見出し画像

植田和男新日銀総裁の著書『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』読んでみた

サプライズで日銀総裁になった植田和男氏。

投資クラスタから「誰?」という声が多数出ていました。
出ている情報も少ないのですが、
大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』という著書を2017年に出していたので、
そこから金融に対してどのような考え方を持っているのかを探ってみます。

前書き


「私は1998年から2005年まで日本銀行政策委員会審議委員として、
日本経済がデフレに突入する中での金融政策運営を経験しました。
その後、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用委員会委員長や日本制作投資銀行の社外取締役などを務めて、資金運用や銀行経営の実務に触れました」

「デフレに突入する中での金融政策運営を経験」この辺に原風景・ルーツがありそうですね。

「金融に関する学問的な知見は実務において大変役に立ちます。
しかし、既存の学問だけで実務的な課題すべてに立ち向かうことはできません。
金融に関する経済学で解明できていないことも多くあります。
例えば、マネーを増やせばインフレになるとほとんどの教科書に書いてありますが、現実はなかなかその通りになっていません」

視野が広そうですね。

「1つ老婆心ながらの注意です。
金融に関する学問はお金儲けのための道具ではありません。
むしろ、人々がお金儲けに一生懸命努力すると、株価や為替レート、
そして経済全体がどう動くかを知るための学問です」



いい人そうな感じでもあります。

第1部金融入門から、第3部金融論応用まで218ページ、
なかなかのボリュームがあるのですが、
日銀政策に関係ありそうなところだけピックアップしていきます。

第1部 金融入門1章 現在財同士の交換と貨幣5項「長期停滞論」


「グラフは、ここ20年くらいの米国債金利(10年物)から消費者物価指数の上昇率(インフレ率)を引いた実質金利を示しています。
上下動を伴いつつも長期的に低下してきて、最近ではほぼゼロ近辺にあることがわかります。
技術革新の種が枯渇し、投資の生産性や利潤率が低下しているのかもしれません。
この見方は長期停滞論と名付けられています」

「リーマンショック移行の金融危機の傷跡がまだ残っているのかもしれません。
あそこで損をした人たちがまだお金を使う気になれないということかもしれませんし、その頃から採用されている強力な金融緩和政策が低金利の主因かもしれません」


低金利を憂い気味、アベノミクスに疑問を持ちぎみにも思えます。

第3部 金融論応用13章 金融政策1項「中央銀行の目標」


「高率のインフレーションが進行すると、人々は貨幣を保有しようとしなくなります。
すると、貨幣を仲介にしようとした交換はうまくいかず、経済全体の効率が落ちます。
物価の不安定さがもたらす別の悪影響も無視できません。
住宅を買う人は、長期の借金をします。
3%の固定金利で20年の借金をしたとしましょう。
この人は、自分の給与が年4%ずつくらい上がると予想し、返済が十分可能だと計算していました。
しかし、その後経済がデフレになり、給与もほとんど上がらなくなれば、
借金の返済は滞ってしまう可能性が高まります。
逆に、高率のインフレになればどうでしょう。
給与は6%も7%も上がって返済は容易になります。
しかし、お金を貸してくれた銀行にとっては実質金利がゼロかマイナスになり、仮に預金の金利が急上昇していれば、困った事態になります。
つまり、予想外のデフレ・インフレは資産の貸し借りの障害となるので、
インフレ率は安定していることが望ましいのです。
昨今、多くの国における金融政策の最大の目標は、貨幣価値を安定的に保つこと、より具体的には低率のインフレ率で安定させることと定められています」


リフレ派?

第3部 金融論応用13章 金融政策5項「インフレコントロールの歴史」

「中央銀行がインフレ率の低位安定化を最大の目標として行動するようになったのは、そう古いことではありません。
いい例が米国です。
米国では60年代半ばから社会保障の充実、ベトナム戦争などの出費がかさみ
上昇基調にあったインフレ率をFEDが十分抑えなかったため、1970年代終わりにかけて10%を超える深刻なインフレに悩まされました」
「その後任命されたボルガー議長の下で、強力な金融引締めが発動されてインフレ率は急低下し、80年代後半以降もインフレ抑制に重点を置いた金融政策運営の結果、インフレ率は低位で安定を続けています。
発展途上国では、財政政策との絡みが1980年代から90年代にかけてより深刻となり、一部の国では100%を超えるようなハイパーインフレが発生しました。
しかし、その後は先進国に倣ってインフレ抑制に重点を置いた制作運営がなされるようになり、インフレ率は現在のところ落ち着いています。
以上のことからわかるように、最近の金融政策の歴史はインフレーションを抑え込むことに重点がありました。
デフレを食い止めるという経験はほとんどしてこなかったのです」


