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元ライフセービング日本代表が砂浜を守る、海岸侵食を解決するアプリ「Be-conn」:ビーコン・廣田諒

近年、世界各地で「海岸侵食」が深刻化しています。海岸侵食とは、簡単に言うと、砂浜が消えてしまうこと。「海岸に定着する土砂の量」よりも「海に流出する土砂の量」が上回ることによって起こり、気候変動やダム建設のような土砂の流れに影響を与える開発工事などが要因とされています。国内でも2050年には、2000年時点と比べて砂浜の25%〜50%が消失するとの予測もあります(*1)。

この海岸侵食という社会課題を解決するために、アプリ「Be-conn(ビーコン)」を開発しているのが株式会社ビーコン代表取締役の廣田諒(ひろた・りょう)さんです。その胸の内には、海に対する熱い思いがありました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら


砂浜がなくなると、何が問題?

そもそも、砂浜が消失するといっても、多くの人にはその問題の深刻さが伝わらないかもしれません。具体的にはどのような問題が起きるのでしょうか。

「海岸侵食がこのまま進むと、レクリエーションとしての価値が失われ、2081年から2100年には年間494億円の経済的損失が出ると予測されています(*2)。また、砂浜がなくなると、沿岸災害の被害にもつながります。例えば2019年の台風に伴う高波では、鎌倉の国道134号線が崩壊しました」(廣田さん)

災害によって特に被害を受けるのが、海岸沿いの事業者だと廣田さんは続けます。

「ビーチリゾートやアクティビティ事業者、飲食店、鉄道会社などは、沿岸災害によって事業が立ち行かなくなる不安を抱えています。砂浜の保全を国や自治体に求めようにも、その根拠となるデータは解読が難しく、砂浜の脆弱性について把握、解析できるデータがほぼない状態です」

というのも、日本には3,250kmの砂浜海岸がありますが、その約70%は状況把握すらされていないのだそう(*1)。

そこで廣田さんは、砂浜の“健康状態”を定量化するアプリを発案。海岸沿いの事業者を支援しながら社会課題の解決を目指す「Be-conn」の開発に乗り出しました。

スマホ用の定点スタンドで砂浜を撮影、その健康状態を定量化する


廣田さんは「Be-conn」を「マリンレジャー愛好家向けSNS」と位置付けている

「今後、スマホ用の定点スタンドを沿岸に設置していきます。そのスタンドから『Be-conn』を使ってユーザーに海岸を撮影してもらい、その画像データを私たちが解析します。砂浜の健康状態を定量化できれば、適切なタイミングで砂浜保全を行うための根拠として活用できると考えています」

アイデアの元になったのは、オーストラリアで生まれた「CoastSnap」というアプリ。スマホ用の定点スタンドで撮影された画像から、砂浜を造成すべきタイミングを知ることができます。

「『CoastSnap』は海を記録することに特化したアプリですが、『Be-conn』はさらに海で楽しむための情報を一元化して提供するサービスにしていく予定です。

例えば海に行こうと思ったら、Instagramで良さそうな海を探して、宿泊予約サイトでホテルを予約して、グルメサイトで飲食店を探して、Googleマップで道順調べて……というように、いくつものツールを使いますよね。それらを『Be-conn』だけで完結できるようにしたいと思っています」

「Be-conn」はこれまで、経産省・JETRO主催の「始動 Next Innovator 2022」で採択を受けたり、内閣官房が主催する「イチBizアワード」で部門賞を受賞したりと実績を積み上げています。

その過程で多くの企業やユーザーと対話を繰り返す中で、プロダクトの方向性を模索していきました。

「やはり真面目なだけのアプリって使わないよね、という話をもらう機会が多かったです。アプリがこれだけ世の中に溢れている中で、海外侵食の砂浜の状況だけ上がっていても、当然見ませんよね。課題を解決するためには、多くのユーザーにこのアプリを使ってもらい、砂浜の写真をアップしてもらうことが必要です。だからこそ、楽しくて “イケてる”サービスをつくりたいと思っています」

このように海やマリンレジャーが好きな人たちに楽しく使ってもらいながら、砂浜保全の認知向上にもつなげていきたいと廣田さんは話します。

「今後は、スマホ用の定点スタンド起点としたプロモーションや、ビーコンアプリ上のUGC(ユーザーが投稿したコンテンツ)を用いたAPI連携などを進めていく予定です。そして海岸侵食だけでなくサンゴ礁の維持や保全のためのツールとして、「海」というキーワードをもとに課題解決とマネタイズを図っていきます」

ライフセーバー時代に、地元・江ノ島の砂浜が減ってきたことを実感

海岸侵食はとても重要な社会課題ですが、かなりニッチな領域です。「Be-conn」を開発するきっかけは何だったのでしょうか。

「もともと私はライフセービングをやっていたのですが、ホームビーチである江ノ島の砂浜が減ってきたのを肌で感じて、調べたことがきっかけです。将来、このきれいな海がなくなってしまうのは嫌だなと思ったので」

2018年にはイタリアで開催されたItalian Age Groupe Championshipsの日本代表にも選出された廣田さん。海との深い関わりが、この事業を生むきっかけにつながったようです。

「Be-conn」は現在β版を展開中で、機能としては、海に関する投稿をカテゴリーごとに共有したり、世界各地に設置された海沿いのLIVEカメラを見たりできます。

今後は定点スタンドの撮影に関わる機能や、ユーザーに楽しんでもらえるゲーミフィケーション的な仕組みを追加していくことを目指しているとのことです。

「定点スタンドに関して言えば、日本には同種の取り組みがありません。定点スタンドの設置には許認可が必要なので、非常に手間が掛かるんです。私はそこを突破するつもりです。

また、解析システムや定点スタンドが整ったら、SDGsロゴの使用を申請し、アプリのユーザーが増えたタイミングで広告掲載の事業もスタートさせていく考えです。『Be-conn』に広告を掲載すると『SDGs 14(海の豊かさを守ろう)』への貢献をアピールできるというスキームにしていけたら」

砂浜消失という社会的課題を解決するために、全力で走り続ける廣田さん。最後に、モチベーションの源泉を教えてもらいました。

「結局、海が好きなんです。海から得られた恩恵を感じていて、ライフセービングの代表になれたのも、海があったからですし。純粋に、きれいな海がなくなったら嫌じゃないですかそれに、最近はさまざまな関係者の方々とお仕事に取り組んでいて、バタバタとしていますが、最終的にはゆっくりときれいな海を見ながら、ビールとラーメン、そして隣に素敵な未来の奥さんとかがいてくれたら、最高だなと思っているので、自分の未来のためにも頑張ります(笑)引き続き、海と人との架け橋となる事業を創出し、後世にも誇れる海をつないでいきます!」

*1 国⼟交通省_砂浜保全に関する中間とりまとめ 参考資料
*2 砂浜侵食に伴うレクリエーション価値の損失と適応政策の効果の推計/2017年73巻 5号 p. I_191-I_199

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