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私たちがハマった「新規事業の罠」10選——占有率より売上拡大、初期の営業代行頼り、いたずらなマーケ強化など

新規事業を輩出するために、アクセラレーションプログラムや新規事業提案制度(社内ベンチャー制度)などを通じて、社内から事業アイデアを公募するケースは多いと思います。

私たちGOB Incubation Partnersも、そうした企業の制度設計や組織開発に伴走してきました。さらにここ数年は、それらの制度から生まれた事業に対して投資を行い、経営参画しながら事業成長にコミットするケースも増えつつあります。

投資する際にGOBが大切にしているのが「世界観」です。常識にとらわれない「こういう社会になったら面白い」という像を共有し、社会に届けることで、既成の枠組みを越えていこうとしています。うれしいことに、そんな世界観をもった事業が企業からもたくさん生まれてきています。

しかし、そんな世界観ファーストでの事業化や経営は、一般的な新規事業とはまた異なる難しさがあるのも事実。そこで今回は、私たちが企業や起業家とともに経験してきた失敗や乗り越えてきた課題を「新規事業開発の罠」としてまとめました。

この記事では特に事業化(法人化)以降の課題に絞って紹介します。

*本記事は2023年10月に開催したオンラインセミナーの内容をまとめたものです。これらセミナーの内容は、2024年春に出版する(意気込みの)『世界観ファースト(仮)』でより詳細な解説と共に収録予定です(イベント#2はこちら)。

<登壇者プロフィール>

山口高弘(やまぐち・たかひろ)/GOB Incubation Partners代表取締役会長
社会課題解決とビジネス成立を両立させることに挑戦する事業支援を中心に、これまで延べ100の起業・事業開発を支援。 ビジョンをビジネスを通じて社会に実装する支援を行うためGOBを創業。前職は野村総合研究所ビジネスイノベーション室長。 自身も起業家・事業売却経験者であり実務的支援を展開。主な著書:『いちばんやさしいビジネスモデルの教本』(インプレス)、『アイデアメーカー』(東洋経済新報社)

高岡泰仁(たかおか・やすひと)/同代表取締役社長CEO
前職・大手印刷会社で法人営業として入社し、その後、新規事業開発、事業戦略を担当。法人営業ではコミュニケーション課題に対するソリューション提案を中心に、全ての業界との取引を経験。その後、新規事業として教育事業の立ち上げに参画し公教育分野での事業開発を経験。事業戦略では経営管理から 戦略立案、組織改革を推進。
また、新規事業を連続して生み出していくための組織づくりにむけた仕組みづくりを行う。2019年からはGOBに参画し、社会価値 と経済価値を両立した事業の輩出にむけて、企業の新規事業開発の伴走と事業創造のための仕組みやプラットフォーム構築に携わる。また、輩出した事業の法人化後の組織経営支援にも携わる。


1:創業初期のプレッシャーから、売上拡大に奔走する

新規事業の罠の1つ目が、やみくもに売り上げを拡大しようとすることです。

当然、事業化すると、売り上げを上げなくてはいけない強烈なプレッシャーを抱えることになります。想像通りに数字が立たない焦りから、顧客を広げるといった行動に出ることも多いです。

しかし、事業初期に重視すべきは、売上高ではありません。大切なのは市場における「占有率」です。

具体的に言えば、もし今の事業の市場占有率が10%を下回っているようであれば、それは定義している市場が大きすぎます。10%以上になるように、エリアや顧客セグメントなどのサイズを変えるべきです。

なぜ、占有率が大切なのか。一言でいえば、顧客は「知っているもの」の中から選ぶためです。逆に言えば、知らないものは購入の選択肢にすら入りません。自分が商品を買う時のことを思い浮かべればわかると思います。

ですからまずは、自分たちが上位のシェアを獲得できる狭い範囲で占有率を高め、顧客が「知っている」状況を作り出すことが先決です。

特に新規性が高い世界観ファーストの事業の場合、顧客からすると未知の要素が大きいでしょう。すぐに広く世の中に受け入れられる事業ではないはずです。

だからこそ、市場を絞り、特定の狭い範囲で顧客との関係を構築することが大切です。そしてファンになった顧客が、次の顧客を呼ぶようにして事業が広がっていきます。一気に広げようとすると、顧客との関係性が薄まり強烈なファンを獲得できないため、結果的に大きく広がってはいきません。これは例外なく、世界観ファーストの事業すべてに言えることです。

2:初期に「営業代行」に頼る

創業初期は、特にリソースが不足しています。

その中で、1でも見たような売り上げへのプレッシャーから、営業代行に頼るケースがあります。

しかし、初期に自分で営業活動することを放棄することは、実は大きな損失です。なぜなら、営業活動による顧客理解を深める機会を、みすみす逃すことになるからです。

初期に優先すべきは、何よりも顧客理解です。初期の顧客は自分たちの事業の世界観を共に広げていくパートナー。そのニーズを感じ取り、ズレがある場合にはタイムリーに商品を修正していかなければなりません。当然、事業検証の段階でも顧客理解は深めているでしょうが、ローンチ後が真の顧客理解の期間なのです。

