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天国への扉

朝6時前に妻のベッドで、わが家の猫が逝った。妻の腕に抱かれて、臨終のもだえは3分とかからなかった。10日ほど前から、具合が悪そうによろよろ歩き回っていた。3日ほど前に札幌で1人暮らししている息子が、1週間ほどの予定で私たちのところに帰ってきたその日から、ご飯も水も摂らなくなった。血便がみられたので、あわててペットショップでペット用おしめを買ってきた。小型犬用しかなかったので、Amazonで猫用を注文した。猫用が届くまでは小型犬用ですませた。妻が必死の看病を続けていた。いよいよ全く自力で動けなくなり、前の晩に妻のベッドで、時々寝返りというか、体勢を変えてもらいながら寝んだ翌朝のこと。
泣いている妻に、硬直がはじまるからダンボールに入れなきゃと言って、押入れからちょうどいいサイズのきれいなダンボールを見つけて、座布団と毛布を敷き、猫を安置する。仕事を急に休めないので、7時過ぎに出勤する。急ぎ足で午前中にとりあえずの分の仕事を片付けて、午後から休暇を取った。帰る途中でスーパーに寄り、花束を買う。仏花と普通の花束のどちらにしたらいいか迷い、2つとも買って家に帰った。
ダンボールの中の猫を触ると、冷たく硬かった。目を開いている。何回もまぶたを閉じてみたんだけど、どうしても開いてしまうのと妻が言う。2つの花束を渡すと、妻は猫の頭の周りに飾った。タブレットで、住む街の「名前」と「火葬」「ペット」で検索して、火葬してくれるところを探した。「ペットの訪問火葬 天国への扉 ペットメモリアル」というところがいいようだと見当をつけ電話し、「立ち会い火葬 拾骨なし」というプランに決める。セレモニーやお骨上げはないが、訪問して個別火葬して返骨してくれる。妻の希望で、遺骨カプセルキーホルダーを頼んだ。翌日の午前10時に来ることになったので、仕事を明日休む旨、同僚に電話した。それから妻と息子と一緒に生前の猫の写真を選んで、コンビニでプリントし、100均でフォトフレームを買って遺影を用意したりする。
その日の夜は、妻と息子と私の3人で、20年一緒に過ごした猫の思い出話をして過ごした。夜も更け、妻の部屋のベッド横にダンボールを移動して、妻が猫の横で寝んだ。
翌日、午前10時に「天国への扉」のスタッフさんが訪問してきた。簡単に説明を受ける。猫が目を開いてるんですと言うと、猫ちゃんはどうしても開くんですと教えてくれた。猫の後ろ足の肉球に墨を塗り、台紙を押し当てて「足形」をとったものをもらう。近郊にペットの供養に熱心なお坊さんがいて、その方によるありがたい追弔文が書かれたA4サイズの紙を、三つ折りにして前足に挟みこんだ。紙の六文銭と守り刀を前足に引っ掛けた。お金は三途の川の渡し賃で、刀は天国の旅路の護身用との説明を聞いた。そして順番にお線香をあげ、冥福を祈った。それから猫はカゴに移され、外に停めたワンボックスカーに運ばれ、最後のお別れをした。私たちは集合住宅に住んでおり、庭先で火葬するわけにはいかないので、適当な場所に行って火葬するとのことで、車を見送った。家で1時間半ほど待っていると、猫は火葬され骨壷に入って帰ってきた。遺骨カプセルキーホルダーには歯を入れたとのことで、妻が受け取った。すべて無事に終わった。セレモニーなしのプランだったが、足型を取ったり、いろいろ持たせてもらったり、お線香をあげたりして、十分なとても良い見送る時間も持てた。かかった料金は火葬一式で22,000円、遺骨カプセルキーホルダーが1,300円。サイトで書かれていた金額どおりだった。
先に買った花は一緒に火葬したので、新たにまた買ってきた。花と遺影と足形と骨壷を小さなテーブルに載せ、LED電球で光るろうそくを左右に置いた。秘密を見せてねと妻が言いながら骨壷の蓋を開けて中を見る。小さいけど立派な頭蓋骨が一番上にあった。いつもなでていた頭の部分の骨がすべすべしていた。見送りが終わってすぐ息子は札幌に帰った。今回は猫を見送りに来たようなものだねと語り合った。
1つ前の猫の投稿「わが家の年寄り猫」に多くのスキとコメントをいただき、たいへんうれしかったです。いつもありがとうございます。すいませんが今回は、コメント欄を閉じさせていただきます。

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