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僕が安住の地を手にするまで [8] 家を建てられないかもしれない大問題

今回購入予定の土地は、地目は「宅地」になっているものの、過去50年間人が住んでおらず、以前あった建物もなくなっている。そのため、家を建てるにはまず土地の開発許可を得なくてはならない。そこで許可申請のため、いくつもの図面や登記簿謄本など、必要な書類を揃えて市役所に提出しようとしたところ、なんと購入予定地は山形県によって土砂災害警戒区域に指定されていることが判明した

想定される危険度に応じてイエローゾーンとレッドゾーンと色分けされているのだが、通常の土砂災害警戒区域がイエローゾーン。さらに危険度の高いところはレッドゾーンとして土砂災害特別警戒区域に指定されている。申請する区画がこのレッドゾーンにかかっていると、そもそも土地の開発許可が下りない。窓口担当者によると、購入予定地は、その全体がイエローゾーンに入っているだけでなく、一部がレッドゾーンにかかっている可能性があるという。土地の開発許可が下りなければ、家を建てられなくなるので、そもそも土地そのものを買う意味がなくなる。

さらに敷地の南の縁はかなり急傾斜な法地になっていて、明らかに3メートル以上ある。市役所の担当者によれば、土砂災害特別警戒区域だけでなく、がけ条例についても考慮しなくてはならないという。

さて、がけ条例とは:

山形県建築基準条例の一部を改正する条例
(がけに近接する建築物)
第4条の2 建築物が高さ2メートルを超えるがけ(地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地をいう。以下同じ。)に近接する場合は、がけの上にある建築物にあってはがけの下端から、がけの下にある建築物にあってはがけの上端から当該建築物との間に、そのがけの高さの2倍以上の水平距離を保たなければならない。

というもの。

ヤバい!間取りとかで悩んでる場合じゃない!

【これからの災害

確かに目の前に山があり、その斜面は結構急である。近頃は全国的に、ゲリラ豪雨と呼ばれる、局所的で突発的なため予測が不可能な大雨に見舞われることが多い。こうした大雨が一気に地盤をゆるくして突発的な土砂災害につながることも増えてきている。妻が防災に関連する仕事をしていることもあって、昨今の気候変動やそれにともなう災害の質や頻度の変化について、河川地形学や気象学の先生方にお話を伺う機会がある。あるとき気象学の先生がおっしゃっていたのは、最近の天気はわからない、予測が難しくなってきた、ということ。

たとえば、これまで北海道に大きな台風が来るなんて誰も思っていなかった。しかし、2016年8月末の台風10号では、大雨で川が増水し、50近い橋が橋梁流失や洗掘によって被害を受けた。大雨は西日本でも多くの被害をもたらしており、2018年6月末の台風7号と梅雨前線の影響による集中豪雨が記憶に新しい。こんな中で新しく土地を購入すること自体が馬鹿げているように思えるほどだ。

そもそも日本の国土の7割は人が住むには適していない。山地や森林、湖沼などが多く、国民の8割が標高0~100mの海沿いの開けた土地や、山に囲まれた盆地に暮らしている。山形市はまさに後者の代表だ。しかも怖いのは大雨だけではない。蔵王山は活火山だ。うちの大学の理学部の伴先生によれば、蔵王山は約7万年前に山体崩壊を起こしている。その規模は半端なくて、崩壊部分が須川沿いに流れて白鷹山の東麓まで達したとか(『活火山:蔵王さんの成り立ちと見どころ』)。蔵王が動き出したら山形全滅じゃないか...。

いってみれば、どこに住んだとしても、リスクが0なわけではない。結局のところ、山のなかに住みたいという気持ちと、災害が怖いという気持ちを天秤にかけるしかないのだろう。後者が勝つなら、コンクリートで固められた町中に暮らすしかないのだ。それでも大雨による床上浸水の危険がないわけじゃない。これまでの気象学データだけでは予測できないことが起こり始めているのなら、過去の蓄積をもとに未来を憂うことにどれだけ意味があるのだろうかとも思う。これは考えても考えても答えの出ない問題で、考えたまま土地購入をし、考えたまま暮らし続けることになるのではないか。

ていうか、買えるのか?この土地…。

【土地購入のための対策

さて、市役所でもらった土砂災害警戒区域の地図を手持ちの地図と重ねてみる。しかし両者に共通する位置情報がなく、レッドゾーンの線がどこになるのかがぜんぜんわからない。さっそく、高木さんに相談。すると即座に「おそらく分筆登記という手続きを踏めば大丈夫でしょう」と、心強いお言葉。分筆登記とは、登記簿上で単一の土地を複数に分割して登記し直すことだそう(ちなみに土地は一筆、二筆と数えるんだとか。知らないことだらけだ)。

とはいえ、分筆登記によってレッドゾーンにかかっている部分を切り捨てたとしても、土地の分割後に家を建てられるだけの面積が残らなければ、結局は土地を買う意味はなくなる。そこで、高木さんの紹介で測量屋さんに入ってもらい、レッドゾーンの境界線をハッキリさせてもらうことになった。

また、これと合わせて二つのことをお願いした。ひとつは、がけ条例によって建築が許されない範囲を明らかにするために、がけ地形を測量してもらうこと。開発許可の申請に、がけの断面図などを含む現況図が必要なためだ。もうひとつは、登記簿上の敷地境界線に杭を打ってもらうこと。どこまでが敷地なのかをはっきりさせたい。登記簿によれば、ぜんぶで186坪あるらしい。東西の端に竹やぶがあるせいだと思うのだけれど、どう見てもそんなに大きく見えないのだ。

兎にも角にも、まずは測量の結果待ちだ。これが出るまでは安心できない。

つづく

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