どんな手段を使ってもあとにはひけなかった
続・クライミング文献ノート 第1回
『岩と雪』137号掲載の「小川山「ナイル」事件の顛末」について
クライミング専門誌『Rock & Snow』の78号から85号で2年間で計8回。「クライミング文献ノート 温故知新」を掲載させていただきました。具体的には以下です。
第1回「岩を傷つけずに登ったことがうれしい」桑田英次著「屏風岩の一登路に就いて」(『山岳』第26年3号)
第2回「靴を脱げ、そして洗足(はだし)で登れ」藤木九三著「近代登山と道義観」(『雪・岩・アルプス』、梓書房)
第3回「石工細工が許される場合もありえよう」水野祥太郎著『岩登り術 改訂版』
第4回「一生をかけても、この事件をウヤムヤにはできない」石岡繁雄著「ナイロンザイル切断事件の真相」(『岩と雪』創刊号)
第5回「君は君のやり方でやれ、オレはオレのやり方でやる。」ニコラス・オコネル著『ビヨンド・リスク』(山と溪谷社)
第6回「ルートはいわば芸術作品であり、初登者の創造物である」ロイヤル・ロビンス著新島義昭訳『Basic Rock craft』、ロイヤル・ロビンス著『ロイヤル・ロビンスのクリーン・クライミング入門』
第7回「ほら、できるわよ、男子たち」リン・ヒル著『クライミング・フリー』
第8回「エイドからのフリー、それがフリークライミング」『岩と雪』20号など
この続きを、本誌note版で掲載してゆこうと思います。
「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」 (ヴァイツゼッカー, 1985)という言葉をかみしめ、 故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知るという感じで、クライミングコミュニティの先輩方の言動を、可能な限り遡って、取り上げてゆく予定です。
よろしくお願い申し上げます。
宗宮誠祐(本誌編集長)
開拓にあたりボッシュ(ドリル)でホールドを作った。
第1回は、『岩と雪』137号掲載の「小川山「ナイル」事件の顛末」を紹介し、開拓時のチッピングについての当時のフリークライマーの議論をご紹介します。
なお、この問題はもっぱら登攀倫理問題(違法性のある場合は別)ですけれど、既成課題を改変したり破壊した場合は法律問題にもなり得ることは指摘しておきたいと思います。
1989年秋、『岩と雪』136号のクロニクルに「ナイル(5.12)」の初登報告が掲載されました。これだけなら普通です。しかし、読み進むとこう書いてありました。
「開拓にあたりボッシュでホールドを作った。――自分の自身の心を切り刻む思いで胸が痛む行為ではあるが、絶望的な壁にラインを見いだす手段として許容される場合があるのではないだろうか。」
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