スポーツクライミング・オリンピック選手選考のCAS提訴問題を考える 後編

スポーツクライミング・オリンピック選手選考のCAS提訴問題を考える 後編をお届けします。
ちなみに、前編の見出しは以下でした。

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まず、選手選考規定の発表や前編をリリースした11/16以降のニュースを時系列によりご紹介します。

・2018年10月  IFSCの選手選考規定公表 ( IOCの承認)
・2019年5月   JMSCA 基準を公表 (IFSC規定に準拠)
・2019年8月   八王子大会
・2019年10月  IFSC規定 旧解釈から新解釈に突然変更 一方的通告
・2019年11/1   JMSCA CASに仲裁の申し立て IFSCを相手取り
・2019年11/4   IFSC Confirmed Qualified Athletes発表
・2019年11/28    IFSC   解釈変更を認める「外部からのアドバイスに従わざるを得なかった」
・2019年11/28-12/1 トゥールーズ大会
・2019年12/9 IFSC Confirmed Qualified Athletes発表

IFSCは なぜ「従わざるを得なかった」のか


上記で注目すべき点を3つ述べておきたいと思います。最も注目すべきは選手選考規定の解釈を旧解釈から新解釈に変更したことをIFSCが認めたことです。このことは旧解釈はJMSCAの身勝手な解釈や誤訳というネットの指摘が間違いということを示しています。

次は、外部から「旧解釈→新解釈」というアドバイスがIFSCに対して行われ、これにIFSCが「従わざるを得なかった」としている点です。クライミング 競技における以下のIFSCの立場を考えるとこれは驚きの事態です。

「1.1 国際スポーツクライミング連盟(IFSC)は,国際クライミング競技のあらゆる面を担当する国際的 連盟組織であり,国際クライミング競技に関するすべてのことがらに対する,最終権限を有する.」


ここで、各団体と選手の力関係を確認しておきましょう。

IOC> IFSC > JMSCA > 選手 

以上から、可能性としては、以下の3つがありそうです。

1. 日本以外の国が旧解釈への異議をIFSCに申し立てた。理由が論理的で拒否できずIFSCは従わざるを得なかった。

2. 日本以外の国による旧解釈への異議をIFSCは拒否した。これを受けて、その国はIOCに直訴した。IOCがIFSCに旧解釈を新解釈に変更するように迫った。で、従わざるを得なかった。

3. IOCが独自にIFSCに介入してきた。で、従わざるを得なかった。

もっと早くアドバイスできたのでは?  八王子大会の前にすべき


最後に注目すべきは、なぜ2019年10月になってこの問題が表面化したか、です。

IFSCの選手選考規定の公表は2018年10月です。重大な問題があるのなら、もっと早く問題を指摘しても良かったのではないでしょうか? というか、少なくとも予選開始前、つまり、八王子大会前にアドバイスして変更すべきでした。そうすれば今日の混乱は回避できました。この理由は、現時点では不明としか言えません。

しかし、ひとつの可能性として、旧解釈が難解な点を指摘したいと思います。

つまり、八王子大会終了までは他国もIOCも問題点に気づいていなかった。八王子大会前後になって、やっと規定が旧解釈で運用されていることを知り、大騒ぎになった。これが理由ではないか、という推測です。実際、トゥールーズ大会の後の暫定リスト発表は12/9と迅速でしたが、八王子大会の後の暫定リスト発表は11/4でした。発表までに2ヶ月以上を要しています。この間に、複数の団体の間で、旧解釈を巡って、すったもんだがあったのではないでしょうか?

もしそうなら、今年の8月頃までは、IFSCの選手選考規定の解釈を正確に理解していたのは、規定を策定したIFSCと何度も問い合わせたJMSCAだけというとになります。

旧解釈の問題点とは? 


大騒ぎになった旧解釈の問題点とは、いったいぜんたい、何なのでしょう?  IFSCが、10月になって、ちゃぶ台返ししなけれはならないほどの大問題とは?

本誌の考えはこうです。旧解釈の核心部、 つまり、予選で選手が獲得した出場枠をコンファームしても出場は確定しない。JMSCAは出場枠を最終選考会まで確保しておける(理論上は男女各々5枠、つまり、男子5人女子5人まで確保可能)というところが問題となった、と。

どうしてそう考えたのかを以下で解説してみましょう。

予選で獲得できる出場枠は男女各々18枠(20-開催国枠1-第三者委員会枠1)です。そうすると、旧解釈によって予選を実施すると、強い国が枠をたくさん獲得してしまい弱い国はなかなか枠を取れないという現象が発生する可能性があります。

実際、日本は八王子大会で男子2枠女子2枠をゲットしました。旧解釈をトゥールーズ大会にも適用すると、ここでも男子2枠女子2枠をゲットです。アジア大会でも男子1枠女子1枠をゲットする可能性もあるでしょう。

そうなると、予選で獲得できる36の出場枠のうち10枠(八王子大会4、トゥールーズ大会4、アジア大会2)を日本が確保してしまうことになります。

もちろんこの10枠を使って日本から男子5人女子5人がオリンピック出場とはなりません。なぜならオリンピック出場には1国男子2人女子2人というルールがあるからです(開催国枠は別で男子3人女子3人という考えもありますが)。

八王子大会の結果を受け、既に野口選手と楢崎智亜選手の東京2020への出場が内定していますから、現時点で使えるのはあと2枠(男子1枠女子枠)だけです。

で、日本側の予定はこの2枠を最終選考会で決定しようというわけです。そうすると、最終選考会が終われば、最終選考会1位以外の日本選手の枠はもう使用できません。余ります。余ったこれらの枠はどうなるでしょうか? これらの枠は他国の選手に再配分されます。

解釈が曖昧なら起草者に不利に解釈 コントラ・プロフェレンテムの原則


「だったら、いいじゃないか。最終的には枠はもらえるんだからさ」こういう方がいそうです。

しかし、他国の選手は異議を唱えるでしょう。例えば以下です。

1. 日本の最終選考会まで待たされるのは困る。各予選ごとで決定してほしい。

2. たしかに私が枠を取る可能性は低い。しかし、予選に出られればチャンスは0じゃない。しかし、日本選手が枠を獲得するためにフランス大会にで出るせいで予選からはじきだされてしまう。予選の定員は20。私のランクは22位だ。もし日本選手がフランス大会に出なければ、ギリギリ出場できる。日本はちょっとやりすぎじゃないか?

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