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プレートの観測 《果てしない道のりと証言のまとめ》

**夏に **

 木陰に入ると小人が倒れていた。どうやら強い日差しに当てられたらしい。丁度凍らせたペットボトルを持っていたので、それを背に寝かせてやった。しばらくすると寝息を立て始めた。僕も疲れたので少し眠ることにしよう。緑に透ける太陽が眩しい。まぶたにかよう血液が高鳴っている。

**黒豆 **

 その小人は夕食の卓袱台の下に突然現れたのでした。台の脚に身を隠し、こちらをじっと見つめているのです。箸に挟んでいた黒豆を与えると、庭に飛び出していきました。拍子抜けしていると、それは私に向かい一礼し、姿を消しました。以来、黒豆を食べるとそのことをおもいだします。

**授業中 **

 授業中、消しゴムを落とした先に小人がいて。驚いて声を上げると先生に怒られちゃった。数分お説教され、授業再開。消しゴムを探そうと下をみた。けど、見つからなくって、座りなおした。そしたら机の上に消しゴムが転がってて、菫が添えてあった。不思議なこともあるもんだ。

**南から来た人 **

 ある日私は手のひら程の小人を踏み潰してしまったのです。謝る間もなく彼は進んでいってしまったため急いで呼び止めると「南に行かなくてはならない」と物凄い剣幕で言うのでした。ならばと私は彼を肩に乗せ南方へ歩きました。気付けば彼の姿はなく、以来会うことはありませんでした。

**野原にて **

 ある月の夜、野原を歩くと甲高い声が聞こえた。蟋蟀かしらと近寄ると小人がいた。腹を抱えてうずくまっていたため持っていた金平糖をやると喜んで食べた。どこから来たのか尋ねると「北から」と答えた。これから南を目指すと言うので肩に乗せていった。気づけば彼は消え、以来会うことはなかった。

**海に囲まれたところ **

ずっとここにいるので、外に出たらどんなものがあるかを私は知らない。波が打ち寄せる砂浜で毎日水平線をみているのだけど向こう岸があるということも最近知った。教えてくれた小人はある日、流木に乗ってやってきた。旅の話をきかせてもらって、私もいつかここを出たいと思った。

** 雨の日**

ひどく土砂降りの日だった。大きな大木の下に腰掛けて一休みしていると、声がした。小さな人がわたしを見上げていて、大丈夫ですかと問いかける。ええ、としぼりだすようにして返した。小人はそれから何もいわなかったけど雨があがるまでそこにいてくれた。……こんな奥にまできてしまった。帰り道を探そう。

** 南の国**

もともと此処には国はなかったんだけど、ほんの数百年前にポポロ・パルスタイという人が小さな集落を形成してそこから発展したという。もう久しく未開拓な土地というのは銀河を除いてなくなってしまったので、その物語をきくとひどく心動かされてしまう。はるか低層にある始まりの土地、それを今日も夢に見る。

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