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部屋の音響調整、具体的に何をやってもらえるの?

この記事はスピーカーを新調したものの思ったほど音が上手く聞こえない、ミックスのクオリティに良い影響が出ない等の悩みを抱えている方向けの記事です。

うちのスタジオはワイヤリングからスピーカーのキャリブレーションまですべてONZUの井上さんに面倒を見て頂いているわけですが、時間を取って起こし頂くことでどんなことをやってもらえてどれくらい性能が向上するのかは意外とクローズドな情報だと思ったので僕のケースを書いてみようと思います。

記憶が曖昧な部分もあるので順不同だと思って下さい。


1: 目指すワークフローを伝える

一番重要な部分です。自分の制作環境がどうなっていて、何が問題でどう改善したいのかというコンサルティングを受けます。例えば僕の場合は

  • メインスピーカーはPMC 6(サブウーファーは通さない)

  • 作業音量は75dB SPLくらいを想定

  • サブにGENELEC 8320(サブウーファーを通す)

  • Sonarworks無しでなるべくフラットに音を聴きたい

  • 手元で同じ音量で切り替えたい

  • 配線は壁の中を通したい(穴あけは施工時に済ませてある)

みたいなことを伝えて、必要なケーブルの本数や接続の仕方を割り出してもらいました。配線については自分で考えられる部分は自分で考えてもいいと思います。ちなみに僕は自分用に作っていた下記の画像を見てもらったりしました。

赤で囲んだ不安ゾーンが重点的に相談したい箇所

2: ワイヤリングしてもらう

ケーブルは繋ぐ人によって接続後の見た目の綺麗さ、結線の把握のしやすさが全く違うので、うちではGENELECのSAMスピーカーの接続、設置をすべていい感じにやって頂きました。ギターのスピーカーケーブルを壁の中に這わせる作業もやって頂きました。穴の途中で詰まったら悲劇なので。

壁に固定したスピーカー周りもすっきり

3: 部屋の採寸

部屋の中心線がどこに来るのか、それに対してスピーカーを対称に配置するのかズラすのか、リスニングポイントをどこに取るのかなどを採寸して決めていきます。あまりキレイな整数比で部屋を分割する場所をリスニングポイントに設定すると定在波の影響が大きくなるので難しいところです。

4: スピーカーの設置

リスニングポイントでバランスよく聞こえるようにスピーカーを配置していきます。リスニングポイントに音が届くまでの時間差や音量差をシビアに測定しながら行います。うちの場合サラウンドもあるのでフロントとリアのスピーカーからの距離も厳密に揃えます。

スピーカーのメーカーによってリスナーがどこに座ることを想定しているかが違ったりしそうですが、その辺りも正しくケアして頂けます。

5: 部屋の特性の測定

スピーカーの設置位置が決まったら、それぞれのスピーカーの音がリスニングポイントでどのような特性で聞こえているかを測定します。

部屋の形状や壁の材質、使っているスピーカーによって周波数特性や過渡特性が悪くなったりするので、ここでそれらの問題を把握します。

左スピーカーのF特。低域に定在波と思しきディップが。
右スピーカーのF特。左よりも顕著なディップがあります。

幸いうちの場合PMC 6が優秀なのと部屋が元々吸音材である程度デッドになっていたので過渡特性は非常に優秀でした。ただ、特に右のスピーカーで定在波と思しき大きなディップが低域に見られたためこれを改善する必要があります。

部屋の吸音に問題がある場合も、どこで響いていてどこにどんなものを置くと効果が出るのか相談に乗っていただけると思います。

6: 補正EQの設定

PMC 6の場合内部にDSPのEQが入っているため、それを使ってフラットな特性に近づくように補正を行っていきます。耳で手探りで合わせるのではなく測定に基づいて数値を割り出すため、作業は非常にスムーズで正確です。

GENELECの場合もSAMのおかげで各スピーカーに機械的に補正EQをかけることが出来ますが、自分で測定、設定まで行うのは不安があったため全部やって頂きました。

スピーカー自体に補正する機能のあるものは最近増えたように思います。Neumannなど。他にもSonarworksやARCでソフトウェア的に補正するソリューションもありますが、最終的には自分が出音を信じられることが重要なので測定上正しいことを重視しすぎなくて良いと個人的には思います。

7: 最終的な部屋の性能の測定

すべての調整が終わったら再度周波数、位相、過渡特性の測定を行い、また実際にその環境で音を聴いてみることで、調整前よりも正確なモニタリングが出来るようになったこと、ワークフローが快適になったことを確認します。

左スピーカーの補正前後の比較(赤:before 緑:after)
右スピーカーの補正前後の比較(青:before 黄:after)

ここまで調整を終えた後に調整の前日にミックスした曲を確認すると、特に低域のバランスの悪さに愕然とするおそれがあるためご注意下さい。

まとめ

新しい機材、高価な機材を導入することも重要ですが、今持っている機材に最大限の仕事をさせるために専門化にセッティングを依頼することもまた同様に重要だということが、調整をお願いする度に身にしみて理解できるのでした。

みなさんも是非普段のワークフローや音に不満や不安がある場合や新しい環境に移行したり新しいスピーカーを購入した時は専門化の手を借りてみることをおすすめします。

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