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初めて曲/動画を作る人のための「音量」入門

本記事ではわかりやすさを優先して、厳密な正確さを一旦無視する表現が出てきます。


本記事の狙い

本記事は、初めて音楽や動画を作った人が極端に音量を小さくしたり大きくしたりしたせいで視聴者やリスナーに心地よくない体験をさせてしまうことを防ぐのが目的です。

音量には2種類ある

我々がスマホやタブレット、PC等で音を再生する時、2種類の音量に触れています。それは以下の2つです。

  • スピーカーやイヤフォンから実際に出ている音の大きさ

  • 再生している音楽、動画のデータ自体が持っている音の大きさ

前者はユーザーがボタン、バー等で任意に操作することが出来るためほとんどの方はこれを音量だと捉えていると思います。

後者はそのデータを作った人間が音量を決めるため、基本的にユーザーは変更することが出来ません。なので、おそらく後者については意識する機会が少ないはずです。

一方で、音楽や動画を作る人間が口にする音量、音圧、ラウドネスと言った単語は後者であることが大半です。

本記事では、初めて自分で音楽や動画を作るようになった人が、この「データが持っている音量」の存在を意識し正しく把握出来るようになることをゴールとします。

毎回データ上の音量と書くのは長ったらしいので、ここから先音量と書いた時はデータが持っている音量のことを指すものとします。

昨今では仮に作り手が極端に音量の大きなデータを作ったとしてもユーザーの手元では同じ音量になるように調整して再生してくれる機能も普及したため、より一層ユーザーは音量を意識する必要がなくなりました。

(まとめ)
・オーディオや動画データ自体も音量を持っている
・データの音量はデータを作る人間が決める

音量の測り方

さて、それではいざ自分が動画や音楽を作るとなった場合音量はどう扱えばよいでしょうか。スピーカーやイヤホンから出ている音の大きさは耳で感じ取ることが出来ますが、データの中の音量はメーターというツールを使わなければ知ることが出来ません。

でも安心して下さい。どんなDAWでも動画編集ソフトでも何かしらメーターはついているはずです。メーターを見ることが習慣づいていない人が音楽や動画を書き出すと極端に音が小さかったり、逆に音がバリバリに割れた聞き苦しいデータが出力されがちです。

(まとめ)
データの音量を知るためにはメーターというツールを使う

音量の単位を知る

不動産には平米や坪、消費電力にはワット、時間には分や秒といった単位があるように、音量にもdB(デシベル)という単位があります。dBの数値が大きくなればなるほど大きな音になります。

このdBについておそらく直感と反するのが0が最大で-∞が最小であるという点です。0と言われると小さく感じてしまうかもしれませんが、実際には最も大きい、絶対に超えることの出来ない音量の上限が0dBです。

「作業してるとメーターが0dBを超える表示になることがあるんだが?」と思った人は正しいです。作業しているツールの中では0dBを超えることが許されるからです。しかし、いざオーディオや動画データとして書き出す際に0dBを超える部分のデータは全て破棄され、その結果バリバリという音割れになります。

「浮動小数点のデータで書き出せば正の値もデータに残せるが?」と思った人は正しいのですが、そういった方はすでにこの記事を読む必要が無い方だと思います。

(まとめ)
・音量の単位はdB(デシベル)
・0dBが一番大きくて-∞dBが一番小さい

データ上の音量と人間が感じる音量の違い

まず前提として、人間は同じ内容ならより大きな音で聴いた方が気持ち良いと感じます(限度はあります)。なので、自分が作るデータも音量を大きくしたいと考えるのは自然なことです。

「よっしゃ0dBになるべく近づけたら音が大きくなるんやな」と思った方は正解です。ただ、出来上がったオーディオ/動画の中で最も大きい部分が0dBぴったりになるように調整して他の人のデータと比べながら再生すると、自分のデータの方が音が小さいと感じるかもしれません。

これは人間がどんな音を大きいと感じるかという性質によるものです。人間の耳は、瞬間的に大きな音よりも平均的、持続的に大きな音の方が大きいと認識します。

というわけで平均音量で比べてみましょう。先程音量を知るためにはメーターを使うと書きましたが、メーターにも色々あるのです。

  • 瞬間的な音量を測れるもの (=ピークメーター)

  • 平均的な音量を測れるもの (=RMSメーター、VUメーター)

  • その他(後述します)

RMSメーター(VUメーター)を使って他の人のデータと自分のデータを平均音量で比べてみると、おそらく自分のデータの方が小さな数字を示すのではないかと思います。

(まとめ)
・人間は瞬間的な音量より平均的な音量を感じ取る
・メーターにも色々ある

禁断のツール「マキシマイザー」

では他の人のデータと同じ平均音量になるように音量を上げてみましょう。するどうなるかというと、瞬間的な音量が0dBを超えてしまいます。このままではオーディオを書き出すことが出来ません。

