1日を通じて、新しい知識を吸収し、自分の事業に関する新たな視点を得ることができました。自分の視野が広がったように感じます。
また、出会った人たちは皆「秋田を活気づけたい」「地元に貢献したい」という同じ志を持っていました。手段は違っても、共有できる思いがありました。
今回の学びを活かして、さらに自分のビジネスアイデアを磨き上げていきたいです。
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