見出し画像

課題②

 川瀬巴水の作品には、静寂が棲んでいる。昨今、作品の展示方法について考え、よく頭を悩ませているのだが、川瀬巴水の作品こそ「美術館に飾るのが相応しい作品」と言えるかと私は思う。何故なら、絵に音がないから。静かな場所で、彼の目により切り取られ、彼の手により彫られた日本の風景を堪能したい。作品によっては、野外、カフェなどの日常生活にて触れられる場所、いろんな展示場所があり、それによって様々な見え方がある、それが作品の表情を変える一因でもあろう。彼の画面こそ静かで音がないように感じるが、どうせなら静かな場所でより音を排除したいと思うのは私だけだろうか。
 前置きはさておき、川瀬巴水という版画家、彼は新版画という最後の浮世絵とも言われる手法を確立したうちの一人の作家でもあることは有名だ。新版画とは、渡辺庄三郎が提唱した新しい手法だ。浮世絵の手法を用いて、より芸術性を強く意識した「新しい」というよりは、「進化」「再利用」などが言葉の意味としては近い気もするが。版元・渡辺は元より浮世絵商の仕事もされており、それで得た利益を新版画に全部つぎ込んでいたらしい。新しい時代を作ろうという強い信念がうかがえる。
 川瀬巴水の作品が多くの人間を魅了する一つの理由は色彩だろう。かくいう私もその一人である。主に風景を題材とし制作している私にとって、彼の作品に参考になる部分があると思う。美しいグラデーション、明暗、静かな色…。ブルーがなんとも美しい。これはほとんどの作品に言えることだ。敢えて挙げるとするならば、「荒川の月(赤羽):東京二十景」(「作品名:シリーズ」)「大森海岸:東京二十景」「駿河興津町:東海道風景選集」私はブルーが好きだが、上手く使えない。彼の作品から得られるパレットはある。朝焼けのピンクも好きだ。例えれば「大根河岸の朝:東京二十景」、夕暮れの「東海道嶌田:東海道風景選集」、雲のピンクには夏が表現されている「浜名湖:東海道風景選集」挙げればキリがない。彼の洗練された色は、私が持っていない部分であると思う。この作品たちから学ぶことは多いはずだ。それに、新版画の特徴である「ザラ摺」など、かつての浮世絵では悪い摺りとされていたものをも取り入れ、表現として確立されている部分も良い。例えば型染めにも所謂「失敗」ともなり得るものがあり、「糊割れ」「滲み」である。しかし、上手く使えば失敗ではなく表現に使えると思っている。かつての卒業制作で糊が割れてしまったが。逆にそれがおもしろい画面を作ってくれた。滲みも糊割れをも、私の武器にしたい。新版画の版元たちは、それをむしろ強みにしたというのがかっこいい。
 私が彼の作品に惹かれるのは、上記に挙げた色、静けさ、新時代の創造者としての新しいことへの挑戦はもちろんのこと、旅行が好きだという部分もあると思う。彼は旅をし絵を描いた。それを版に起こした。旅先で見る普段とは違った風景、また、似たような街、そこにしかない美しさを求めて移動する。旅はいいものだ、彼の作品にもそう描いてるのだ。それに、実際にその地に赴くということの大切さを最近改めて体感したので、それを精力的に、妥協せず行なっていた彼の創作姿勢は尊敬する。作品からも学ぶことがたくさんあると言ったが、一番はその制作に対しての姿勢を手本にしたいとも強く思う。


参考文献:川瀬巴水ー旅と郷愁の風景(ステップ・イースト発行 2023年)



荒川の月(赤羽):東京二十景


大森海岸:東京二十景
駿河興津町:東海道風景選集
大根河岸の朝:東京二十景
東海道嶌田:東海道風景選集


浜名湖:東海道風景選集


川瀬巴水は、展覧会などにて、目で本物を見ることをお勧めします。バレンの摺り後、インキの美しさをより感じられます。


※これは大学に提出する課題のシリーズです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?