すべては “あずかりもの”(だいしろー)

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【GOKIGEN Life企画(仮)】とは
毎月1日にGOKIGEN Nipponの代表 北原太志郎からコラムが発信されます。
そこで浮かんでくる問いのようなものを受けて、さらに他の寄稿者が発信をします。
ちょっとした文通のような、ご縁がつなぐ企画です。
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ふるさとである長野県下伊那郡松川町。
幼少期を数年過ごした後、すぐに東京に出て、都会での暮らしを30歳まで送った。
それでも心の奥底に、「いつかは帰りたい場所」として刻まれていたのを覚えている。

夏休みのたびに帰省すると、優しく迎えてくれた祖母。
暗くなるまで弟と一緒に野山を駆けまわり、虫をつかまえ、竹細工をして、囲炉裏に火をおこして楽しむ。
夜は祖母と過ごすゆっくりとした時間。
自分にとってかけがえのない大切な場所だった。

夫が亡くなり、息子や孫たちが東京に行ってからの20数年間、祖母は一人でこの家を守ってきた。
日々、どんな気持ちで過ごしていたのだろう。

30歳となった年に、私はふるさとへのUターンを決意した。
初めての祖母と二人きりの夕食の席。
「あんたはこの家の人、もうどこにも行っちゃいかんに。」
祖母から何かをお願いされることはこれまでなかった。
この一言は、深く私の心に刻まれた。

あれから10年が経った。
コロナ禍で家にこもっていた3カ月、毎朝生家の土地を歩き回ってみた。
こんなことをしたのは初めてだ。
田んぼ、畑、野原、竹林、ヒノキ林…毎日歩いては、日々変化していく自然と対話をしていた。
あるときふと気づいた。
「ここにある田畑も木々も草花もすべて、誰のものでもない」と。

ここにあるものはすべて何一つ自分が作り出したもの、生み出したものではない。
先人たちから、自然界から、たまたまこの時代この家に生まれ落ちた自分に託された「あずかりもの」。
誰かからあずかったものは大切にして、次の世に受け継いでいきたい。
そんな温かく優しい気持ちに包まれた。

20数年間、たった一人で家を守り続けてきた祖母の気持ちが、ほんの少しわかった気がした。


あなたにとっての「あずかりもの」は何ですか?


だいしろー

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