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僕が安住の地を手にするまで [10] 災害について深堀りしてみた

「私なら買わないかな」

これは、購入予定の土地が被災する可能性について、地域のハザードマップの作成にかかわっている先生(専門は地形学)に相談しに行ったときに言われた言葉だ。

なんというか、「やっぱりな」というのが正直なところだ。だって敷地内に建てば、目の前に切り立った山が見える。地震や大雨でこれが勢いよく崩れたら、まずいことになるだろうことは素人にだってわかる。

だったら、なぜ専門家に相談したのかといえば、それは、この土地を買うにしても買わないにしても、どこかに家を建てようと考えている以上、一度はしっかりと災害について考えてみないといけないと思ったからだ。

想定すべき自然災害の数々

土地購入にあたって、想定すべき自然災害はおもに以下の五つだ。

 ①(大雨による)河川の氾濫
 ② 地震
 ③(地震による)液状化現象
 ④(地震や大雨による)がけ崩れ
 ⑤(地震や大雨による)土石流

ここ数年多発している災害の数々を思い出し、自分でも書いていて嫌になる。さて、購入予定地のある大字岩波において、これらの災害が起きる可能性について考えてみる。

①大雨による河川の氾濫

ここ最近、日本で起きている災害の多くは河川の氾濫だ。それまでの雨量を超える大雨が降ることによって、河川に集まった水がおもに中・下流域でキャパをオーバーして溢れたり、堤防が決壊してしまうことによって起きている。

山形では、7月末の豪雨によって最上川が氾濫して、大石田町大蔵村などで約700棟の家屋が浸水被害を受けた。最上川とは、米沢市と福島の県境にある吾妻山あたりを水源として、米沢盆地と山形盆地の二つを貫いて北上した後に、西へそれて庄内平野へと流れる出羽国最大の河川だ。この地の稲作や交易(紅花や米)を支えてきた重要な川だが、同時に洪水などの水害ももたらしてきた。その証拠に、古くから大規模な灌漑・治水事業が行われた記録がある。じつは最上川は、富士川(長野・山梨・静岡)や球磨川(熊本)とともに「日本三大急流」と言われ、松尾芭蕉がうたった句にも「五月雨を 集めて早し 最上川」というのがある。

ただし、この最上川は山形盆地には寒河江あたりから流れ込むため、僕らが暮らす山形市はその北端以外はほとんど影響を受けることはない。むしろ山形市に水害を与える可能性が高いのは、街の西側を北上する須川や、東側を流れて須川に合流する馬見ヶ崎川である。というわけで、河川の氾濫を考慮すると、もっともヤバいのは、バイパス西側の須川沿いエリアと、馬見ヶ崎川と須川が合流する大字成安付近、須川と最上川が合流する大字長崎付近ということになる(下の地図の赤い部分)。

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幸い、岩波はそのどちらからも遠い。もっとも近い河川は竜山川という小さな渓流であり、西蔵王の急斜面にあるので、流水がそこに長くとどまることはない。河川の氾濫という観点ではとくに問題はなさそうだ。

②地震

また、岩波地区は地震による被害も比較的少ないそうだ。岩波は地質的にはとても硬い地盤で、地震が起きたときに市街地が震度7くらいになるところ、震度5ですむようなところらしい。住民の方々にお話を伺うと、東日本大震災のときも「コップが一つ倒れただけ」みたいなお宅ばかりだ。

ハザードマップを見ても、山形盆地の縁、つまり扇頂部に沿って見られる活断層がここでは見られない。土砂によって埋もれている可能性は否定できないが、少なくとも現時点で確認されているものはない。

③地震による液状化現象

次に考慮すべき災害は液状化現象だ。液状化現象とは、滞水した砂地盤が地震で揺すられることによって、まるで液体のようにユルユルになることだ。建物は揺れに耐えても、地盤が耐えきれないこともある。

山形市の中心部は馬見ヶ崎川が作った扇状地の上にあるが、その土壌は場所によって粒径が異なる。より上流部は礫(直径が2mm以上の砕屑物)が多く含まれ、下流方向に向かって、砂(0.075~2mm)からシルト(0.005~0.075mm)や粘土(0.005mm以下)へと粒径は次第に小さくなっていく。上で触れたバイパス西側の須川沿いエリアはとくに粒径が細かく、液状化の危険性が高いと言える。液状化現象による災害リスクを考慮するなら、より上流の粒径が大きな地盤のエリアを選ぶとよい、ということになる。その点、岩波はいわゆる扇頂部にあり、液状化現象の心配はない。

