報道の自由が72位は、メディアは本当に不自由なんだろうか

【報道の自由「極めて確保」 菅氏、ランキング下落に反論】
 「表現、報道、編集、そうした自由は極めて確保されている」。菅義偉官房長官は21日の記者会見で、国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)による2016年の「報道の自由度ランキング」で、日本の順位が前年より11下がって72位だったことへの受け止めを問われ、こう語った。菅氏は「我が国は放送法で編集の自由が保たれている。憲法においても表現の自由が保障されている」と主張。14年末に特定秘密保護法が施行されて1年以上が経つなか、「報道が萎縮するような実態は全く生じていないのではないか。政府としては、引き続きこの法律の適正な運用を果たしていきたい」と述べた。国境なき記者団は、特定秘密法の施行により「多くのメディアが自主規制し、独立性を欠いている」と指摘。「とりわけ(安倍晋三)首相に対して」自主規制が働いているとの見解を示している。(4月22日、朝日新聞

「報道の自由が59位」は、2年前だった。そこからさらにランクを下げた形になり、これからも下落を続けるのかもしれない。与党が政権に就き、いわば、権威主義化を進めているとも言える政権党なのだから当然の結果とも言えるが、このまま安倍政権が続けば、モンゴルなどと同等の80番台くらいを目指せるのかもしれない。とは言え、日本の「報道の自由度」の低さは、やや特殊だと思う。これを不自由とも言い切れない難しさが、私にはある。

 日本では、「記者クラブ」が政府から特権を付与されたメディアの入り口で、ここに出入りするメディアは、自主的に政府の情報統制に協力していると言える。その結果、日本政府や自民党は、特別な法律や影で圧力を加えることもなく、メディアは自主的に公権力側に都合の良い情報で統制されてしまう構図になっている。「国境なき記者団」の主張と、政府の主張に大きな隔たりがあるのは、これが原因だと思う。権威主義体制下にある諸外国では逆に、公権力がメディアに直接圧力を掛けて報道と拘束する傾向になるのだろう。

 つまり、日本では形式上、「報道の自由」は担保されてはいるものの、政府から付与された特権のために寡占状態にある。メディア側の保身上、この特権を管理する政府に不利な情報は出さない。「自由は担保されている」という菅官房長官の発言の裏には、「メディア側が勝手に自主規制しているだけで、俺っちは何もしてない」という含みがある。また、メディアはメディアで「俺っちは、自由に情報を取捨選択してやっている」ということだろう。

 で、気になるのは、NGO側の認識不足として、日本の報道の問題の起因は、秘密保護法や安倍政権にあると考えている点ではないだろうか。秘密保護法の影響がないとは言い切れないが、これは、菅・野田政権下で準備されたものでもあった(鳩山政権時の報道の自由度、11位)。民主党政権は、メディアからの攻撃にさらされ続けたとは思うが、これは民主党政権が、記者クラブ(政府から情報提供の独占的便宜)の既得権益に手を付けようとしたからだった。(再販制:独占禁止法の例外、クロスオーナーシップ:印刷媒体と電波媒体の寡占、電波許可制:政府による放送統制、軽減税率:免税特権など)当時の民主党のやろうとしていたことは、民主化に向けて良かった。あくまでも、当時はだが。。

 メディアが寡占状態になるほど、公権力との癒着が進むのは仕方がなく、政府にとって不利な報道は控える方向になる。

 例えば、大手メディアがオリンピックのスポンサーとなれば、反オリンピックや諸々の不正に関して、殆ど報道されなくなる。これは、メディアが寡占状態にあり、スポンサーになり得る資本力と権力が背景にあり、結果的に公権力と一体化する。これが、秘密保護法や安倍政権の問題ではないことは明らかだ。このような状態が永年に渡って許されてきたのは、日本社会でのメディアの在り方を問うてこなかったことに起因していると思う。

 歴史的にみると、戦争中に報道統制を強化するために、政府がメディアの統合を図ったことは言うまでもないが、これを無反省に戦後に引き継いでしまったのはある。

 つまり、日本のメディア界自体が権威主義体制に極めて親和的で、権威主義体制が確立すれば、自ら進んで一体化するインセンティブが働いてしまうということだろう。安倍政権に問題がないとも思わないが、これを替えたところで「首のすげ替え」にしかならない。本来の報道の自由性を確保するのなら、この構造を解体して大手メディアが有する諸特権を返上し、廃した上で、寡占状態にある新聞社や放送局を解体して編成し直すことではないだろうか。


The media in Japan Speak no evil」英・Economist紙の安倍政権の報道規制批判記事より


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