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Bon Joviはすごい!〜ハードロック・ヘヴィーメタル雑語りへの反論〜:オジ&デス対談第8弾 Vol.4

 Vol.3では、いわゆる「ロキノン系親父」的なロックファン男性の多くがハードロック/ヘヴィーメタル(以降、HR/HMと略す)のことをろくに知りもしないで、非常に雑にディスっているという話などをしていますが、今回はそういうロックファンが逆に評価しているグランジ・オルタナティブ系のバンドとHR/HMバンドの音楽性の類似や変遷について、どちらも好きで聴いている人間だからこそ言えることなどを話しています。

共鳴できるバンド/共鳴できないバンド

デス:でさ、NIRVANA(ニルヴァーナ)の日本盤のライナーノーツでNIRVANAのメンバーが好きなバンド・共鳴できるバンドと、逆に嫌いなバンド・共鳴できないバンドっていうのがわざわざ紹介されてんのね。前者がSOUNDGARDEN(サウンドガーデン)とかThe Smashing Pumpkins(スマッシング・パンプキンズ)とかDinosaur Jr.(ダイナソーJr.)とかSonic Youth(ソニック・ユース)とかで、後者は、Guns N’ Roses(ガンズ・アンド・ローゼズ、以降「ガンズ」)とかSKID ROW(スキッド・ロウ)とかMötley Crüe(モトリー・クルー、以降「モトリー」)、Van Halen(ヴァン・ヘイレン)みたいな、いわゆる80年代的なHR/HMバンドなんだけど、グランジ・オルタナ系で例外的に後者に入ってるのが、Pearl Jam(パール・ジャム)。

オジサン:グランジなのに…。なんか仲間外れみたいですね。

デス:でも、NIRVANAのメンバーは、メタルでもMETALLICA(メタリカ)は良いって言ってて、単にそれを真似してたりするのか、日頃はHR/HMを馬鹿にするロック親父たちも、メタリカのことは別格扱いしてディスらない。あとNIRVANAと仲が悪かったガンズのことさえも、ガンズの特異な立ち位置から、例外的に「あり」みたいになることが多い。

オジサン:なんか「スラッシュ(ガンズのギタリスト)はあり」みたいな雰囲気がありません?あの辺のロック親父って?

デス:そうだね。

オジサン:スラッシュって、あの辺の親父がそこそこ評価してるミュージシャンと一緒に演ったりとかもしてるから、スラッシュのことはあんまりディスりたくないなみたいのがあるんですかね。

デス:あと、ガンズの曲調だよね。いわゆる80年代HRの典型である明るくキャッチーなコーラスと厚いハーモニーとか、ギラギラしたメタリックな音色のギターとキラキラしたシンセサイザーが入って、洗練されて作り込まれたサウンドでメロディアスで〜みたいな感じじゃないから。音楽的にはルーツロックやパンクの影響もあって、グランジ・オルタナ好きの人たちに素直に好かれる要素もなくはない。あとは、ガンズのメンバーが結構早い時期からグランジ・オルタナ勢に目をつけてて、ガンズの前座から頭角を現したバンドも結構いるんだよね。そういう繋がりもあるから、なんかガンズのことは特にディスりたいと思わない、みたいな。

オジサン:好きなバンドの先輩だから、ってことですか?

