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24_小道のかくれ湯 -鉄輪すじ湯温泉(鉄輪)-

 ある冬の夜、鉄輪の温泉街を友人と歩いていた。夜になると、あちこちから昇る湯けむりがいっそうくっきり見える。道路の排水溝からもけむりが出ていて、真下に来るとやや熱い。

 むし湯広場から筋湯通りを下る途中で、湯屋を見つけた。鉄輪すじ湯温泉というらしい。ちょうど2人組の女性が出てきたところだった。今日もあったまったわねえ。湯冷めしないうちに早く帰りましょ。すれ違いざまに会話が聞こえた。この日は少し風の強い日だった。僕と友人は緩んだマフラーをきゅっと巻きなおし、そのままバス停へと向かった。


 平成、令和と気づいたら冬が二度まわっていた。令和三年、本格的に入湯印を集めるようになり、鉄輪の湯に入る機会を探っていた。調べてみると、どうやらすじ湯ではシャンプーや石けんは使用禁止とのこと。どこか別の温泉で、一度身体を洗った後に入りに来るのが良さそうだ。

 十月中旬の休日、ようやくすじ湯に入るべく、鉄輪へやってきた。まずはすぐ近くの熱の湯で身体を洗う。(熱の湯の記事はまた後日。)
 では改めて、鉄輪すじ湯温泉。塩化物泉。ジモ泉。入り口の扉を開けると、目の前には神棚があり、入湯印もそちらに見つけた。男湯は右側で、簡易的に作られた木の柵を抜けると、小さめの浴槽が床に埋めこまれている。浴室と脱衣所がすぐ目の前にあるのは、よく見る光景だった。浴槽まわりの石床が全く濡れていない。先客はだいぶ前のようだ。熱の湯は多くの人がいらしたから、こちらは独泉で静かにいただく。

 確かに壁には、「石けん・シャンプーはおことわり」の文字がある。どうやら、他の共同温泉と違い、水が出ないからとのこと。つまりは源泉のみ。それでも、先客が入ってからだいぶ時間が経っていたのだろうか、熱の湯ほど熱くなく、ややぬるめに感じた。そのおかげで、途中で上がることなくじっくり浸かれる。今日は秋晴れで天気も良く、外から差し込む光がちょうど良い。休日を存分に楽しんでいると実感する。どうしても観光地となると、共同温泉のような場所は入りづらい。この辺りはいくつもの共同温泉があるものの、多くが組合員限定で、一般の人たちが入れる温泉は数が限られている。だからこそ、誰でも気軽に入れるすじ湯は、これからもずっと地元の人にも観光客にも愛される場所であってほしい。

 そんなことを考えていると、ガラガラと扉の開く音が聞こえた。

 女湯の方に声が動いた。そっと、あがる準備をはじめた。


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