見出し画像

宅建士試験合格講座 8種制限 > 所有権留保等の制限・担保責任についての特約の制限

第8節 所有権留保等の制限

 「所有権留保」とは、不動産の売主が、売買代金担保のため、売買代金の支払いがあるまでは売買物件の所有権(実際は登記)を自らに留めおくことです。
 買主としては、登記を移転してもらわなければ完全な所有者となれないので一所懸命に代金を支払います。したがって、代金債務の担保としては有効なものです。しかし、買主にとって所有権留保は大きな危険を伴うので、宅建業法は、所有権留保を原則として禁止します。
 もちろん、売主に対して、「不動産は無担保で販売せよ」といった無茶なことを要求するわけではありません。何も担保となる物がないような場合は、例外として所有権留保も認められています。

① 原則 … 宅建業者は、自ら売主となる割賦販売等の売買を行った場合には、物件を買主に引き渡すまでに、登記その他の売主の義務を履行しなければならない。
② 例外 … ただし、次の場合はこの限りでない。
 (a) 買主の支払った金銭が、代金の10分の3を超えないとき
 (b) 買主が、所有権の登記をした後の残代金の支払いを担保するための抵当権や先取特権の登記申請に協力せず、残代金を保証する保証人をたてる見込みもないとき

 「提携ローン付き売買」とは、買主が売買代金を銀行等から借り入れ、そのローンの支払いを宅建業者が保証するものです。
 所有権留保の禁止を脱法するための譲渡担保も同様に禁止します。例外は上記②と同じです。「譲渡担保」とは、一旦権利を買主に移転するが、その後、債権の担保のために売主に権利を戻す形で設定される担保です。たとえば、Aが不動産をBに譲渡し、その後BがAに譲渡することによって、Aが当該不動産の登記を取得する場合などです。
 この場合、一旦権利を移転することで、たしかに所有権留保ではなくなるが、結局所有権留保と同じ効果をもたらすので禁止するのです。


第9節 担保責任についての特約の制限

 購入した宅地や建物が、種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合に、買主は売主に対して目的物の種類・品質に関する契約不適合責任(担保責任)を追及することができます。民法上は、この契約不適合責任は任意規定であるため、「売主は契約不適合責任を負わない」とする特約も有効です。しかし、宅建業者が自ら売主となり、宅建業者でない者が買主となる宅地や建物の売買については、買主である一般消費者の利益を保護するために、宅建業法は、原則として、民法に規定するものより買主に不利となる特約をすることができないこととしています。


■ 1 民法の規定

 まず、民法の規定を確認しておきます。民法によると、売買の目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合、買主には、売主に対する次のような請求権が認められます。

① 追完請求権(たとえば修補請求など)
② 代金減額請求権(①による履行が追完されない場合に行使できる)
③ 損害賠償請求権(売主に帰責事由がある場合に行使できる)
④ 契約の解除権

 なお、③を除き、売主に帰責事由(故意または過失)がなくても請求権を行使することができます。
 ただし、売主が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合に、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、上記①~④の請求権を行使することができません(売主が引渡しの時にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときを除く)。


■ 2 特約の効力(原則)

宅建業者は、自ら売主となる宅地建物の売買契約において、その目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
これに反して買主に不利な特約は無効となる。


■ 3 買主に不利な特約であっても有効となる場合(例外)

宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地建物の売買契約において、その目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、買主が契約不適合を売主に通知すべき期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約は、買主に不利となる場合であっても、有効である。

 たとえば、買主が契約不適合を売主に通知すべき期間について「目的物の引渡しの日から2年間」とする特約は、有効です。このような特約がある場合は、目的物の引渡しの日から2年を経過すると、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しても、契約不適合責任を追及することができなくなるので、民法の規定よりも買主に不利となるが、このような特約は有効とされます。
 なお、特約によって定めることができるのは、買主による通知期間であって、売主が契約不適合責任(担保責任)を負う期間ではありません。したがって、たとえば、通知期間が「目的物の引渡しの日から2年間」とされている場合、この期間中に契約不適合を売主に通知さえしていれば、引渡しの日から2年を経過した後でも、契約不適合責任(担保責任)を売主に追及することができます。

1. 買主が契約不適合を売主に通知すべき期間が目的物の引渡しの日から2年未満である場合に、特約は無効となる。
2. 契約が無効となった場合は、契約不適合の通知期間が「目的物の引渡しの日から2年間」になるわけではない。この場合は、民法の原則に戻るので、目的物の引渡しの日から2年を経過していても、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知すれば、契約不適合責任を追及することができる。

ここから先は

5,765字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?