デス:ミュージシャン自身もそうだけど、ファンが勝手に忖度してるところもある。

オジサン:そういうところは、日本の年功序列社会みたいですね。HR/HMよりも、お前らの方が男尊女卑とも相性良さそうだぞ、みたいな気がしますね。

デス:だから、70年代からのHR勢とガンズとメタリカくらいは良いけれども、他はほとんどダメだ、みたいな区分けになってるね。でも、じゃあメタリカが良くて、SLAYER(スレイヤー)とかAnthrax(アンスラックス)とかMegadeth(メガデス)がダメな理由は何ですか?って訊いても、彼らはろくに聴いたことないから答えられない。
せいぜい悔し紛れに「いや、でもメタリカは、メタルの枠に収まらない音楽をやってるじゃないですか?ブラックアルバムで“脱メタル“を図ったり」とか言うくらいなんだよ。でも、そんなことはメガデスとかアンスラックスとか他のバンドだってやってるわけよ。バンドによってはメタリカより早かったりする。
 それに今挙げたようなスラッシュメタル勢だけじゃなくて、Bon Jovi(ボン・ジョヴィ)やモトリーやスキッド・ロウだって変化してるし、それらとちゃんと聴き比べて、なおメタリカの変化だけが特別に素晴らしいって、あなたは自分で聴いて判断したんですか?って話なわけだけど、もちろんそんな真面目なことはしていない。結局それ、突き詰めると、「NIRVANAはメタリカのことは一目置いてるらしい、だから俺たちも一目置こう」っていう感じか、単にNIRVANAのメタリカ評をコピぺしてるだけなんだよね。
 
(編集註:ブラックアルバムは、メタリカの5枚目のアルバムで正式名称は『メタリカ』。真っ黒なところにMETALLICAのロゴと蛇のイラストのみというジャケットから「ブラックアルバム」と呼ばれている。)

オジサン:…困った人たちですね。

デス:いい加減でしょう? 

オジサン:ボク、そこまでいい加減だと思ってなかったんで、結構衝撃を受けました。っていうか、NIRVANAも何を考えてそのリスト出してんですかね。

デス:いや、NIRVANAがリストを出したんじゃなくて、多分NIRVANAがインタビューとかで語ったことを誰かがリスト化してライナーノーツに載せたってことだと思う。

オジサン:ライナーノーツを書いたやつをここに引きずり出して、正座させて半日ぐらい説教しましょう。

デス:(笑)。
 
(編集註:ライナーノーツを書いたライターは、『クロスビート』系のひと。なお、デスによるとクロスビートはrockin’ on=ロキノンと似た路線の雑誌)


スラッシュの写真を見るヴェノちゃん

有害無益な種類の「ロック語り」

デス:それでもね、あのライナー全体は相対的にマシに感じるくらいなんだよ、そこら辺の量産型ロック親父の寒い語りと比べれば。

 オジサン:確かにそうなんですけど、でも、ああいうの本当によくないですよね。だって、ファンの中には、もともとそこでディスられたようなバンドも好きで、かつNIRVANAも好きっていう…まあボクらもそうですけど、そういうファンも沢山いるわけじゃないですか。自分の好きなアーティストが、自分の好きな別のアーティストをディスってんのとか、まあそんなに楽しくはないし、なんか自分はこのディスられてるバンドのことをずっと好きだから、この人たちの音楽が理解できないのかなとか、なんか不安になったりしてもおかしくないじゃないですか。まあ、ぶっちゃけ、ボクは「こんなこと言っちゃってんだ、ははは」みたいな感じで、軽くスルーしたりとか「この辺のバンドは仲悪いんだな、あはは」みたいな感じで済ませるような気もしますけど。

デス:でも、真に受けるひともいるでしょ?彼らも真に受けさせたくてわざわざ言ってんだから。

オジサン:はい。ちょっと居心地悪くなってもおかしくないですよね。真に受けてほしくないなら、わざわざ言わなければいいわけじゃないですか。それをわざわざ書き連ねるのって、「ネタ無罪」とばかりにふざけて人の悪口を言ってるだけなので、それはそれで問題ですよね。あと、NIRVANAのファンと話す時には、この辺のバンドのことを褒めると、バカにされたりするのかなとか、考えちゃいます。それ、誰得なんですかね。

デス:そこが、オレの中高生の時の情報源の少なさの話(Vol.3参照のこと)につながるんだけど、例えばね、普通のディスクレビューとかだけ参考にするのに物足りなくなって、自分の好きなバンドが影響を受けたバンドとかリスペクトしているバンドとかを辿って聴いたりもするじゃんね。