この問題を解決するのが禁断の破壊兵器「マキシマイザー」です。かっこいいですね。日本語訳すると「一番大きくするやつ」です。マキシマイザーは

  • 0dBを超える情報を0dB以下に抑えることが出来る

  • その時になるべく音色を変えない

というタスクに特化したツールです。夢のようなツールですね。これを使えば、平均的な音量(人間が感じる方)を上げつつ音割れも防ぐことが出来ます。

しかし、過ぎた力は破滅をもたらします。マキシマイザーを使えど、どこまででも平均音量を上げられるわけではありません。使い過ぎれば当然音がおかしくなってしまいます

ここで問題になったのが、瞬間的な音量にはデータの仕様上の制限(0dBを超えられない)があったことに対し平均音量にはなんの制限も無かったことです。人々はやがて自らが作り上げたオーディオをマキシマイザーによって破壊し、少しでも他の人のデータより大きな平均音量を叩き出したいという欲求に抗えなくなっていきます。これが音楽家の間で悪名高い音圧戦争です。

(まとめ)
・マキシマイザーを使えば瞬間的な音量を抑えて平均的な音量を上げられる
・結果、人間が「音量が大きい」と感じるデータが出来上がる
・それが音圧戦争の引き金となり、10年代中盤まで続いた

マキシマイザー殺し「ラウドネスノーマライズ」

しかしそんなマキシマイザーの天下は10数年で終わりを迎えることとなります。それは多くのリスナーが音楽を楽しむ環境がCDからYouTubeやApple Music等のストリーミングプラットフォーム(以下プラットフォームと呼びます)へと移り変わっていったこととリンクします。

CD(PCへの取り込みを含む)で音楽を聴いていた頃はデータの音量を作り手だけが握っていましたが、ストリーミングが主流になるとプラットフォームもこの音量を操作出来るようになりました。

これを活かし、ユーザーが再生する直前のところで全てのデータが同じ大きさで楽しめるように揃える処理が自動的に行われるようになりました。それがラウドネスノーマライゼーションと呼ばれる仕組みです。横文字だと身構えてしまいますが、雑に日本語訳すると「うるささを揃えること」です。

そしてここが重要なのですが、プラットフォーム側で合わせられる音量の基準値はかつて人々が音圧戦争の中でしのぎを削っていた頃の音量と比べて格段に小さい値に定められました。

どれだけマキシマイザーを使って平均音量を釣り上げたとしても、再生時にプラットフォームで「あ、うるさいんで下げときますね〜」と音量を下げられるわけです。となるとわざわざ音が汚くなってしまうリスクを負ってまでマキシマイザーを使う必要もありませんね。

(まとめ)
・ストリーミング再生の音量が強制的に揃えられるようになった
・これをラウドネスノーマライゼーションと呼ぶ
・直訳すると「うるささを揃えること」
・かなり小さな音量で揃えられるのでマキシマイザーの重要度が下がった

ラウドネス?

しれっとラウドネスという単語を連発してしまいましたが、これは平均音量の中でもより一層人間が耳で聴いた時の印象に近い数値を示してくれる音量の単位のようなものです。耳で聴いて同じくらいの大きさになるように揃えるために各種プラットフォームで採用されています。

ラウドネスについて興味のある方は下記の記事をご参照下さい。

まとめ

結局この記事で何が言いたかったかというと、音量と一口に言っても色々考えることがあるということです。まとめると

瞬間的な音量

  • 0dBを超えられない

  • 人間が耳で感じる音量とそれほどリンクしない

  • 「ピーク」と呼ぶ

平均的な音量

  • 制限は無い

  • 上げようとするとピークが先に0dBに到達する

  • 人間が耳で感じる音量と近い

  • 「RMS」と呼ぶ。日本語がいい場合は二乗平均平方根です。

ラウドネス

  • ストリーミングプラットフォームの音量制限に用いられる

  • かなり小さな値で制限されがち

  • 平均音量より更に人間が耳で感じる音量に近い

  • 単位はdBではないがdBと同じと思ってもさほど問題ない

となります。これらをリスナー、視聴者が把握しても得をすることは無いかもしれませんが、もし自分が作り手の立場になって何か楽曲を作ったり動画コンテンツを作ってYouTube等に投稿する時に適切な音量のデータを書き出す上で非常に重要な情報と言えます。

自分の作ったデータが大きすぎないか、小さすぎないかの絶対的な基準を得るために、各種ボリュームとそれを測るメーターのことを理解していきましょう。そして重要なのは、それらを理解した上で音の良いコンテンツに仕上げることです。

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