第3部 金融論応用14章 非伝統的政策1項「デフレの出現」


「1990年代後半以降の日本で、予期せぬ出来事が起こりました。
インフレ率がマイナス(デフレ)になってしまったのです」
「デフレは悪いことでしょうか。
インフレと異なって、貨幣価値が下落して金融の根幹を揺るがすということはありません。
ただし、インフレ率が不確定で貯蓄や投資の意思決定をかく乱するという問題はあります。
加えて、デフレがどんどん進むと債務者は苦しい立場に追い込まれ、
彼らが支出を抑えることでさらにデフレが加速(デフレ・スパイラル)する恐れもあります」
「最近のようなマイルドなデフレの大きな問題は、中央銀行の金融緩和余地が狭まることです。
自然利子率が1%でインフレ率が2%なら、名目金利は長期的に3%です。
そこから出発して3%分、金利を引き下げる余地があります。
しかし、インフレ率が0%なら、名目金利が1%で、金利引下げ余地はきわめて限定的です」
「物価安定とは本来は0%のインフレ率でしょうが、以上のような理由もあって多くの中央銀行は2%程度のインフレ率を目標としています」

第3部 金融論応用14章 非伝統的政策2項「ゼロ金利の壁とマイナス金利」


「欧州の中央銀行や日本銀行もここ数年マイナス金利(中央銀行預け金の金利をマイナスにする政策)をしました。
しかし、その結果はあまり芳しいものではありませんでした。
その根本的な理由は現金の金利がゼロであることです」


インフレもデフレもよくないという視点で、
ただどちらかというとインフレよりはデフレのほうがましという風にも
文章から感じられました。

第3部 金融論応用14章 非伝統的政策3項「時間軸政策(フォワード・ガイダンス)」


「(バブル崩壊に対応して短期金利はほとんどゼロにまで引き下げられ低下の余地はなくなった)
そこで短期金利引下げ以外の手段での経済刺激が試みられたわけです。
これを総称して非伝統的金融緩和政策といいます」

第3部 金融論応用14章 非伝統的政策3項「時間軸政策(フォワード・ガイダンス)」


「なかなか効かない量的緩和策
金利があまり下げられないならマネーの量を拡大してはどうかというのが量的緩和政策です」
「中央銀行という大きな主体が長期国債をどんどん買えば、長期金利は下がります。
結果として、ベースマネーも増えます。
これが日銀も含めて多くの中央銀行が採用した長期国債の大量購入策です。
その目的は、長期金利を下げることでした」
「このほか、その国それぞれの事情に応じて
社債、株式、REIT、コマーシャルペーパー、資産担保証券などが、
中央銀行によって購入されました」
「異例の資産購入を行い、購入した資産価格を上げ(金利を下げ)、
総需要刺激を狙う量的緩和政策をQE2と呼ぶことがあります。
QE2というのは、その前にQE1があったからです。
ちなみに日本では、長期金利がほぼゼロになるまで長期国債購入を続けましたが、インフレ率は目標(2%)に届いてません」


2017年に発売された本ですが、
アベノミクスに批判的な向きが見られますね。
植田氏ってわけじゃないですが、
「目標に届かない」ってことを批判する人腹立ちますよね。
民主党やマスコミは目標を立てることすらできなかったわけなので。
会社でも目標作って線路作ってわかりやすくしてあげたら、
わかりやすくなったのをいいことになんでできないんだとか言ってくる奴腹立ちますよね。
何もない荒野にKPI作ってやったんだろという。

第3部 金融論応用 19章 日本の金融 4項「達成に時間がかかっているインフレ目標」


「日銀は様々な手段を講じてインフレ率を目標の2%に引き上げようとしています。
これまでの日銀の政策がまったく効果をもたらさなかったわけではありません。
2012年から2015年にかけては強い金融緩和が大幅な円安をもたらしましたし、全般的な低金利の下で一部の不動産投資は活発です。
しかし、インフレ率は目に見えて上がってません」
「ただ、期待インフレ率が未来永劫に動かないわけでもないでしょう。
一段の失業率の低下があれば、そろそろインフレ率が上昇を始めるようにも見え、今後の動きが注目されます」


2017年の本。
散々あれこれやっても上がらなかったインフレ率が、
コロナ禍とウクライナ戦争の二重の奥傾斜で一発でクリアされてむしろ
インフレが問題になってしまうの、事実は小説より奇なりですよね。

第3部 金融論応用 19章 日本の金融 5項「インフレ率上昇で表面化する財政の維持可能性懸念」


「近い将来、インフレ率が2%に到達すると、財政当局にとっては悩ましい事態になるリスクがあります。
それは現在財政を助ける方向に働いている様々な日銀の緩和策が終焉を迎えるからです。
2017年前半現在、発行された国債の4割程度を日銀が保有しています。
この分に政府は利払いをしますが、それは日銀の政府への納付金という形で戻ってきます。
つまり、利払いはしていないに等しいわけです。
また、日銀の国債買いオペが国債金利を低水準に押し下げ、市場に存在する国債の利払い費も抑えられています。
しかし、インフレ率が2%に達すれば、日銀は国債買いオペをやめるか大幅に減額をせざるを得ません。
金利は大幅に上がるでしょう」
「また、日銀は金融引締めを開始するために、保有国債を市場で売却するかもしれません。
すると、実質的に消えていた国債が再出現して利払いを開始せねばなりません」
「インフレになると、財政再建を先送りすることはできなくなるのです」

今までは第三者的に日銀に指摘していましたが、
今後はもろに当事者になるのでがんばってほしいですね。
財政再建…増税はやめてほしいものです。

大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?