オジサン:そうですね。 

デス:その逆で、自分の好きなバンドがこんだけバカにしてるんだったら、まあ、しょうもないのかなーとかね。 

オジサン:自分が好きなバンドと相容れないバンドであれば、自分の趣味とも相容れないかなと単純に考えて、まぁ、聴かなくていいかなとか思いますよね。 

デス:そう。だから、やたらとそういうミュージシャン同士、ジャンル同士の対立を煽るようなことは良くないよね。でも、ロキノンみたいに、ミュージシャンのそういう言動をやたらと面白がったり、ありがたがる連中がいるわけだよね。海外でも、例えばガンズとNIRVANAの確執みたいなのは、当時はすごいゴシップネタにされてたって話だし。ちょっと後のイギリスだと、Oasis(オアシス)とBlur(ブラー)の対立とかさ。まあ、誰と誰が揉めてるみたいなのを書くと、おそらく売れるんだろうね。さらに、日本のメディアの場合、欧米のミュージシャン本人に強く抗議される心配とかもあまりないせいか、無責任にそういうのを垂れ流してきたわけだよ。 

オジサン:日本語だと流通する範囲が狭いですからね。 

デス:それで誰か幸せになったの?って思う。音楽評論業界・メディア業界のやつらはそれで雑誌とかが売れて幸せな思いをしたかもしれないけども、それ以外の人たちは誰も幸せになってない。有害無益でしかない。それなのに、未だにそういうものに乗っかってる奴らね。 

オジサン:まぁ割と左翼に多い気がしますね、そういうロック親父って。 

デス:そうそう。ロック業界自体が基本的に左寄りだからね。 

オジサン:ああいうひとたちって、ロキノンとかの有名なライターと同じような価値観を持って同じようなことを言っている自分っていうのを、そういうライターと同じぐらい音楽のことがわかってる立派な人間である、そういう人たちと肩を並べられる音楽に詳しい人であるっていうふうに、なんか自意識が肥大してんのかな〜みたいな印象がありませんか。 

デス:カッコいいと思ってんのかね。そんな「俺は宇野維正(うのこれまさ)みたいな奴なんだ!」とか「俺はタナソー(田中宗一郎)とキャラ被ってんだよ!」っていうことをSNSを通して世界中に発信したところで、それ別にカッコついてないじゃんね。 

オジサン:超恥ずかしいですよね…。「東京の女の子、どうした?」おじさんとして有名な宇野維正ですからねぇ。

(編集註:宇野氏は1970年生まれの音楽評論家だが、2019年7月24日にZepp DiverCity Tokyoで行われたJanelle Monáeジャネール・モネイのライブについて「今夜のジャネール、一つだけ気になったのは、女の子のお客さんが想像より少なかったこと。女の子にとって一番大切なことを全身で表現してる人だと思うんだけど。何より最高に美しいし、かわいいし、かっこいいし。東京の女の子、どうした?」とツイートして大炎上した。一見、無邪気なツイートではあるが、女性のリスナーを「女の子」呼びすること、「女の子にとって一番大切なこと」を中年男性が偉そうに語る態度、そして「東京の女の子、どうした?」というパワーワードが組み合わさったこともあり、「マンスプレイニング(男=manが女性に対して、女性がものを知らない前提で偉そうに解説explainすることを指す言葉、日本語ではマンスプと略されることも多い)」として批判された。また、宇野氏は映画評論家の顔も持っているのだが、同じ2019年の春に公開された『キャプテン・マーベル』『バンブルビー』について「テキトーにグランジ・オルタナかけたり、リック・アストレーをディスっとけばいい、みたいな選曲」などと、全く事実に当てはまらないことをツイートしている。なお、『キャプテン・マーベル』はマーベル初の女性ヒーロー単独主演映画であり、『バンブルビー』はどちらかと言えば「男の子向け映画」であるトランスフォーマー・シリーズ初の女性主人公作品である。こういったことを考え合わせてみると、宇野氏が無自覚に女性(や女性向けとされるもの)を見下していると判断されるのは当然の帰結である。なお、宇野氏は「自分のツイートが批判されるとすぐに相手をブロックするマン」としても有名である。)


トランスフォーマー(バンブルビーじゃないけど)

