みんなが「え?」と思った話

大学には原付で通っていたのだが、ある日、諸事情があってバスで行くことになった。

時間帯的にもルート的にも乗っているのは、ほとんど大学生である。
その日はほぼ満員で、乗っているのは恐らくわたしと同じ大学の生徒だ。
○○大学前というバス停があるので、みんなそこで降りることになる。

バスは通常通り運行していた。
だんだん降りるべきバス停が近くなってくるのだが、誰も「降ります」のボタンを押さない。

なるほど。
チキンレースってわけか……。
じゃあ、オレも押さないゼ!

もちろん、そんなはずはない。
バスは目的のバス停を通り過ぎてしまった。
チキンレースだとしたら全滅である。
運転手も「え?いいんすか?」と思ったであろう。

車内に漂う「ざわ……。ざわ……」という雰囲気。

幸い、次のバス停はそう遠くない。
今度はすぐさまボタンが押された。

若人たちがぞろぞろ降車する。
はにかんだ表情を浮かべる者、憤慨した表情を浮かべる者、平静を装っている者と人それぞれだが、みな一様に来た道を戻り始めた。

恐らく全員が「なんで誰も押さないの?」と思っていただろう。
または「自分が押さなくても誰か押すでしょう」と考えていたはずだ。
わたしとしては「これはどうなるんだ?」という変な好奇心があった。

何度かバスで大学まで行ったが、後にも先にも通り過ぎたのはこの1回だけである。

なかなか不思議な体験だった。

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