④地震や大雨によるがけ崩れ

河川の氾濫や地震、液状化現象による影響はほとんどないと言っていい岩波だが、実際にヤバいのはここから。とくにヤバいのが崖崩れだ。

購入予定地は、下の地図の青い星マークのところにある。黄色で示された部分が土砂災害警戒区域であり、赤色で示された部分が土砂災害特別警戒区域である。以前の投稿で触れたとおりだ。

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がけ崩れが起きると、その土砂はまず垂直方向に落ちる。落ちた土砂は、(最低でも)落ちた距離と同じだけ、今度は水平方向に向かうのだそうだ。土砂災害特別警戒区域として指定されているのは、これによって想定される最小の影響範囲だ。購入予定地の場合、土砂は沢のところで一度落ち込んだのちに、4メートルあるがけをのぼって敷地に入ってくるはず。というわけで、先生にも言われたが、ここに家を建てるなら「決して一階には寝てはいけない」ということになろう。

先生には言わなかったが、現状ではがけは竹藪で覆われている。「地震のときは竹藪に逃げ込め」と言われるくらい、竹は強く地盤を守る。また、水防竹林として川の氾濫を抑える効果もある。この竹藪が(ある程度は)勢いあまった土砂を抑えてくれるのではないか。また、これを補強するために、さらにがけの下端にブナやコナラのような木を植えるのも効果的かもしれない。

④地震や大雨による土石流

上の地図内で東西に伸びる黄土色部分が、土石流災害警戒区域である。がけ崩れだけでも怖いのに、さらには土石流の恐れもあるという。いい加減にしてほしい。「岩波」という地名からもわかるように、きっとここはもともと土石流でできた土地なのだ。それが何百年、何千年前なのかはわからないが。

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ただし、悪いニュースばかりではない。2007年に敷地のすぐそばに砂防堰堤ができた。先生曰く、「それはいいニュースだね」とのこと。しかし同時に、「それだけ危ない場所だと認識されていることでもあります」とも。

気になるのは、土石流災害がどれくらいの頻度で起こるのかということだ。先生によれば、「500年から数千年に一度くらい」とのことだった。結局のところ、この数字をどう捉えるかだ。

では先生ならどこに住むのか

僕が「いっさい忖度せずに正直なところを全部ぶっちゃけてください」とお願いしたせいだろうが、とにかく暗くなるようなことを散々言われた。あまりに悪いことしか言わないので、だんだん腹が立ってきて(笑)、「じゃあ、先生ならどこに土地を買いますか」「どこに住みますか」と聞いてみた。

そう聞いて、先生がまず最初に言ったのは、「災害という観点から厳しく見ると、山形市というのは基本的にあまり住むのに向いていない土地だ」ということだった(笑)。

なんなんだ!全否定か(笑)!

山形市に住む以上、もうどこに住んでも危険がつきまとうのだそうだ。一般的にはよく、「山形は被災しにくいから、災害に対する危機意識が低い」と言われるが、専門家に言わせればぜんぜんそんなことはなく、これまで常に注意を呼びかけてきたし、これからもそうしていくつもりだとのこと。

そんななかでも「より安全な買い方」として先生が言っていたのは、山形大学のあたりから駅前にかけてのエリア(つまりは東原町や諏訪町、小姓町あたり?)で、しかも中・高層ではなく、低層マンションの上位階の部屋を買う、ということだった。

なるほど、と思う。たしかに、と思う。

しかし、自然に囲まれて暮らしたいという僕の希望とは真逆の選択だから、たとえ安全であってもそんな場所を買うことは決してない。要は、自分が夢見る暮らしを実現するためにどこまでのリスクを受け入れ、どこから先は受け入れられないと判断するのか、だ。

長くなったが、起こりうる災害についてしっかり考えた上で、最後に僕らが出した決断は、「リスクを承知で買う」ということだった。「500年から数千年に一度の災害」を恐れて、残りのたった2~30年の人生を好きでもないコンクリートで固められた土地で暮らすのはなんだか違う気がする。ただし、リスクをひとたび受け入れたら、しっかりと対策を練る。そして、先生が言った「きっと大雨が降るたびに避難勧告や指示が発令されて、避難しなければならなくなるでしょう」ということばを決して忘れずに、つねに危機意識を高めておかなければいけないと思う。

つづく

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