NIRVANAとヘビメタ

デス: そもそもね、NIRVANAのメンバーでも、ドラマーのデイヴ・グロールは、00年代にProbot(プロボット)っていうサイドプロジェクトの企画盤みたいなものを出してて、収録されている曲ごとに違うミュージシャンと共演してるんだけど、その共演者っていうのが、Napalm Death(ナパーム・デス)とかCathedral(カテドラル)のリー・ドリアンとか、Möterhead(モーターヘッド)のレミー・キルミスターとか、Sepultura(セパルトゥラ)、Soulfly(ソウルフライ)のマックス・カヴァレラとか、Venom(ヴェノム)のクロノスとかKing Diamond(キング・ダイアモンド)とか、ちょっとマニアックなんだよね。メタルを本格的に聴いてないと思いつかないような人選だから、メタル嫌いではないよね。 

オジサン:むしろメタル好きそうですよね。 

デス:しかもデイヴはね、アクセル・ローズ(ガンズのVo.)が骨折したときにステージ用の特注の椅子を貸してあげたりもしてんだよ。だから、今となってはカート・コバーン(NIRVANAのVo.)以外のメンバーとガンズの間にそんなに深刻な確執ってあったのかな?みたいな感じなわけだよね。イベントでデイヴ・グロールはじめFoo Fighters(フー・ファイターズ)のメンバーとBon Joviのメンバーが仲良く一緒に写真を撮ってたこともあったし。 

オジサン:ボク、ちょっと一つ聞きたいんですけど、カート・コバーンがHR/HMをディスってたっていうのは、どのぐらいディスってたんですかね。なんかちょっとディスった発言をメディア側がことさらに大きく報じてたってことだったりするんですかね? 

デス:そういう側面も大いにある。 

オジサン:やっぱり…。実際には、HR/HMを何から何までディスってたわけでも、そっちこっちで四六時中ディスっていたわけでもないてことですよね。 

デス:オレ、日本のメディアが訳した、海外でのカート・コバーンのインタビューの再録みたいなやつとか結構読んだけれども、確かにモトリーとかPoison(ポイズン)とか、いわゆるLAメタルとかヘアメタルのことははっきりとディスったけれども、それ以外のスラッシュメタル系とか、もしくはIron Maiden(アイアン・メイデン)みたいな正統派のメタルをディスっているところは目にした記憶がない。つまり、カートが嫌っていたのはHR/HMのごく一部のバンドだと思われるんだよね。その一部が80年代に凄く売れてたメンツだから、一部ではなく全体に見えるかもしれないけど。だからオレは、そのグランジ・オルタナvs HR/HMみたいな対立構造自体がだいぶ偽物っぽいと思ってんだよね。 

オジサン:やたら記憶力がいいデスのひとがそういうとなると、ますます、メディア側が面白おかしく、対立構造を作って煽った結果みたいなことなのかなって気がしますね。さっきのデイヴ・グロールの話とか考えても…、音楽の趣味が全然違うやつと同じバンドなんてできないと思いますし。 

デス:あとね、カート・コバーンは「初めて行ったライブはBlack Flag(ブラック・フラッグ、アメリカのパンクバンド)だ」と公言していたけれども、実はSammy Hagar(サミー・ヘイガー、一時期ヴァン・ヘイレンのVo.だったこともある)だったことが後からバレてるわけだよ。 

オジサン:ヴァン・ヘイレンでさえなくて、サミー・ヘイガーって、けっこうメタル好きそうな感じしますよね。 

デス:ね。だとしても、まあ、そんなもんでしょ。別にサミーが初ライヴでも全然おかしいことだと思わないけども。むしろ隠す方がおかしいし、そもそも生まれて初めてのライヴがブラック・フラッグのようなアンダーグラウンドのバンドなのも不自然だよね。 

オジサン:アメリカのライヴ事情(チケットの値段や販売方法)について全然知らないのでなんともいえませんけど、まぁ、「90年代にロック界に革命をもたらしたカート・コバーンの人生初ライヴがブラック・フラッグ」っていうのは、ちょっと「出来すぎた話」ですよね。


デスが引っ越してきたときのカオス

「グランジ・オルタナ革命史観」に対する疑義①
〜オーバーグラウンド編〜

デス:うん。でね、さっきも言ったけど、グランジ・オルタナって、パンクなんかと同じで、ある種の革命に喩えられるって話もしたけど、本当に「革命」というほどに、それ以前の時代との断絶があったのかっていうことをもう少し詳しく話してみたいのね。革命と言ったらさ、それ以前にあったものを倒して更地にして、地馴らしして、新しいものを打ち立てるものなわけじゃん? 