その大事な期間を他の誰かに任せてしまうというのは、長期的な事業成長を見据えた際に大きな損失なのです。

また自ら営業していれば、商品だけでは伝えきれない世界観を、顧客に直接伝えることもできます。

世界観ファーストの事業における理想は、世界観が商品に十分に込められており、商品自体が起業家の代わりに購入につながるストーリーを訴求できる状態です。とはいえ、初期にそこまで仕上がっていることはほとんどありません。だからこそ、商品と一緒に自分自身が世界観を、つまりその商品がもつ圧倒的な価値を伝えなければなりません。

この時期に、商品と世界観を伝えるために試行錯誤を重ねることが、後に大きな財産になります。逆にここをサボってしまえば、次第に価値の置きどころがわからなくなり、いつまでも自分の世界観を商品に込められないままです。

3:「何のサービスかわからない」という声を受けて、マーケティングを強化する

1でも見たように、新規性の高い世界観ファーストの事業の場合、すぐにたくさんのファンがつくわけではありません。

そうして商品の価値がなかなか伝わらないと、マーケティングに問題を見出してしまうケースがあります。安易に、ウェブサイトやフライヤーの表現を変えるような対応をしていないでしょうか。

商品が顧客に伝わらないのはマーケティングの問題ではなく事業の定義、つまり「自分たちが何者なのか」が明確になっていないせいです。

事業の定義とは、世界観を商品で表現したものです。例えば「10分カット」でおなじみの「QBハウス」は、散髪の時間を短縮することで、自らを“時をつくる散髪屋”と定義。これにより顧客は、単なる時短ではなく「大切な人との時間を作ってくれる」QBハウスのファンになっていきました。

自分たちが事業で表現したいものと、顧客が受け取ってわかるものとが一致するように、定義を考え抜かなければいけません。

定義というと難しいですが、まずはコンセプトをひねり出してみるのが良いと思います。何かしら言葉にしてみて、それを商品の設計に反映していくというプロセスを幾度となく繰り返す中で、事業が定義されていきます。この定義が、尖ったコンセプトを持った商品づくりにもつながります。

さて、ここまで3つの罠を取り上げました。

オンラインセミナーでは全部で10の罠を紹介しましたが、残り6つは要点に絞ってまとめます。

これらの詳細は、2024年春に出版するべく準備を進めている『世界観ファースト(仮)』に収録予定です。また、イベント当日に投影したスライド資料は以下のフォームからダウンロード可能です。理解の助けとして活用してみてください。

それでは残り6つの罠の要点を、かいつまんで紹介します。

4:差別化のために、商品に新規性を加えようとする

顧客に商品の魅力が伝わらない場合の問題点は、差別化よりも「既視化」が大切です。いまだ世の中にない世界観から生み出された未知の事業であったとしても、顧客にとって「既知」になるように商品の外側を変換しましょう。革新的なプロダクトだったiPhoneを「電話」として売り出したように。

5:自分のリソース確保のためにアウトソースする

人手が足りないときに、自分が組織のボトルネックにならないように、作業をアウトソースする。一見すると合理的で正しそうですが、経営者として組織を成長させていくという視点では良い判断とは言えません。

6:わからないことをコンサルに相談する

「マーケティングの知見がないから、専門の会社にコンサルを依頼しよう」。これもリソースの限られる事業初期では悪手です。まずは自分でやってみて、ボトルネックや課題を把握した上で投資対効果を熟慮しなければいけません。

7:世界観を重視し過ぎてキャッシュが底を尽きる

世界観ファーストゆえに、ミッションやビジョンについての議論やブランディングに偏重してしまうケースがあります。それ自体は大切ですが、あくまでも世界観は事業や商品を通じて届けられるものです。サービスや収益モデルの磨き上げや市場との対話を劣後させてはいけません。

8:事業成立に固執して、世界観の実装が後回し

事業初期は、事業の成立と同時に、将来的に世界観をより拡張していくためのビジネスモデルの検証期間でもあります。つまり、最初のプロダクトは事業成立だけが目的になってはいけないのです。事業成立までの過程で得られるオペレーションを資産として蓄積しながら、サプライサイドとデマンドサイドを広げていくべくビジネスモデルを転換していきましょう

9:仮説検証を繰り返すばかりで、戦略の意思決定ができない

事業をつくる上で仮説検証は欠かせませんが、そこに傾倒するあまり、意思決定が遅れてしまう自体は避けなければなりません。石橋を叩きすぎることなく、適切なタイムプレッシャーをかけた上でスピーディーな意思決定が求められます。

10:売り上げに対して供給が追いつかない

想定以上に需要が拡大し、供給が追いつかないケースもあります。これはうれしい悲鳴ではなく、経営者として避けるべき事態です。​​「創業メンバーがいなければオペレーションが回らない」状態では多くの場合、暗黙知による生産体制が敷かれており、それが外部を巻き込んで生産体制を拡大する際の足かせになります。


繰り返しになりますが、今回紹介した内容の詳細は、2024年春に出版するべく準備を進めている『世界観ファースト(仮)』に収録予定です。

また今回のセミナーの内容をまとめたPDF資料は以下のフォームからダウンロードいただけます。

なお、GOBでは、同種のテーマで毎月オンラインセミナーを開催しています。直近のイベントはこちらをご確認ください。

罠シリーズイベント#2「実証期編」(2023年11月20日)>

罠シリーズイベント#3(2024年1月17日予定)
*イベントページは近日公開いたします。