オジサン:まあ、そうですね。その上で、革命の後に粛清が続くみたいな感じですからね。 

デス:でも、オレは、その革命史観みたいなのをすごく疑問に思ってるんだよね。って言うのも、まずそのグランジ・オルタナ・ムーブメントがどう起きたのかってことを、順を追って簡単に説明すると、一応、ムーブメントの“ビックバン”が起きた地点ってのは、1991年のNIRVANAの「Nevermind」ってアルバムだと言われている。 

オジサン:ロック史における重要作として頻繁に名前が挙がるアルバムですよね。

デス:うん。同じ年には、パール・ジャムも「Ten(テン)」でデビューしてるし、他にも色々とグランジ・オルタナ時代を代表する作品が出てるんだけど、最初の起爆剤になったのはNIRVANAだと言われてる。NIRVANAのNevermindによって、あのロンドンパンクから十数年遅れで、アメリカでも独自のパンク革命が起った、と。 

オジサン:ロンドンパンクはいつ頃でしたっけ?

デス:ピークは1977年だね。だから、今言ったように、10年以上遅れて、アメリカにもついに本当に新しいムーブメントがやってきた、みたいに捉えられた。それは、80年代のきらびやかでハリウッド的な装飾の施されたロックではない、所謂「プリミティブなロック」であり、パンク的なラディカリズムと、60〜70年代のロックが持っていた豊かな音楽性を復権させる、新しくもあり古くもあるムーブメント、みたいな感じ。 

オジサン:そのハリウッド的っていうのは、ショービジネス的なってことでいいですか?

デス:そうそうそうそう。で、この歴史観を率先して広めたのが、まあ、日本だとロキノンとかそれと似た音楽観の一部メディア、そしてそういったものを読んで喜んでる連中なんだけどさ。 

オジサン:またロキノンですか…(笑)。
 で、デスのひとは、その歴史観に納得いかない、と。

デス:確かに、80年代っていうのは、どっちかというと、ショーアップされた、エンターテイメントとしてのクオリティが高い音楽っていうのが売れた時代ではある。まあ、アメリカのHRならBon Joviとかモトリーとかヴァン・ヘイレンとか復活後のAerosmith(エアロスミス)とかJourney(ジャーニー)とかだよね。イギリスだったら、Def Leppard(デフ・レパード)とかね。あと、HR以外ならDuran Duran(デュラン・デュラン)とか。さらにロック以外だったら、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)とかMadonna(マドンナ)とかCyndie Lauper(シンディ・ローパー)とか、いかにも煌びやかなエンターテイメント性に溢れるプロフェッショナルな音楽という感じで、ミュージックビデオで流すとビジュアル的にも映えるアーティストが多かった。

オジサン:前にも話しましたけど、そういう見栄えのするアーティストが売れていたというのはMTVの登場とも関係あるでしょうね。

デス:うん。たださ、これが80年代も後半になると少しずつ変わってくる。オジサンもBon Joviとか聴いてるからわかると思うけど、Bon Joviも「New Jersey」ぐらいからはちょっと泥臭い感じになってきてるんだよね。

オジサン:泥臭い感じ? 

デス:それまではシンセサイザーがキラキラした感じで都会的なHRだったのが、「New Jersey」ぐらいからは…、聴きやすさはそのままにしつつ、同じキーボードでもシンセサイザーよりオルガンやピアノが増えたりとか、いわゆるアーシーな感じで… 

オジサン:生の伝統的な楽器っぽい感じ、ってことですよね。現代的な電子楽器ではなくて。 

デス:そうそう。あと、ゴスペル風の女性ボーカルのバックコーラスが入ってたりとか、ハーモニカを効果的に使ったりとか、アコースティックギターの比重が増えたりとか。Homebound TrainとかWild is the WindとかRide Cowboy RideとかStick to your Gunsみたいにアメリカ西部や南部を思わせる曲なんかも入ってくる。 

オジサン:イメージ的には、西部劇っぽい感じですよね。

デス:うん。Bon Joviの場合は、New Jerseyを境にそういう音楽性の変化が見られるし、バンドのビジュアルとか演出の面でもちょっとカウボーイやバイカーっぽい要素が増えたんだよね。Wanted Dead or Aliveみたいにそれ以前にもそういう要素のある楽曲はなかったわけじゃないけれど、「New Jersey」以降は全体的にそういう泥臭さを見せるようになった。 

オジサン:言われてみれば、確かにシンセサイザーのキラキラ感はなくなってきてますよね。

デス:ちなみに同時期にモトリーも似た変化を見せているんだけど。で、さっきの「New Jersey」が発売された年(88年)は、ガンズがメジャーデビューから一年かけてファーストアルバムを全米1位にまで押し上げた年でもあるんだよね。ガンズも、モトリーと同様にロサンゼルス出身で、見た目も華やかではあるんだけど、一方で、ヒラヒラした衣装っぽい服とかは着てなくて、デニムとレザーと破れたTシャツといった感じで、もっとシンプルでストリート上がりっぽい雰囲気がある。先の変化後のボン・ジョヴィやモトリーよりも、ガンズはさらにそのストリートっぽさを素でやってるようなリアリティがあって。で、さっきも話したように、ガンズは音楽性も、凄くプロデュースされて作り込まれたものじゃなくて、もっとラフで野性味に溢れてる。
 それまでのHRの延長線上にありつつ、従来のHRとは一味違う…もっとロックの原初的な部分を取り入れたサウンドになってるんだよ。例えば、初期のエアロスミスとか70年代のThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)とかが持ってたような…

オジサン:さっき言ってた「プリミティヴなロック」ってヤツですね。 

デス:そうそう。で、ガンズと同じぐらいの時期にデビューしてるのがCinderella(シンデレラ)で、その2年後ぐらいにExtreme(エクストリーム)やスキッド・ロウもデビューするけど、スキッド・ロウは簡単に言うと、ガンズの路線にJudas Priest(ジューダス・プリースト)のようなヘヴィさを取り入れた感じだよね。で、シンデレラもガンズと同様にそれまでのHRよりもブルースの要素を特徴にしてるし、エクストリームはファンキーな要素を取り入れてる。
 要するに、80年代後半にデビューしたHRバンドは、ルーツ・ミュージックやルーツ・ロックやその直系の音楽、いわば70年代のロックバンドのような音楽をHR/HMをベースにして再構築していたわけだよ。
つまり、後のグランジ・オルタナに繋がるアンダーグラウンドだけでなく、メインストリームやオーバーグラウンドでもそういう古くて新しい音楽の変化は起っていたというね。 

オジサン:なるほど。HR/HM勢の中でも、それまでの80年代的とされる音楽とはちょっと違った風合いの音楽にシフトチェンジしていくバンドや、違ったことをやる新しいバンドが出てきたりしてたわけですね。

デス:そうそうそう。

オジサン:ところで、ボク、シンデレラって、名前もなんか“シンデレラ”って感じだから、もっとキラキラしてるイメージがあって、実はあんまり知らなくて。最近初めてちゃんと聴いてみたら、割とストレートなロックというか…

デス:どっちかと言うと、ちょっと華やかなAC/DC(エーシー・ディーシー)みたいなね。

オジサン:そうです、そうです。なんかちょっと名前とギャップがあってビックリしました。

デス:そうなんだよ。うちらの世代とかそれ以降の世代からは、もうシンデレラって見た目とバンド名だけで多分軟派な音楽って思われてるところがある。

オジサン:またああいうのが出てきたんでしょ?みたいな扱いになっちゃってたような感じがしますよね。ボク自身もあんまり知らなかったし。あ、あと、念のために言っておくと、デスの人もれっどさん(珈音のこと)も80年生まれです(編集註:ちなみにオジサンは2011年生まれです)。

デス:そうそう(笑)

オジサン:話してる内容には、後追い情報も結構あって、リアルタイムでそういうのを全部知っていたっていう話じゃないですよ。

デス:(笑)。

「グランジ・オルタナ革命史観」に対する疑義②
〜アンダーグラウンド編〜

デス:で、話を元に戻すと、グランジ革命史観の人たち、ロキノン親父的な人たちに言わせると、80年代に表(オーバーグラウンド)では進化と無縁で虚飾に満ちた薄っぺらいロックもどきが流行ってる時に、アンダーグラウンドではブラック・フラッグとかソニック・ユースとか、それに触発されたようなバンド…Melvins(メルヴィンズ)とかダイナソーJr.とかPixies(ピクシーズ)とか、そういうバンドが“あの来たるべきグランジ革命”に向けた地馴らしをしてたみたいなことになってる。

オジサン:ロックの進化に何の貢献もしてない売れ線バンドがちゃらちゃらしてる間に、アンダーグラウンドの彼らがコツコツと下地を作っていたんだ、みたいな? 

デス:そうそうそうそう。ほどほどに売れ始めてたRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、以降「レッチリ」)とか、Jane’s Addiction(ジェーンズ・アディクション、以下「ジェーンズ」)とかFaith No More(フェイス・ノーモア)とかも、メインストリームとされる音楽とは違うことを色々とやっている人たちだった。シアトル勢の長男坊で後に大スターになるサウンドガーデンも、デビューEPを出したのはガンズのデビューと同年の87年だし。
そういう人たちがね、グツグツと情熱をたぎらせながらアンダーグラウンドで革命への準備をして、そして91年にNIRVANAの「Nevermind」をきっかけに、ついにマグマみたいにそれらが一気に噴き出した、みたいなストーリーになってる。 

オジサン:「ついに爆発したのだ」「そして驚異的な地殻変動が起きたのだ」みたいな…

デス:うん。それはあの時期のロックの歴史の一側面としては正しいけど、その一方で、オーバーグラウンドでもルーツ回帰やクロスオーバー的な新しい動きが出てきていたわけで、その点で、オーバーかアンダーかを問わずにある意味で似たような現象が同時に起きてたと言える。これはまたあとでさらに説明したいと思ってるけど。 

オジサン:まあ連動してるわけですよね。

デス:例えば、今さっき名前を挙げたソニック・ユースなんかは、典型的なアンダーグランドっぽいバンドだったよね。パンクとかアバンギャルドの系列のバンドだから…。

オジサン:そうなんですね。ボク、バンド名しか知らなかったです。

デス:でもね、その一方で、ブラック・フラッグはパンクバンドだけれども、HR/HMの元祖であり象徴でもあるBlack Sabbath(ブラック・サバス)の影響を積極的に取り入れているのが特徴なんだよ。パンクバンドでありながら、サバス的な重さを取り入れてるところが画期的だった。このパンク・ミーツ・ハードロックみたいな発想って、その後のグランジ・オルタナのバンド群を語るうえでも大事なポイントになってる。シアトル勢で最初にそれを模倣したのが、おそらくメルヴィンズなんだけど…、グランジの元祖と呼ばれているバンドだよね。

オジサン:あ、そうなんですか。

デス:そうそう。で、さらに後輩シアトル勢のサウンドガーデンとかNIRVANAみたいなバンドが「パンクとHRの融合というのは、これは新しいな」っていうことで、先輩のメルヴィンズとかに追従するようになった。と、まぁ、すでにここでもHRが絡んできてるわけだよ。

オジサン:なるほど。グランジ・オルタナ革命の下地を作った人たちの中で、すでにHRとの融合というのが起こっているってことですね。ちなみにブラック・サバスは、あのモスクワ・フェスにも出演していたオジー・オズボーンがいたバンドですよね。

デス:そうそう。あと、先に名前を出した、これまたグランジ・オルタナの先駆的なバンドの一つとされるダイナソーJrは、アンダーグラウンドやパンク周辺のバンドの間では時代遅れとされていた長々としたギターソロをいち早く取り入れてんだよね。

オジサン:じゃあ、けっこうHRっぽいじゃないですか。

デス:うん。

デスのCD棚
「バットホール・サーファーズってバンド名はどうなんですか〜?」と呆れるオジサン

メインストリームとアンダーグラウンドの中間にいたバンドたちとHR

デス:それで、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドの中間ぐらいにいたのが、レッチリとジェーンズとフェイス・ノー・モアかな…もうちょっと売れてたバンドだとLiving Colour(リヴィング・カラー)とか。当時の彼らはBon Joviやガンズみたいに米国だけで軽く1000万枚とか売れるようなバンドではなかったけど、ソニック・ユースとかメルヴィンズのように完全にアンダーグラウンドでもなかった。MTVでも結構かかってたよね。実際、レッチリなんかは、まあまあ昔からいたイメージあるでしょ?

オジサン:はい、ありますね。 

デス:で、この辺の人たちっていうのは、特に初期の作品を聴いてもらったら分かるけれども、ギターのスタイルとかは割と80年代のHR/HMっぽいのよね。

オジサン:あんまり違和感なく聴いてましたね。だって、レッチリのUnder the Bridgeとか普通にメタルバンドのアルバムに入ってても驚かないじゃないですか。 

デス:そうそう、更に、それ以前のFight Like a BraveとかHigher Groundとか、ああいうコーラスとかめっちゃモトリーとかエアロスミスの曲にあってもおかしくなさそうだよね。ドラムなんかもオーバーグラウンドのメジャーなつくりの音なんだよね。いわゆるリバーブ(エコー効果)が効いてるようなドラムの音っていうか。ジェーンズやフェイス・ノー・モアやリヴィング・カラーも割とそういう感じ。実際、ジェーンズのギターのデイヴ・ナヴァロはモトリー好きだから。 

オジサン:一時期、レッチリでもギター弾いてたひとですよね。

デス:ちなみにそのジェーンズは、かの有名なオルタナ時代を象徴するロラパルーザっていうツアー形式のフェスを始めたバンドなんだよ。ロラパルーザは、1991年の第一回目からジェーンズの他、Nine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)とかリヴィング・カラー、Ice-T & Body Count(アイスT・アンド・ボディーカウント)、Butthole Surfers(バットホール・サーファーズ)、Rollins Band(ロリンズ・バンド)など、いわゆるオルタナ時代を代表するバンドだけでDIY的にはじめたツアーで、全部で7、8組ぐらいのミュージシャンたちが全米を一緒にツアーして回るっていう…。二回目以降からもっとメンツも豪華になっていって、ミュージシャンの人種やジャンルも多様だった。

オジサン:あ、そういうものだったんですね。名前だけ超知ってました、ロラパルーザ。

デス:そうそう。ジェーンズのボーカルで中心人物のペリー・ファレルがその提唱者なんだよ。第一回から10年くらい経って、ペリー・ファレルの手を離れてからのロラパルーザはだいぶ変質しちゃったようで、ペリーは嘆いてたけど。で、さっきも言ったように、そのオルタナの元祖的なバンドのジェーンズのギタリストはモトリーのファンでもあるわけだよ。実際、デイヴ・ナヴァロがいたときのレッチリのアルバムはHR色が強かったでしょ?

オジサン:『ワン・ホット・ミニット』ですよね。確かに他のアルバムよりHRっぽいですね。

デス:そう。ヘヴィーな感じで。

オジサン:それ、れっどさんが買ってますし(編集註:珈音の家ではオルタナ系を買うのはどちらかと言うと姉の方だった)。

デス: でしょ?『ワン・ホット・ミニット』の評価についても、色々と言いたいことあるんだけど…

オジサン:まあ、なんか…、割とディスられてるっていうイメージが…。

デス:当時は失敗作扱いだった。でもまあ結論から言うと、あれはすごい名盤です。

オジサン:名盤ですよね!

デス:そう!

オジサン:やっぱりあれってHRっぽかったらディスられてるんですかね。

デス:あと、レッチリにしてはダークとかヘヴィーとか?レッチリってのは、もうちょっと…

オジサン:能天気?

デス:そうそうそうそう。

オジサン:なるほど、じゃあすみません。話が逸れてしまったので、戻していきましょう。

(編集註:なお、『ワン・ホット・ミニット』の発売当時の邦題は『レッチリの電撃ワープ』である。さすがにふざけ過ぎな気がしなくもないが、レッチリがどんなバンドとして日本で認識されていたのかを知る上で参考になるだろう。)

=Vol.5に続く=


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